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ミッシングリンク~忘却と目覚めの街の中で~  作者: 砂山 海


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【第四章】第三話~渚にて~

夏希達六人は海へと向かった。

天気に恵まれ、潮風に心躍りながらみんな海を満喫する。

黒岩がみんなの靴の番をしていたが、凪が黒岩を誘う。夏希はその恋を応援しようと和樹に交代するよう勧める。

そうして一人になった和樹、ほどなくして、夏希を呼ぶのだが……。

「いやー、やっぱり海は良いなー」

 海水浴場の最寄り駅で降りると、和樹が開口一番大きく伸びをしながらそう言った。私達は穏かに笑い合い、潮風を肌で感じていた。

 夏休み前、モカがみんなでどこか行きたいと言い出した時、私はすぐに夏休み前にみんなで海に行こうと提案した。もちろん反対は無く、みんないいねと盛り上がったのは予定通り。

 また黒岩ももっと前からどんなオーディションを受けるべきか涼香と相談する仲になっていた。これも私が取り持ったから。この辺は前回までの行動で間違っていないと思ったからそうしただけ。

 モカは意識して付かず離れずの関係を維持している。あまり仲良くなるとまた逆恨みされるかもしれない。本当は仲良くなるべきなのかもしれないけど、正直どのくらいの距離感が適正なのか見極めたくもある。

 和樹に関しては今まで気付かなかったけど、よく観察すれば確かに私を意識している言動がある。それは何気ないけどふと私を見ていたり、会話していても私に話を振る事が涼香達に比べても多い。

 でも、正直そのくらいだ。直接私にアプローチしてこないから、これで告白となれば突然過ぎる。和樹本人からすればきっと色々していると思っているのかもしれないけど、私からすれば何もされていないに等しい。

 これで告白してOKをもらえると思っているのなら、さすがにどうかと思う……。

 ともかく、ここまでは何事も無く過ごす事が出来た。問題はここからだ。

「とりあえず海の近くまで行こうよ。波打ち際ならそんなに濡れないよ」

「いいね、気持ち良さそう」

「涼香入るの? 私はスニーカーだから、遠慮しておくよ」

「えー、凪も一緒に入ろうよ。靴下脱いで、後で拭けば大丈夫だってば」

「俺は海に入る気無いから、靴の番してるよ」

 わいわいと話しながら海岸通りを歩けば、色んな出店が私達を出迎える。浜焼きの匂いがとても美味しそうで、お昼ご飯を食べてきたというのに食欲を刺激して仕方ない。人が相変わらず多く、海水浴場は遠目からでも混雑しているのがわかった。

 砂浜に辿り着くと、サンダルを履いている私と涼香、モカが熱い熱いとはしゃいでしまう。和樹はそれすら楽しんでいるようだ。そうして波打ち際に行こうと提案された私達は小走りで向かう。

「うわー、気持ちいい。熱い砂から解放されて最高」

 和樹の言う通り、熱砂を超えて波打ち際まで行けば、すぐに足首まで波が訪れた。冷たい海水、流される砂の感触、照りつける太陽何もかもが心地良い。海に来たんだと言うのをこれでもかと教えてくれる。

 そんな私達を見て、凪も靴を脱いで駆け寄ってきた。

「ほんと、すごく気持ち良い。あー、この足元の感触が変な感じ」

「あはは、夏希面白い顔になってるよ。モカも」

「だってだって、久々だし。いやもう、くすぐったいの弱いんだよね」

「黒岩君、入らないの? 交代するよ」

 凪が少し離れた黒岩に声をかけるけど、黒岩はゆっくりと首を左右に振るばかり。ここは凪のアシストをしてあげたら夏休み明けも落ち込まないのかなと考え、私は和樹の肩を叩いた。

「和樹、黒岩と代わってあげなよ。男同士の友情、でしょ」

「マジかよー。でもまぁ、そうだな。おーい黒岩、代わってやるよ。お前も入れ」

「いや、俺はいいから」

「黒岩君、一緒に遊ぼう。気持ちいいからさ」

 凪がそう呼びかけると、黒岩が苦笑しながら準備を始める。そのタイミングで和樹が海から出た。

 それにしても凪、やっぱりみんなで海に来たからなのか積極的だ。確か前も黒岩が好きだと言ったのも海に来た時だし、こんなにも積極的に誘うのはいつも大人しい凪にしては珍しい。


