最期のヒーロー
このお話は前編です。
中学二年生のユウは、病室のベッドに静かに横たわっていた。
外の世界から隔絶された空間で、ただ静かに時が流れる。訪れる人もなく、親は遠くで心配そうに見守るだけ。友達もいない。孤独と痛みが、まるで空気のようにユウを取り囲んでいた。
入院費は支払われている。けれどその冷たい数字だけが、ユウの現実の重さを示していた。
看護師が静かに流動食のトレーを運んできた。
「ユウくん、今日は少しでも食べられそう?」
ユウは小さく頷く。手は震え、スプーンを持つことさえも精一杯だ。体は思うように動かず、ベッドの上で身をよじるだけで息が切れる。
一口、また一口。味は感じるが、胸や肩にずっしりと重くのしかかる痛みに心も折れそうになる。
「…美味しくない」
「ダメだよ?ちゃんと食べなきゃ」
その声に、ユウは俯いたまま何も言えない。体だけではなく、心まで縛られているような感覚。意識ははっきりしているのに、体がついてこない無力感。涙がこぼれそうになり、そっと手でぬぐう。
「僕なんか……誰にも必要とされていなかった…このまま死ぬんだ……ここで…」
ユウはベッドの上で泣きじゃくった。思えばいつも友達に世話になっていただけで、次第に離れていった。
親は優秀な兄を溺愛し、ユウを見るたびにため息をつく。自分を見つめるその視線に、何度も胸が締めつけられた。
学校には好きな子がいた。唯一優しくしてくれた存在。車椅子を押してくれたこともあったが、些細な事故で怪我をさせてしまい、以来周囲からの接触を拒まれるようになった。心の中で何度も謝り続けた。
次第に学校へ行く気力も体力もなくなり、自宅で安静にする日々。体は弱り、心はひっそりと死んでいく感覚だった。
ある日、久しぶりに親戚のおじさんが手元に古びたゲーム機を持って見舞いに来てくれた。
小さな光を見つけた気がした。
「…やってみようかな」
画面にはドラゴンと勇者が描かれていた。見たこともない古いゲーム機。
「こんな古いゲーム…誰もやらないよな。みんな、僕のことなんか忘れてるだろうな…」
ユウは小さくため息をついた。
机の上に置かれたゲーム機を見つめながら、忘れ去られていく自分の存在を想像して、胸がぎゅっと痛む。
小さな決心とともに、スイッチを押した。
画面に広がったのは、見知らぬ森の風景。光と影の織りなす木々、ざわめく風の音。
「へえ……結構リアルだ…」
ユウの心は少しだけ弾んだ。しかし、胸の奥には、長年抱えてきた孤独と不安がまだ重く残っていた。
「……こんな世界で、僕は強くなれるのかな……?」
小さな声で自分に問いかける。手に握る剣はまだ存在しない。けれど、希望の匂いを感じた。
目の前に巨大なドラゴンが舞う。
「おお……すごい……迫力だ…!」
鼓動が早くなる。心臓が胸の奥で暴れる。
「君の願いを叶えよう。なんでも言ってみろ…」
画面に現れた文字入力画面に、ユウはそっと願いを打ち込む。
「優しい両親に恵まれて、強い体になって、ヒーローになりたい…そして親友が欲しい」
文字を打ち終えると、ユウは深く息をつき、ベッドに横になった。
「はあ…疲れた…でも…これだけで、少しだけ気が楽になった気がする」
その瞬間、部屋の空気がふっと変わった気がした。
頬を撫でる風に、ほんの少しだけ温もりを感じる。目を閉じれば、現実ではない感覚が、心をそっとほぐす。
次の瞬間、ユウの視界は白く染まり、眩しい光に包まれる。
気がつくと、自分は森の中に立っていた。
「……え、これ…僕……?」
腕も足も、自分の意思で自由に動く。
信じられずに拳を握ると、確かな力が手に伝わる。
「すごい……走れる…!」
心の奥底から湧き上がる感動に、涙が自然と頬を伝う。
これまでの痛みや孤独が、ほんの少しだけ薄れていく気がした。
「……夢じゃないよね…?」
ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
後日後編を投稿するので良かったら楽しんでくださいね。




