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ミッシングリンク~忘却と目覚めの街の中で~  作者: 砂山 海


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【第三章】第一話~三周目~

目覚めると自分の部屋に夏希はいた。三周目のループ世界が始まったのだ。

それでも夏希は先程までの恐怖の体験に身をこわばらせる。けど、すぐに次の対策を考える。

学校が終わると、夏希は紗枝に会いにバイト先へと向かった。

紗枝と話していれば、きっと何か新たな発見があるかもしれないから……。

 まるで鮮明な悪夢を見ていたかのように、私は目を覚ますなり恐怖で胸を締め付けられた。そしてキョロキョロと辺りを見回す。

 ここは私の部屋。転落する車の中じゃないし、落ちた先でもない。けれどつい先ほどまでの衝撃や浮遊感、痛みなどが記憶されており私は身体を丸めて布団を握りしめた。

「ループ、したんだ……」

 一か八かの賭けだった。でもあそこで何もしなければきっと私達、無残に犯され殺されていたかもしれない。そんな体験を回避できただけでもよしとしよう。

 ただ、やはり死を目前とした恐怖は拭い難く、冷や汗が止まらない。

 ゆっくりと布団から身体を離し、とりあえずスマホを見る。四月七日の午前六時。間違いない、私はこれで記憶している限り三周目に突入したんだ。前々回は皆が駄目になって絶望していたらループが起きた。今回はきっと死んだから。

 しかし、幾らループできるとはいえこういうのはもう体験したくない。何度もしていたら気が変になりそうだ。

 呼吸が次第に落ち着くと、私は何がいけなかったのかと考える。もうループしたからといって動転なんかしない。落ち着いて、前回の行動の反省をする必要がある。

 そもそも海に行ったから駄目だったのだろうか。まぁ確かに海へ行かないようにすればあんな変なのに絡まれないかもしれない。でも、それだけじゃない。確証は無いけど、おぼろげながら原因が見えているような気がしている。

 それは和樹、黒岩を排除したからだろう。

 このループは私を中心にしているとはいえ、六人が運命共同体のようになっている。そうでなければ、何故他のみんなが不幸になったからといってループが起こってしまうのだろうか。

 きっと、みんな幸せにならないといけないのだ。

 明確な証拠は無いけど、そうじゃなきゃ一周目で和樹が交通事故に遭った際の説明がつかない。酷い言い方をすれば私にとって和樹が大怪我を負ったところで私の人生に関係が無いのだ。黒岩が失踪しようが、凪がおかしくなろうが、どうでもいいのだ。涼香の失踪はちょっとまた別問題だけど……。

 でも結局全ての歯車が狂い、みんないなくなった。結果、私は不幸せの袋小路に迷い込んでループが行われた。

 海の家で男達に絡まれたけど、きっと海の家で休まなくても何か同じような事はあったかもしれない。じゃあその原因は何だろと言われたら、女子だけで行動していたからというのもあるだろう。

 だから狙われた。もし女子だけで花火大会に行ったとしても、同様の事が起こったかもしれない。別の場所でもその可能性はある。じゃあ夏休み前に何もしなければとも思うけど、私の記憶の底からそれは避けろと言う声がする。

 きっと何もしなかった世界線もあったのだろう。でも失敗した。だからか何もしないという選択肢が私の中で候補に挙がらないのかもしれない。

 じゃあ仮に二人を海に連れて行ったらどうなったのだろうか。

 前回のように涼香が黒岩にアドバイスを送れば、黒岩だって大人しくなるだろう。それに凪が黒岩の事を好きで、黒岩もまんざらじゃないとの情報を得た。この辺を上手くやれば黒岩をコントロールできるかもしれない。

 そして男子二人を連れて行けば、変な男に絡まれる事も無いかもしれない。黒岩は細身だけど身長高いし、和樹だって今は帰宅部だけど中学までは柔道をやっていたみたい。まぁそこまでいかなくても、男連れの集団に手を出すなんてあまり無いだろうし、もし何かあったとしても今度は私も覚悟ができているから何かできるだろう。

 今度は六人でやろう。私にできる事はそれまでに色んな人の仲を取り持ち、良いバランスを作る事だ。大丈夫、もうわかっている。


 地震による始業式が短縮された事により、私はすぐさまバイト先に電話して向かう事を告げた。目的はただ一つ、紗枝さんに報告と今後の対策を聞きたかったから。

 自転車に乗り、春の陽気を切り裂きながら私はバイト先へと向かう。この風も、空気も、街の雰囲気も何もかも、使い古されているかのよう。ループを体験している私だからこそ私の周囲はほんの少しだけ違う姿を見せるけど、そうじゃない大多数は同じ事を繰り返しているに違いない。

 それはまるで時の奴隷。

 ある人によっては一生懸命勉強し、さぁ本番だと思えばループしてやり直している。またある人にとっては愛の告白に失敗し、何度も何度も傷を負っている。良い事も悪い事も巻き戻され、同じ努力や痛み苦しみをずうっと繰り返しているのだ。

 それを一刻も早く解き放つため、紗枝さんとの会話で何かをつかまないと……。


「おはようございます、紗枝さん」

 店の前で店長に会ったけど挨拶もそこそこに私は店内に入り、地震によって落ちた本を拾い集めている紗枝さんの傍に近寄った。そして挨拶をしたけど、ちらっと顔を向けて小さくうなずかれただけ。

