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ミッシングリンク~忘却と目覚めの街の中で~  作者: 砂山 海


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【第四章】第八話~逃げの一手~

涼香はきっと殺された。そしてまたモカに刺されるかもしれない。

そんな思いに苛まれた夏希は学校を休み続けた。そして母親に心配され、病院へと行く。

不意に差し込まれる記憶。ここに来た事があるかもしれない、そう夏希は思うのだった。

病院の帰り道、母親の車で紗枝と話すためバイト先の書店へと向かった……。

 帰宅すると私が帰ってきた事に母親は多少驚いていたけど、特に何も言わなかった。ご飯を食べるよう勧められたけど、とてもそんな気分にはなれなかったので「食べてきた」とだけ言うと自室へと籠る。

 着替えるのも面倒で、私はベッドに倒れ込んだ。そうしてもうどうにもできないことを悟り、目の前が暗くなる。

 涼香はきっと殺された。もう二度と会えない。だからきっとまたループが起こるだろう。

 でももし起こらなかったとしたら……。

 そんな想像が私をこわばらせ、ぎゅっと布団を握らせる。今まではループから脱したかったが、今は望んでいる。だってこんな現実、続けられない。

 でもそんなの、普通に生きていればみんな直面する問題だ。私だけが今まで特別扱いを受けてきただけで、次もあるとは限らない。でも、今まで起こってきたのだから今回もとどうしても願わずにはいられない。

「これからどうしよう……」

 思わず声に出したけど、当然答えてくれる人はいない。

 学校にはもう行きたくなかった。行っても意味が無いし、何の解決もできなさそうだから。もう凪もモカも和樹も黒岩も、どうにもならない。何とかできそうな雰囲気が無い。いやむしろ、涼香が失踪した事によりまたモカに刺されるかもしれない。

 前回の記憶がよみがえる。あれが起こればループはするのかもしれないけど、でもあんなに恐ろしいのは嫌だ。海に行って拉致された時に崖から落ちた事もあるけど、あれはもう途中で記憶が飛んだ。

 でもモカに刺された時はその後も少し意識があった。だから嫌だ。

 頼れるのはもう紗枝さんしかいない。でもどうやって会いに行けばいいんだろうか。

 前回もどうにもならなくなり紗枝さんに会いに行ったら、その帰りに何故か待ち伏せしていたモカに刺された。今回だってありうる。あの時は何でいたのかわからなかったけど、もしかしたらこの世界がループさせるために動いたのかもしれない。

 だから今回も、迂闊に外出したら同じ目に遭うかもしれない。

 でも、このまま家に引きこもるべきなんだろうか。それでループのトリガーが発動するのだろうか……。


「夏希、お医者さんに診てもらおう」

 一週間学校を休み続けた私はとうとう母親にそう言われた。

 具合が悪いから、気分がすぐれないから、学校に行くのが怖いから、もう外に出るのも怖いからと理由をつけて私は学校を休み続けた。最初は母親も怒っていたが、ロクに食事もせず日に日にやつれ暗くなる私にさすがに危機感を覚えたのかそう言ってきた。

 けれど正直、病院に行ってどうなる問題でもない。

 だから嫌だ嫌だと断り続けていたのだが、やがて母親が「どうしたらいいのよ」と泣き出したので仕方なく行く事になった。

 私は生まれてこの方、風邪だってほとんどひいた事が無い。だから病院なんて正直ほとんど行った事が無いので、気が乗らなかった。それでも母親がそれで安心するならと車に乗って一緒に葉守総合病院へと向かった。

「ねぇ夏希、その……涼香ちゃんの事なの?」

 向かってる最中、ハンドルを握りながらそう訊かれたので私はうなずいた。

「ニュースでも大きな話題になっているもんね。夏希は特に仲が良かったから、ショックでしょ。どこに行っちゃったんだろうね」

 私はまた無言でうなずく。そしてきっと事件は失踪ではなく殺人だとも知っている。でも言えるわけがなかった。

「いつか帰って来た時のためにも、夏希が笑顔で迎えてあげられるようにしないといけないんだよ」

 もうそんな時は来ない。

 私がじわっと涙ぐみ始めたので、母親はもう無言で運転した。


 葉守総合病院は市の中心からやや外れた所にある。かなり大きな病院で、名前の通り内科から外科まで幅広く、心療内科も入っていた。平日の朝でも駐車場はかなり混んでおり、母親が駐車するのに困っていた。それでも何とか場所を見つけて停めると、二人でゆっくりと中へと入る。

 自動をドアを二枚抜けると、そこは吹き抜けとなっており大きな窓口が右側に見えた。両側には大きなエスカレーターもあり、きっと奥の方にはエレベーターもあるのだろう。椅子と言う椅子には具合の悪そうな人や付き添いの人が座っており、座れなくて立っている人もいるくらいだ。売店やカフェ、たくさんの自動販売機も見える。

 総合窓口で母親が手続きを終えると、こっちだよと案内された。前方に進み、右に折れるといかにもな病院らしい白い廊下となる。車椅子を押されている人、忙しそうな看護師さん達、ストレッチャーで運ばれている人もいる。

