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騎士団と受付嬢

ギルドの空気は、相変わらずだった。

街では

「最近この街、平和だよな」

「依頼も事故らないし」

と評判なのに――

「なあ、見たか?」 「またあの受付嬢だよ」

「冒険者をじーっと睨んで」 「口、動かしてたぞ」

「大丈夫か、あいつ」 「そのうち刺されるんじゃね?」

冒険者たちは笑う。

カウンターの内側。

ナミは、依頼書と冒険者を交互に見ながら、

小さく呟いていた。

「……前衛、三人……」 「でも、盾役いない……」

「……この編成……」 「たぶん……」

もちろん、誰にも聞こえない。

「おい」 「今、俺のこと見てただろ」

「ひゃっ!?」 「ち、違います!」

ナミは慌てて頭を下げる。

「す、すみません……!」

「変なやつだな」 「まあ、受付だし関係ねえか」

冒険者は肩をすくめて去っていった。

それが、

ギルド内でのナミの評価だった。

ドジ。

変。ブツブツ言ってる。

でもまぁ害はない。

そのとき。

ギルドの扉が、

静かに、しかし重く開いた。

――金属音。

鎧に身を包んだ男が、

一人で中へ入ってくる。

胸には、王都騎士団の紋章。

「……騎士団?」

ざわ、と空気が揺れる。


男は周囲を一瞥し、

カウンター奥へ声を投げた。

「いるだろ」 「バズ」


「……よく来たな!ウィリアム」

奥の部屋から現れたのは、

ギルドマスター――バズ。

二人は短く視線を交わす。

かつて同じ依頼を受け、

生死を分けた元冒険者同士だそうだ。

「王都から、よく来たな」 「騎士団が地方ギルドとは」

「噂を聞いてな」 「この街のギルド、

 やけに“うまく回ってる”って」

ウィリアムは、

意味ありげに笑った。


「偶然だ」 「運がいいだけさ」

バズは軽く流す。


ウィリアムは、

ギルド内を見回した。

冒険者。

職員。

そして――

もじもじと立つ、

一人の受付嬢。

ナミは、

きらきらした鎧に目を奪われていた。

「……わぁ……」 「ほんもの……」

「……でも……」

小さく、また独り言。


「……?」 ウィリアムは一瞬だけ、

眉をひそめるが、すぐに視線を戻す。

「本題に入る」

ウィリアムが差し出した依頼は、

誰が見ても厄介だった。

・魔獣討伐

・周辺調査

・複数拠点同時進行

・失敗すれば街が危険

「騎士団は規律重視」 「冒険者は自由行動」

「……噛み合わねえな」 バズが腕を組む。


「だからこそ、だ」 「このギルドなら何とかなると思った」


その瞬間。

冒険者側から声が上がる。

「待てよ」 「騎士団の指示通りに動けってか?」

「こっちは命張ってんだぞ」


ウィリアムは即座に返す。

「無秩序な動きは許されない」 「統制が取れなければ、全体が崩れる」


――空気が、冷える。


その裏で。

ナミは、依頼書を見つめながら、

小さく呟いていた。

「……順番……」 「騎士団が先に動くと……」

「……ぶつかる……」


もちろん、

誰も聞いていない。


こうして。

規律の騎士団と

自由な冒険者。

最初から噛み合わない、

ややこしいクエストが動き出した。

ギルドの誰も、まだ知らない。

この混乱の行き着く先で、

また一人の受付嬢が

“何もしていない顔”で

奇跡を起こすことを。

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