「今回は七月の終わりを待たずにループしたでしょ」

「……驚いた。夏希ちゃん、記憶があるんだね」

 紗枝さんが顔を上げると私は大きくうなずいた。

「覚えている限りは今回で三周目です。だから、とりあえず話したいです」

「そっか。じゃあちょっと店長に代わってもらうね。先に事務所行ってて」

 そう言うなり、紗枝さんは立ち上がって外へと歩き出す。私はひとまず先に事務所へと向かったのだった。

「それじゃまず、夏希ちゃんの現状を教えて」

 事務所のソファで座って待っていると、ほどなくして紗枝さんが入ってきた。向かい合うようにして座ると、開口一番そう質問された。

「えっと、私は今回覚えている限り三周目です。前々回は友達みんな不幸になって九月末にループし、前回は女友達四人と海へ行ったところ柄の悪い男二人組に無理矢理車に乗せられたんです。私はその後の事が怖くて、運転していた男に抵抗したら車が崖から落ちて、それで……」

 報告していてもやはり忌まわしい記憶が私の心を凍り付かせる。私は思わず言葉を詰まらせ、大きく恐怖を吐き出すように溜息をついた。紗枝さんはそんな私に心配そうな視線を向けてくれる。

「そう、酷い出来事があったんだね。それで七月なのにループしたんだ」

「前々回はみんなで花火に行って、口論がキッカケになって交通事故が起こった。今回は花火を避けて海に行ったら、無理矢理連れ去られた。ただ」

 私はそこで言葉を区切ると少し考えてから口を開く。

「これは仮説なんですけど、今回いつも一緒にいる男友達を誘わなかったんです。だから女の子だけじゃ解決できない事件が起こった。きっとそれは私を含めた六人が幸せにならないとゴールできないから、もうその時点で選択を誤ったのかもしれません」

「夏希ちゃんだけでなく、深く関わっている人も上手くいかないとループが終わらないって事? それはまぁ、随分と難しそうな」

 私はゆっくりとうなずく。

「元々、普通に生きていれば回避できるわけのない不幸な未来だと思うんですよ、これ」

「そうだね、話を聞いている限りそうとしか思えない。多分求められているゴールは夏希ちゃんを含めた近しい人達が無事終業式を迎える事なのかもしれない。もしくはそれに準じた成果」

「それに準じた成果?」

 私が不思議そうな視線を送ると、紗枝さんが静かにうなずく。

「つまりはこれから余程の歪みが無い限り、みんなが幸せでいられる条件を作る事なのかもしれない。ただ、それはどうすればいいのかなんて私にはわからない。だから夏希ちゃんが自分で見つけないといけないんだけど」

 紗枝さんはそこで大きな溜息をついた。それは憐れむような、心配するような慈しみを感じる眼差しだった。

「私の言いたい事、わかる?」

「……きっと一度や二度じゃ済まないループを繰り返し、それを見つけ出さないとならないって事ですよね」

 深く静かにうなずいた紗枝さんの様子から、私は果てない道を予感して軽いめまいを覚えそうになる。

「そういう事。ただ、何十回何百回と繰り返す事は無いだろうね」

「どうしてです?」

「夏希ちゃん、この二回は鮮明に覚えているんでしょ? だったら思ったよりは早くそれがわかるんじゃないかな。今までだって、友達とは言え知らない部分がたくさんあったんじゃないの? でもこうして繰り返していれば見えなかった部分もかなり見えてくると思う。人は同じような会話をしていても、必ず同じだとは限らない。その時の雰囲気、心理状態、体調、また話しかけ方などで内容も変わる。だから色んな会話や反応から情報を集め、答えを見つけていくしかないの」

 確かに近道は無いかもしれない。でも現に前々回に比べたら前回は色んな情報を得られたし、関係だってスムーズに行った。これを繰り返していれば、きっと何かしらの解決策が見えてくるかもしれない。

 ふとそこで、私は自分自身の問題に気付いた。

「紗枝さん、一つ質問したいんですけど」

「ん、なぁに?」

「どうして私、この三回は記憶を持っているんでしょう? 紗枝さんから見て、今までの私と違った所とか変化とかあります? 今まで私が前回の記憶を持ったまま紗枝さんと話した事はありました?」

 私の問題、それはいつまた記憶を失ってループするかという事だ。今はいい、二回分の過去の記憶を鮮明に覚えているから。ただ、次ループした時にそれが持続しているかと言われれば確証が無い。そうなれば私はまた、何十回と同じ毎日を繰り返し同じ不幸を味わうのだろう。

「その問いの解は持ち合わせてないわね」

 静かにゆっくりと紗枝さんが首を横に振った。

「私は今回で二十九回目の夏希ちゃんを見ていて、そのうち今回を含めて三回は連続した夏希ちゃんに会っているけど、今までこんな事は無かった。それまでは勘が良い悪いがあったけど基本前回の記憶を持ち越せてはいなかった。だから何が原因なのか、どうしてそうなっているのか、次回も同じなのかどうかは私にはわからない」

「そうですか」

 私は肩を落とし、溜息をつく。

「ただ……これは希望的観測というか、願望に近い仮説なんだけど」

 そう言うと紗枝さんは私に静かに微笑みかけてきた。

「ループは限界に近付いているのかもしれない。覚えているかな、前に言ったのを。ループそのものが世の理から大きく外れ、歪な物だと。その負荷がきっと大きくなっているから、記憶が連続した夏希ちゃんを産み出しているのかもね。無制限にはできないのかも。だからこの世界は大きく歪んでいる。前に進みたいのに進めない世界」

 紗枝さんの言葉は何だか抽象的で難しく、理解できなかった。ただ、今の私のような記憶を連続して持っている私とは出会わなかったらしい。

 まぁでも、今はそれでいい。きっとそれだって、いつかわかるはずだ。

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