 不意に頭が痛んだ。それはもう割れそうなほど痛く、思わず私はうずくまる。

「夏希、どうしたの? 大丈夫?」

 母親の声が遠い。痛みが強まり、思わず目を閉じる。明滅する光の中、私は以前見た白い廊下の記憶を思い出していた。


 私ここ、知ってる。来た事あるんだ……。


 いつの記憶なのかわからない。私がループを認識する前の記憶なのだろうか。和樹が花火大会の事故で入院した時にお見舞いに行ったが、その時は学校近くの藤病院という所だった。でもあの病院とは少し違う。

 じゃあ一体この記憶の私は何のために病院に行ったのだろう?

 誰かのお見舞いなのか、それとも私自身なのか、それはわからない。でもこの景色、見覚えがある気がする。もしかしたら選択肢によってここにもっと早く訪れるようになっているんだろうか。

 ここは来ないとならない場所なのだろうか?

「夏希、夏希? 大丈夫?」

 母親の声に私は我に返り、目を開ける。もう頭痛は止んでいた。しゃがんでいた私はふと周囲に母親だけじゃない気配を感じて顔を上げると、看護師さん二人が心配そうに私を覗き込んでいた。

「あ、うん、大丈夫」

 ゆっくり立ち上がると、三十代くらいのきつそうな看護師さんが私を見ていた。

「あの、もし体調が悪いなら呼ばれる前に横になる事もできますけど」

「いえ大丈夫です。すみません」

 私は頭を下げ、歩き始める。母親はなおも心配そうだったけど、もうあの頭痛は無かった。今はそれより選択肢によってはここに来る事もあるんだというのが得られただけでも収穫かもしれない。

 ただ、こんな所に来てプラスになるような事は無いと思うのだが……。


 診察の結果、私は軽いうつ病だと言われた。まぁそうだろう、当たり障りのない事ばかり言ったのだから。もしこれで親友が殺され、私はこれから友人に刺される未来が見える。世界はループして四月七日に戻ってしまうなんて言おうものなら、きっと緊急入院だ。

 薬局で薬を処方してもらい、家に向かおうとした母親に私はバイト先の書店に行きたいとお願いした。お医者さんから心の負担を減らすようにと私が言われていたので、母親も断ると言う選択肢が無かったのだろう、わかったとすぐに向かってくれた。

「じゃあ待ってるから」

「うん、ありがとう」

 書店の前で車から降りると、私はすぐに中へと入る。こうすればモカに刺される事もないだろう。車でなら早く逃げられるし、中に入れば安全だ。

「夏希ちゃん、どうしたの?」

 いつものようにレジの所で本を読んでいた紗枝さんが私に気付くなり、不思議そうに見てきた。普段なら学校のあるこの時間に私服で来れば、何かあったのかと思うのが普通だろう。

「学校には行ってなくて。少し、話したいんですけど」

「あぁ、じゃあ待ってて」

 紗枝さんはいつものように店長にレジ番を交代するよう伝えると、私と一緒に奥の事務所へと向かった。

「それで今回はどうしたの? ここに相談に来るって事はループしそうなの?」

 ソファで向かい合うように座ると開口一番そう訊かれたので、私はうなずいた。

「私の親友の涼香が失踪したとニュースでもあったけど、あれはきっと親に殺されている。私、多分その時間に家に行ったんです。大声で争う声、割れる音、涼香のお母さんが出てくれたけど別人のように殺気立っていて。その時はもう涼香の声が聞こえなくなってたんです」

「……なるほどね。状況証拠としては大いにありうるかも」

 沈痛そうな表情で紗枝さんがうなずくと、私は唇をかんだ。

「また私、救えなかった。いつも何でも話してって言ってるのに、今回も駄目だった」

「でも全く同じじゃないんでしょ? 小泉涼香との関係は少しは変わったんじゃないの?」

 酷く答えにくい質問だったけど、紗枝さんの前で嘘を言ってもしょうがない。私はゆっくりとうなずいた。

「涼香が私の事を好きだって、ハッキリわかりました」

「夏希ちゃん自身の気持ちは?」

「……私もきっと、好きなんだろうと思います」

 言葉にすると、より涼香への想いが強くなる。一方で涼香を失った喪失感も同じくらい襲って来た。

「それで二人は付き合ったりしたの?」

「いえ……涼香の気持ちを確認して、私がどう返事をするのか考えていたら涼香がごめんと言って逃げたんです。だからハッキリした返事をしていなくて」

「なるほどね。じゃあもし次があるなら、すぐに気持ちを伝えた方がいいのかもね」

 もちろんその通りだけど、上手くいくだろうか……。

「ところで話は変わるんだけど、夏希ちゃんはこれからどうするの? 確か前回はここに来た帰りに刺されたんだよね?」

「はい、だから今日は母親の車で来ました。表で待っててもらってます」

「そう、なら大丈夫だね。でもその先は?」

 少しためらった後、私は振り絞るように言葉を紡ぐ。

「正直刺されたくないんで、ずっと家にいます。このままもしループが起こるのだとしたら、終業式の日に起こるはずですし」

 私が記憶を持ってループするようになってから、冬を迎えた事が無い。だけど紗枝さんは以前言っていた、三月の終業式の日が終わればループしたと。消極的だけど、もうそれでいいと考えている。