「おーい夏希、暇だからちょっとこっち来てくれよー」

 十分ほど過ぎた頃、和樹がそう言いながら手を振ってきた。何だか可哀想だし行こうかなと振り向けば、涼香が私に抱き着いてきた。私は驚き涼香を見ると、いたずらっぽい顔で笑っている。

「夏希はもうちょっとこっちで預かってるから」

「和樹ごめんねー、まだ夏希は渡せない」

 するとモカも私に抱き着いてきた。思わぬ形に驚いていると、気を利かせた凪が和樹の方へ一歩歩き出した。

「まだいいって」

 すると黒岩が凪の手をつかんだ。それに気付いたのは多分凪と私だけ。相変わらず涼香とモカは私を挟んできゃあきゃあ言っているし、和樹は早く来いと急かしている。

「んー、ちょっと言ってくるよ」

 このままだと凪がそれでもと行きそうだったので、私が和樹の方へと歩き出した。涼香とモカは不満気だったけど、誰かが行かないとならない。ここは折角凪と黒岩が勇気を出し合っているのだから、それを見守りたかった。

「何よ和樹、そんなに淋しかったの?」

 私がゆっくり和樹の傍に近付くと、そう言いながら腰を下ろした。焼けた砂がお尻を熱くさせるけど、先程まで海で遊んでいたからかまだ耐えられる熱さだった。

「だってよー、みんな楽しそうにしてたらしょうがないじゃん」

「まぁ、それはわかる」

 並んで座って涼香達を見れば、もう私が抜けた事を忘れたかのようにはしゃいでいる。確かにここから一人でみんなを見ていると、若干疎外感を抱くのは否めない。

「でもさ、海っていいよな。夏希、ありがとな」

「え、何が?」

「いや、海に行きたいって言ってくれてさ」

 照れ笑いを浮かべる和樹に私は小さく笑い返した。

「まぁ、夏と言えば海だからね。でもほんと、来て良かったよね」

 遊ぶ涼香達の後ろには水平線が見えるほどの海。どこまでも青く、夏の陽に波間が輝いている。寄せては返す波音に心がその揺りかごに乗せられ、海風が非日常ながらも懐かしさを想起させる。この景色を見ているだけで、ここに来て良かったとさえ思う。

「あのさ、夏希。俺、お前に言いたい事があるんだ」

 少し声のトーンを落とし和樹がそう声をかけてきた途端、私はその続きを察知した。これはもしかして、来るのだろうか。時間や場所が違うけど、みんなと離れて二人きり。これがトリガーなのだろうか。

「俺、お前の事が好きなんだ」

 あらかじめわかっていたけど、やはりこう直接言われると変な感じになってしまう。

 今回、ループしてから和樹の言動を今までよりよく見ていた。確かに和樹は私に対してそういう感情を持っているな、そう言う気持ちで接しているんだなというのがわかった。でもそれは結局、言われてみればそうなんだ、告白されたから改めて注目してみるとわかったというレベルで、そうじゃなければわからない。

「そう、なんだ。私、そう思われてるってわからなかったから、何て言っていいのか……」

 嘘をつくのは良くないとわかっているけど、ここはリアリティを持たせたかった。きっと私が和樹に好意を持たれているとわからなければ、この告白は唐突過ぎる。さすがにこれじゃあ、好きになれない。

「そ、そうなんだ。俺、実はずっと気になっていて。だって夏希優しいし、ノリも良いし、一緒にいて楽しいから前向きになれるんだ。それに、可愛いし」

「そうなんだ」

 面と向かってそう言われると気恥ずかしい。でも、それだけだ。正直、それ以上の気持ちがこの告白で生まれてこない。きっと私は和樹との恋愛関係になる事なんか無いのだろう。

「それでその、もしよければ俺と」

「何て言ったらいいんだろう……今までそう言う風に見た事が無かったし、正直告白も突然過ぎて。でも和樹は大切な友達だから、傷付けたくないってのが正直なとこかな。恋人とかはまだ、考えられないよ」

