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ミッシングリンク~忘却と目覚めの街の中で~  作者: 砂山 海


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【第二章】第六話~太陽が沈む~

歩き疲れた夏希達は海の家で休むことにした。

すでに遊び疲れてクタクタだけど、まだ帰りたくない。だからまだ話に花が咲く。

誰が好きか言い合おうよ。そんなモカの提案に驚きつつも反応する三人。

やがて太陽が傾き始め……。

「えー、そうだったんだ。そっちも面白そうだね」

 モカがすぐさま反応するのと同時に、私の心拍数は上がり続ける。苦しいくらいに胸が鼓動を速め、真夏の海にいるにもかかわらず手足の末端が冷たくなるような感覚に襲われた。

「でもさぁ、ここからでも見えないかな。近くで見るのも綺麗かもしれないけど、海から見える花火ってのもいい感じだよね」

 涼香がそう言うと、私はうなずいた。まだ言葉によるフォローは出来ない。でも何とか、この流れで花火大会に行こうと言うのは阻止したかった。

「そうかもしれないね。私、花火見れるまではわからないけど、そのくらいまで一緒にいたいな」

 凪が笑えば、みんな笑う。そうだ、それでいい。花火大会は和樹が悲惨な事故を起こした場所。今和樹はいないけど、でも私にとってあまり行きたくない場所である。仮にモカや凪、いや涼香があんな風になれば私はきっとおかしくなってしまうだろう。

 ただ、花火大会の話題はそれきりで終わり、別の話題へと移っていった。私は内心ほっとしながらも、どこかで暗い影が近付いてきているんじゃないかと不安になる。

 忘れよう。今はただ、この雰囲気を維持するんだ。楽しい時間を過ごし、笑って今日一日を終わらせるんだ。

 そうこうしていると端の方まで辿り着いた。時刻はまだ午後四時で、日も高い。端まで行ったところで別に何か目を引く物なんか無いので、私達はまた折り返して歩き出す。でもいい。そんなのは建前なのだから。

 こうして一緒に動き、話をするために歩いてきただけなのだ。それだけで今の私達には十分な思い出を作れる。

「いやー、さすがに疲れてきたね。ちょっと海の家で休まない?」

「いいね。じゃああそこにしようか」

 目についた海の家に入ると、そこはそこまで混んでいなかった。やや古ぼけた内装の海の家は外の日差しを上手く遮っているのか薄暗く、若干陰気な感じすらある。それに時間帯によるものもあるのだろう、他には二人組の男性しかいなかった。

 席に着くと、私達は火照った身体を冷ますため、かき氷を注文する。

「あぁ美味しい、何だかんだ歩き疲れたから甘くて美味しい」

 ブルーハワイのかき氷は身体にひんやりと染み入り、甘さがほんのりと疲れを癒す。みんなもそうだったようで、涼香も笑顔でいるけどどこか元気が無かった。

「ほんとだね。楽しすぎてずっと遊んでたけど、さすがに足疲れちゃった」

「んー、でもここで解散はちょっと早くない?」

「モカの言う通り、折角ならもう少し一緒にいたいよね」

「でも何しようか」

 私だってまだみんなと一緒にいたい。でももう現状できる事はほとんどしてしまったように思う。海の家もこうして堪能してるし、散歩もした、お喋りだってたくさんした。

「んー、何って言われても困るけど、でもまだ私はここにいたいかな」

 モカが頬杖をつきながらそう言うが、誰も反対する者はいなかった。きっとそれは私を含め、歩き疲れたから今すぐ行動したくなかったのかもしれない。

「まぁ、かき氷食べてから決めようか」

「そうだね。でも黒岩君とか白上君とかいたらどうなっていたのかな」

 凪の言う通り今回黒岩を外そうと動いたけど、もし二人が来ていたらどうなっていたのだろう。やっぱり涼香とケンカして、何か起こってしまったのだろうか。いやでも、今回の黒岩は涼香に助言してもらっていたからか、来ないでと言った時も割と素直に聞いてくれた。もしかしたら、何も起こらなかったのかもしれない。