「いいんじゃないかな。誰だって痛い思いをするのは嫌だろうから。それが例えループして悪夢のようであったとしても」

 紗枝さんは私の考えを肯定するように笑ってくれた。けれどすぐ、真剣な眼差しになる。

「でも、長いよ。その間、色んな事に苛まれるかもしれない。人間一生懸命に動いているうちは余計な事を考えないの。心に余裕が出来過ぎた時、不意に嫌な記憶や考えが溢れ出すものなのよ。特にみんなが何かをしている時にはね」

 その通りだろう。これから終業式まではおよそ五ヵ月くらいある。私が今まで一生懸命に未来を変えようと足掻いていた時間と同じくらいだ。その間ずっとモカに刺されたりする恐怖に怯えながら、同年代の子が学校に行ってるという劣等感に苛まれないとならない。何か見つけようと動こうにも、動けないだろう。

「そう、ですね。でも怖くて」

「それはもちろんわかってる。誰だって死ぬのは怖いからね。だから下手に出歩かない方がいい。夏希ちゃんの友達に刺される事もあるし、他の要因が夏希ちゃんを殺しにかかるかもしれないから。だから、次のループまではもうここに来ない方がいい」

 きっとそれは紗枝さんなりの優しさなのだろう。私は小さな笑みを浮かべてうなずく。しかしこれで最後かと思えば、もう一つ訊きたい事があったのを思い出した。

「あの、そう言えば今日私病院に行ったんです。普段風邪もひかないから病院なんて行かないんですけど、ふと既視感を覚えたんです。最近不意に挟まれる記憶と重なるようで。でも病院なんか行かないから、不思議で」

「色んな記憶が混じってるから仕方ないんじゃないかな。記憶を引き継げていない頃の行動の名残かもしれないし」

 随分あっさり終わらせるなと思ったけど、でも紗枝さんだってそれ以上は言えないのかもしれない。ただ、私だってこれが何らかの鍵なのかもしれないと思えば、紗枝さんにすがりたくもなる。

「でも、それは最近私の」

「それより夏希ちゃん、もし次にループしたら何に気を付けるの?」

 強くハッキリそう言われ、私は口ごもった。そうして少し考え、口を開く。

「もちろん涼香が死なないように。そして、互いの気持ちをハッキリ伝えたいです」

「だよね。だから覚えておいて。もう一度、いや二度でも三度でも当たり前にあるものに気付くようにして。きっとそれが正しい道を示すだろうから。当たり前の事をもう一度疑い、人の強さを信じた方がいいよ」

「人の強さ、ですか」

「弱ってから信じるのは難しいと思う。特に夏希ちゃんは周囲の人達がどんどん堕ちていくのを見ているから、なおさらだよね。だからもっと元気な時、色んなものを解決してみたらどうだろう。案外上手くいくかもよ」

「……紗枝さんはどうしてそんなに達観しているんです?」

 確か紗枝さんは今年で二十七のはず。でもそう思えないほど適切で、しっかりしたアドバイスと指針をくれる。

「それは夏希ちゃんよりもたくさんループを記憶してるからね。通算して二十年か三十年くらいは生きてる感覚だし、その間ずっと本を読んでいるからね。正直、もうこの書店の本は全部読み終えてる。何度も読んで飽きちゃったくらいだよ」

 苦笑する紗枝さんに、私は同じような顔をして深くうなずいた。


 帰宅してからの私は完全なる引きこもりだった。たまに病院に一緒に行く以外は家はおろか部屋からも出ず、ひたすら病院で処方された睡眠薬で寝続けた。

 最初はそれでも色々考えたり何かおかしなところは無かったか、あの時どうしたらよかったのだろうと考察を続けていた。けれど家にいて言ってしまえば二十四時間自由に過ごせるとなれば、一週間もしたら何も考えられなくなった。


 だって全て、仮定でしかないから。


 検証できないから。


 思考の限界に辿り着いた時、私はもうただ一日を過ごす事だけに意識を向けた。紗枝さんの言っていた通り、何もしていないとネガティブな思考に殺されそうになる。不安が昂れば、処方された薬を飲んで落ち着ける日々。

 カーテンは閉め切り、外の情報すら遮断する。スマホの画面には何月何日と表示されているけど、それを見る度にまだこんなに日があるのかと憂鬱になった。もうする事も無いし、食欲も湧かなければ動かないので身体も細くなったがお腹が出て、まるで地獄にいる餓鬼のよう。


 もう眠る事にも疲れた。


 一人でいるのが苦しくて、辛い。


 誰にすがれない、ただただ孤独。


 でもどうしてだろう、私は……。


 ……。


 …………。


 ………………あぁ。

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