 一番怖いのはやっぱりここで和樹が離脱する事。それにより負のループが発生する事だった。だから私はまた曖昧な言葉で濁し、ズルいとは思うけど決定的な言葉を言えない。

「あ、そうか、そうだよな。うん、そうかも。なんか変な事言って、悪かったな」

「あ、いや、いいの。ちょっとまだわからなかっただけだから」

 和樹はすっくと立ち上がる。そうして海に向かって走り出した。

「おーい、俺も海に入るぞー」

 そんな和樹の背を見ながら、私は自分の答えの正解を探るけど見つけられないままだった。


 結局前回同様に不審者は現れず私達は大いに海を堪能した。みんな笑顔で、でもたっぷりと背負った疲労に帰りの電車では二言三言の感想を言い合いながらぼうっと、時にうつらうつらしながら家路へと着く。

「それじゃ、またね」

 私と涼香はみんなと別れると、いつもの駅で降りた。気怠さが私達を包んでいるが、楽しい思い出がいっぱいだ。私はもう疲れていたから真っ直ぐ帰ろうと思ったのだが、前回ここで涼香が不機嫌になって一悶着あったのを思い出す。

 だから私は改札を抜けるとすぐに涼香の方を向いた。

「あのね。ちょっと話があるんだ。いいかな」

 涼香が不思議そうな顔をしながらも、うなずいた。私は周囲を見回し、どこか適当な場所は無いかと探す。

「疲れたから少し休みながら話そうか」

「いいけど」

 私達は駅近くにあるチェーン店のハンバーガーショップに入ると、ドリンクを注文してから席に座った。ここはいつだって子連れ、学生達で賑わっている。話し込むのには向いていないけど、今はとにかく一刻も早く話しておきたかった。

「それで話って?」

「あー、うん……今日さ、和樹から告白されたんだよね」

「え、いつ?」

 涼香が驚き、大きく目を開く。その声に私は驚き、もう少し音量を下げてもらうよう手でジェスチャーをすると涼香が慌ててうなずいた。

「ごめん、ちょっとビックリしちゃって。え、もしかして海に来てすぐ、二人きりで砂浜にいた時?」

「うん、そう。急にね」

「それで返事はしたの?」

「したはしたけど、まぁやんわり断った感じかな。だって今までそんな風に思われてるなんて思ってなかったし、直接そういう素振りも無かったし、さすがに無理だよ」

 私は大きく溜息をつき、オレンジジュースを一口飲む。

「別に和樹の事が嫌いだとか気持ち悪いだとか、そういうんじゃないの。ただ、あまりに急でさ。涼香だって思い当たらないでしょ、和樹が私に直接アプローチかけてるとこ」

「まぁ、確かに。よく夏希に話を振るなって程度かな。それだって夏希が上手い事反応するからなんだろうなって程度で見てたけど」

「でしょ。本人に幾ら好意があったとしても、直接伝えてくれないとさ。急にそんなのすっ飛ばして告白なんかされても、逆にって思うよね」

「うん、そうだね」

 涼香がふっと視線を落とし、うなずいた。

「まぁ、そういうアプローチされたとしても付き合う気は無かったけどさ」

「私も夏希と和樹が付き合うっての、ちょっと考えにくいなぁ」

 私が笑い飛ばせば、涼香もどこか申し訳無さそうに小さく笑う。

「わかってると思うけど、秘密だからね。涼香だから言ったんだからね」

「それはもちろん」

 涼香が大きくうなずいたのを見て、私はどこか安心する。涼香は約束を破らない。だからこそ何でも話せる。涼香もそれは承知しているからこそ、二人の関係は成り立っていると言っても過言じゃない。

「で、涼香は何か海であった?」

「え、いや何も無いよ。みんなでずっと一緒にいたじゃない」

「いやほら、私と和樹が二人になっている時に四人で何か話してたのかなって」

「何も無いってば。本当に普通にはしゃいでいただけ。いや実は私もね、途中から和樹が夏希に話を振らなくなったなってちょっと不思議に思ってたんだ。いつもならからかい交じりに話すのにって。だから何かあったのかなとは思ってたけど、まさかね」

 やはり涼香は勘付いていたんだ。これは話して正解だったかもしれない。

「そっかー。まぁでも、私は話したからね。涼香も私に隠し事は無しだからね」

「うん、わかってる」

 そう言いながら涼香はそっと飲み物に口をつけた。

 私は今日もうこれ以上、込み入った話をする気にはなれなかった。海に行って疲れたし、涼香から決定的な引き出しも無かったからだ。これで無理してあれこれ訊き出そうとすれば、きっと亀裂が入る。

 それはループに関係なく、長い付き合いからの判断だった。

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