騎士団と受付嬢
ギルドの空気は、相変わらずだった。
街では
「最近この街、平和だよな」
「依頼も事故らないし」
と評判なのに――
◆
「なあ、見たか?」 「またあの受付嬢だよ」
「冒険者をじーっと睨んで」 「口、動かしてたぞ」
「大丈夫か、あいつ」 「そのうち刺されるんじゃね?」
冒険者たちは笑う。
◆
カウンターの内側。
ナミは、依頼書と冒険者を交互に見ながら、
小さく呟いていた。
「……前衛、三人……」 「でも、盾役いない……」
「……この編成……」 「たぶん……」
もちろん、誰にも聞こえない。
◆
「おい」 「今、俺のこと見てただろ」
「ひゃっ!?」 「ち、違います!」
ナミは慌てて頭を下げる。
「す、すみません……!」
「変なやつだな」 「まあ、受付だし関係ねえか」
冒険者は肩をすくめて去っていった。
◆
それが、
ギルド内でのナミの評価だった。
ドジ。
変。ブツブツ言ってる。
でもまぁ害はない。
◆
そのとき。
ギルドの扉が、
静かに、しかし重く開いた。
――金属音。
鎧に身を包んだ男が、
一人で中へ入ってくる。
胸には、王都騎士団の紋章。
「……騎士団?」
ざわ、と空気が揺れる。
男は周囲を一瞥し、
カウンター奥へ声を投げた。
「いるだろ」 「バズ」
「……よく来たな!ウィリアム」
奥の部屋から現れたのは、
ギルドマスター――バズ。
二人は短く視線を交わす。
かつて同じ依頼を受け、
生死を分けた元冒険者同士だそうだ。
◆
「王都から、よく来たな」 「騎士団が地方ギルドとは」
「噂を聞いてな」 「この街のギルド、
やけに“うまく回ってる”って」
ウィリアムは、
意味ありげに笑った。
「偶然だ」 「運がいいだけさ」
バズは軽く流す。
ウィリアムは、
ギルド内を見回した。
冒険者。
職員。
そして――
もじもじと立つ、
一人の受付嬢。
◆
ナミは、
きらきらした鎧に目を奪われていた。
「……わぁ……」 「ほんもの……」
「……でも……」
小さく、また独り言。
「……?」 ウィリアムは一瞬だけ、
眉をひそめるが、すぐに視線を戻す。
◆
「本題に入る」
ウィリアムが差し出した依頼は、
誰が見ても厄介だった。
・魔獣討伐
・周辺調査
・複数拠点同時進行
・失敗すれば街が危険
◆
「騎士団は規律重視」 「冒険者は自由行動」
「……噛み合わねえな」 バズが腕を組む。
「だからこそ、だ」 「このギルドなら何とかなると思った」
その瞬間。
冒険者側から声が上がる。
「待てよ」 「騎士団の指示通りに動けってか?」
「こっちは命張ってんだぞ」
ウィリアムは即座に返す。
「無秩序な動きは許されない」 「統制が取れなければ、全体が崩れる」
――空気が、冷える。
その裏で。
ナミは、依頼書を見つめながら、
小さく呟いていた。
「……順番……」 「騎士団が先に動くと……」
「……ぶつかる……」
もちろん、
誰も聞いていない。
こうして。
規律の騎士団と
自由な冒険者。
最初から噛み合わない、
ややこしいクエストが動き出した。
ギルドの誰も、まだ知らない。
この混乱の行き着く先で、
また一人の受付嬢が
“何もしていない顔”で
奇跡を起こすことを。




