続 ドジっ子受付嬢
最近、この街では一つの話題で持ちきりだった。
「ここのギルド、最近すごくないか?」 「依頼、全部うまく回ってるよな」
街の酒場でも、商会でも、
話題に上がるのは決まって――
冒険者ギルドの評判だった。
◆
「討伐の成功率、かなり高いですよ」 「怪我人も少ない」
ギルド職員の一人が、
帳簿を見て感心したように言う。
「この前、どこかの街のギルドが
魔獣に襲われて壊滅したらしいしな」
「それに比べて、うちは安定してる」
◆
冒険者たちも口を揃える。
「依頼の割り振りが、妙にちょうどいい」 「パーティーの相性も悪くない」
「運がいいギルドだよな」
◆
カウンターの内側。
ナミは、いつものように
もじもじしながら立っていた。
「え、えっと……」 「こ、こちらが依頼書です……」
紙を差し出す手が、少し震える。
◆
「ありがとう」 「助かるよ」
そう言われるたびに、
ナミは小さく頭を下げる。
「よ、よかった……」
自分が何をしているのか、
本人は分かっていない。
◆
それを、
少し離れた場所から見ている人物がいた。
妹――エリーだ。
◆
(……また、だ)
依頼を受けた冒険者の組み合わせ。
出発する時間。
向かう場所。
どれも、
“ちょうどよすぎる”。
(偶然にしては……)
エリーは、
ノートを閉じて小さく息を吐いた。
◆
だが、確信はなかった。
証拠もない。
説明もできない。
だから――
ナミには、何も言わない。
「ナミ」 「ちゃんと休憩とってる?」
「ひゃっ!」 「だ、大丈夫……!」
◆
そんな中。
ギルドに、一通の依頼が届く。
難易度――特S級。
街の外れに現れた、
大型魔獣の討伐。
◆
「これは……」 「正直、危険すぎる」
職員たちが、顔を見合わせる。
「失敗すれば、街に被害が出る」 「でも、断れない依頼だ」
◆
「受けるしかないな」
ギルドマスターが、
重く頷いた。
◆
問題は――
誰を行かせるか。
◆
その時。
ナミが、
カウンターの奥で小さく呟いた。
「……あ」 「この人と、この人……」
「……時間、ずらした方が……」
誰にも聞かれない、
いつもの独り言。
◆
結果。
・別件の依頼が前倒しで完了
・偶然、腕利きの冒険者が合流
・天候が急変し、魔獣の動きが鈍る
重なりに重なって――
討伐は、奇跡的な成功を収めた。
◆
「信じられない……」 「被害、ほぼゼロだぞ」
「運が良すぎる」
◆
ギルドは、称賛に包まれる。
「やっぱり、このギルドは違う」 「最近、調子いいよな」
◆
カウンターの内側で。
ナミは、胸を押さえてほっとしていた。
「……こ、怖かった……」 「でも……よかった……」
自分が、
また運命を大きくずらしたことも知らずに。
◆
エリーは、
その背中を見つめていた。
(……やっぱり)
(お姉ちゃんは――)
だが、その言葉は、
まだ胸の内に留めておく。
◆
誰も知らない。
このギルドの“急上昇”が、
一人のドジっ子受付嬢によるものだということを。
そして、
その力が――
まだ、ほんの一部しか使われていないことを。




