来たれ聖剣!いざ異世界へ
桜舞い散る4月、希望に満ちた高校生活、ある者は友と語らい、またある者は恋人を愛を語る。そんな華やかな景色の中にも"闇"がある。そして、それは最も陽の光に近い学校の屋上だった。
「テメェ、また裏で俺達の悪口言ってやがったな!?あぁ!?」
3人の不良が1人の生徒を囲んでいた。不良に囲まれている生徒は小柄で華奢な体型、不健康な肌の色に目の下には隈がある死神的な風貌をしている。
「ま、待ってくださいよ……! 僕は、そんなこと言ってませんよぉ……! な、何か証拠! 証拠とかあるんですか?」
小柄な死神少年は誤魔化すようにヘラヘラと笑みを浮かべ、必死に事実を隠そうとしている。
「あぁ!? 今更テメェの言うことなんか信じられるかよ!! なぁ孤宮ァ!!!」
孤宮……。孤宮 マモル。それがこの死神少年の名前である。マモルが陰で不良達の悪口を言っているのはもうこれで17回目である。
「え、ええっ!? そんな! 僕の言葉より、僕が悪口を言っていたと言う不確かな情報を信じるんですか!?」
マモルは驚いたような表情をするが、全て自業自得である。
「おい孤宮……お前マジで気に入らねえからよ……。もう殺して良いか……? なぁ……!」
不良の1人がニタニタ笑いながら懐からナイフを取り出す。
「え、えっ……? 冗談、ですよね……?」
これには流石にマモルも青ざめる。
「死ねこのクズ野郎がァアアア!!!!」
不良が思いっきりナイフを振りかぶったところで、マモルは不良の一人を突き飛ばして一目散に逃げ出す。普段は陰口しか言えないが具体的に命の危機に陥ると凄まじい行動力を発揮する。
「うわぁあああぁあああ!!!殺される殺される殺されるゥウウウウウ!!!!」
情けなく叫び教室に逃げ戻るマモル。ナイフで殺されそうになった恐怖に怯えながら授業を受ける。
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げる鐘が鳴り響くとマモルはクラスの友人(と勝手に思ってる人)達に大声で言う。
「でさぁ、僕、殺されそうになったんだよ!! ひ、人殺しなんて最低だよ!! これ、先生に言って、いいよね!!?」
早速不良達の悪口を言うマモルに、絡まれているクラスメイト達も辟易とした表情をしている。
「マモル君……ってさぁ、なんか、卑怯だし、男としてもカッコ悪いよね……」
クラスの女子達がヒソヒソと話しているのがマモルの耳に入ると、マモルは肩をすくめ大人しくなる。マモルも理解はしている。自分のやっていることがとても情けないことだと。
マモルは幼い頃から、物語の主人公やヒーローといった存在に憧れていた。しかし、主人公のように振る舞う程の勇気は無いが、中途半端に反抗したり悪口を言ったりする中途半端な勇気だけはある。そんな自分が嫌だった。とはいえ、ただ黙っているのも嫌だった。その結果として表に出るのが、どこか痛々しいちっぽけな反抗心なのだった。それが不良達にとっては、いや、マモルと関わる人達にとっては苛立つのだろう。
学校からの帰り道、マモルはトボトボと独りで歩く。この帰り道が自身が孤独であることが浮き彫りになる為、マモルにとっては憂鬱な時間だ。
「よお孤宮……」
自分の名前を呼ぶ声に振り返ると、そこにいたのは屋上の不良達だった。
「お前、また俺らの悪口言ってたらしいじゃねーか」
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「はあっ、はあっ……」
口の中にじんわりと不愉快な鉄の味が広がる。あんなに殴らなくてもいいだろ、と悪態を吐きながら自宅への帰路に着く。殴られはしたがかろうじて刺されなかったのは不幸中の幸いだろうか。
「ただいまー……」
自宅のドアを開け中に入るも、出迎えてくれる人はいない。マモルは地元を離れて高校に通っていた為、一人暮らしだった。孤独なマモルはガーゼや絆創膏を使って傷の手当てをすると、ふと思いつく。
「今度こそ、あいつらを堂々と倒す……!」
不良達への復讐を誓い、彼は早速行動に出る。それは通販で武器を買うことだった。ナイフにも勝てるような強い武器……それは、勇者の剣!
「えーっと、これかこれか?」
コスプレ用のアニメキャラの剣など、色々な商品があったが、マモルはある一つの剣が異様に気になる。おもちゃの聖剣、金色に輝く剣。これだ! と決めたマモルの行動は早い。千八百円の聖剣をポチッた。
ピンポーン!
瞬間、チャイムが鳴った。
「え?」
いや、いくらなんでも早すぎると思いながらドアを開けると配達員が立っていた。そう、マジで届いたのだ。いくらなんでもおかしいと思いながらも、マモルはすぐにダンボールを開け、聖剣を取り出す。
「重っ、えっ?これ、本物……」
おもちゃだと思っていた聖剣は重く、明らかに子供向けの玩具では無い。金色に輝く刀身は鋭く、明らかに切れ味が良さそうだ。
カッ!
何で本物が届いた? と思考を巡らせる間もなく、聖剣から眩い光が放たれる。
「う、うわァアアアーーーーーッ!?」
光に飲まれたマモルが目を瞑る。しばらく経過すると、何だか周りからざわざわと人の話す声が聞こえる。
「やった! ついに成功したぞ! この世界を救う、勇者の召喚に!!!」
一際大きい声が聞こえ、目を開けるとそこはまるでゲームの中のような、絢爛豪華な城の中だった。マモルを囲むように沢山の人々がいるが、まるでRPGの登場人物のような、中世の貴族服のような衣装を着た人達だった。
「あ、え、は? え、夢……?」
マモルはあまりのことに理解が追いつかない。しかしこれは夢ではなく現実。先程の一際大きい声の主が、再びマモルに話しかける。
「よくぞ来てくれた! 異世界の勇者よ! 私はこの"輝きの国"アウルムの国王、エドリックである! この世界を、よろしくな!!!」
玉座に座る王冠を被った老人は、ガッツポーズをして目を輝かせ、世界の命運を託してきた。
「え、ええーッ? え、あ、え……?」
まだ理解が追いつかないマモルだったが……。
「ま、任せてください!!!!」
断れない性格である。同じくガッツポーズをして国王からの頼みに答える。
こうして、マモルの異世界での生活が幕を開けるのだった。
言い忘れていたが、これは一人の半端者の少年が本物の勇者になっていく物語である。
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勇者召喚に際して、中には眉を顰める者達もいた。そして、玉座の間の端の方にいる一人の黒いフードを被った女性が小声で呟く。
「あれが勇者……? ありえない……!」
女性は唇をギュッと噛み、フードから覗く赤い瞳で勇者を睨む。




