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前のギルドにはもういない受付嬢

この世界は、常に魔獣の脅威にさらされている。

王都には騎士団があり、

巨大な城壁と正規軍によって守られている。

だが、それ以外の街は違う。

地方都市や交易の街、辺境の集落――

それらの安全を支えているのは、

冒険者による魔獣討伐と、

それを統括する冒険者ギルドだった。

冒険者が機能しなければ、

街は守れない。

ギルドが機能しなければ、

冒険者もまた機能しない。

その街の冒険者ギルドで、

最初の異変が起きたのは、

一人の受付嬢がいなくなってからだった。

「……依頼、重なりすぎじゃない?」

受付職員の一人が、

帳簿を見て眉をひそめる。

「同じ時間帯に、同じ方面」 「しかも、討伐難度が高いものばかり……」

「調整は?」 「……した、はずです」

以前なら、

こうした配置にはならなかった。

誰かが声を上げていたわけではない。

だが、結果として

最悪の組み合わせだけは避けられていた。

数日後。

「支援物資が届いていません」

「倉庫番号が違います」

「依頼書の情報が古い」 「更新されていない」

小さなミスが、

次々と表に出始める。

会議室。

ギルドマスターと職員たちは、

重たい空気の中で帳簿を囲んでいた。

「失敗率が上がっている」 「冒険者からの不満も増えている」

「原因は?」

誰も、即答できなかった。

「……前は」

古株の職員が、

慎重に言葉を選ぶ。

「ここまで確認に追われなかった」 「書類も、自然と整理されていた」

「そういえば……」

別の職員が、

視線を落としたまま言う。

「前に、いたじゃないですか」 「ドジで……」

「独り言ぶつぶつ言ってて」 「よく謝ってた――」

「あのドジっ子」

「関係ない」

即座に、グラハムの声が被さる。

「仕事は遅かった」 「ミスも多かった」

「能力があったわけじゃない」 「偶然だ」

だが。

「偶然にしては……」

その先は、

誰も言葉にしなかった。

認めた瞬間、自分たちの判断が間違いだったと認めることになるから。

やがて、冒険者たちにも異変は伝わる。

「最近、依頼が噛み合わない」 「討伐が後手に回ってる」

「ここ、ちょっと危ないな」

一組、また一組と、

冒険者は静かにギルドを離れていった。

「他の街で登録し直す」 「ここは信用できない」

引き止める理由は、

もう、どこにもなかった。

冒険者が減る。

討伐が遅れる。

街の外れで、

魔獣の目撃情報が増えていく。

それでもギルドは、

崩れゆく歯車を止められなかった。

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