「案外いつも通りなんじゃないかな」

「涼香の言う通りかもね。じゃあさ、男子いないから折角だしぶっちゃけた事訊いてもいいかな?」

 モカが口元をにやけさせながら顔を寄せてきた。

「ねぇみんな、好きな人っている?」

 その質問に、私を含めた三人は思わず眉根を寄せた。

「え、好きな人?」

「そうそう。いつもいるあの二人でもいいし、他の誰かでもいいし。こういうのって男子いたらしにくいじゃん。おまけにここならクラスの誰もいないわけだし」

「質問するって事はモカはいるの?」

 涼香の問いかけにモカがうなずいた。

「言ったらみんな答えてくれる? いないとかは無しだよ。好きまで行かなくても気になる人とかでいいからさ」

 好きな人と言われても、本気で別に誰が好きだとかはいない。気になる人もだ。今はただ恐ろしい未来を回避したいからそれに手一杯で、そんな気分になれない。

 ちらりと涼香の方を見れば、涼香も困ったような顔をしている。それもそうだ、こんなの誰かに聞かれたら大変な事になるだろう。

「いいよ。教えるからモカから言ってよ」

 意外な事に凪がそう言いだした。三人が驚いて凪を見れば、真剣な表情でモカを見詰めている。

「えー、いいよ。でもさ、引かないでよ」

 モカは少し深呼吸をしてから、私達をゆっくりと見回してから私の方へ視線を向けてきた。

「私さー、レズなんだよね。だから男の子には興味無いんだ」

 意外なカミングアウトに私達は目を丸くした。女の子同士仲が良いとかはよくあるけど、こう正面切ってレズだと言う子にはまだ会った事が無かっただけに驚いてしまう。

「え、モカってじゃあ男性が苦手とか?」

「あー、いや、普通に接する分には平気だよ。でもほら、黒岩とか背高いし普通に格好良いだろうけど興味無いんだ。和樹なんかも面白くて優しいけど、別に。恋愛対象は女の子がいいんだよね」

 まぁ確かに恋愛対象じゃないからと言って苦手って事にはならないか。もしそうなら大多数の人が同性を苦手って事になっちゃうだろう。

「だからまぁ、タイプ的には夏希みたいな人が好きなんだよねー」

「え、私?」

 凪と涼香の視線が私に集まる。私はどんな顔をしてその発言を受け止めればいいのかわからず、固まってしまった。

「いやまぁ、タイプ的にってだけだよ。ごめんね、キモいよね。じゃあほら、次に行こう。凪、誰が好きなの?」

 モカが笑って誤魔化しながら凪に振れば、凪は少しだけ考えた後ゆっくりと口を開いた。

「私は黒岩君かな」

 それは私の動揺を吹き飛ばすくらいの発言だった。

「えー、マジで? でも確かに凪って割と黒岩にはハッキリ物言ったりするよね」

「うん……なんだろう、黒岩君には言えるんだよね。それに黒岩君、誤解されがちだけどすごい優しくてさ。まぁ、涼香に対して当たりが強くなったり酷い事を言っちゃう時はあるんだけど、それ以外の時は」

「大丈夫、わかってるから」

 涼香が優しくフォローすると、凪が嬉しそうに小さくうなずいた。

「ありがと」

「でもさー、黒岩って凪の言う事には大人しく聞くじゃん。あれって凪の事好きだからじゃないのかな?」

「あー、モカの言う通り確かに黒岩ってそう言うとこあるよね。案外両想いだったりとか?」

「そうだったら嬉しいけど、訊けないよそんなの。ほら、私は言ったよ。夏希はどうなの?」

 急に話を振られ、私は戸惑う。正直、モカが私の事をタイプだと言った事も凪が黒岩の事を好きだと言った事も衝撃的すぎて、頭がついていかない。

「私は本当にいないんだよね。恥ずかしいからとかじゃなく、本当に」

「えー、じゃあ好きなタイプでいいから教えてよ。それくらいあるでしょ?」

「好きなタイプ……ありきたりだけど優しくて、私の事を見てくれる人かな」

「そんなのみんなそうだよ。もっと具体的に」

 そんな事言われても……。

「あとはまぁ、約束を絶対守ってくれる人かな」

「なるほどねぇ。ま、それは大事だもんね。じゃあ涼香は?」

 それ以上の追及が無くて私は安堵し、水を向けられた涼香へと視線を向けた。

「私はいないよ。だって一応芸能界で色んな人に会っているから、学校でちょっと格好良い人程度なんて幾らでも会っているんだもん。アイドルグループの人だって普通に会うから何とも思わないし」

「まぁ、それもそうだよね」

 確かに涼香の場合はそうだろう。例えば幾ら黒岩が背が高くて顔も格好良いと言っても、芸能界にはそれより遥かに格好良い人だってたくさんいる。この前まで涼香が一緒に仕事をしてた人なんて国民的アイドルグループだ。そんなのを見ていたら、価値基準だって高くなっていくのは当然だろう。

「じゃあ、せめてどんな人が好きなのかだけでも教えてよ」

「芸能人としての小泉涼香ではなく、この私をちゃんと見てくれる人がいいな」

「あぁ、それはそうかもね」

 それからも私達は恋愛談義を中心に色んなお喋りをしていた。途中かき氷を食べ終えてからもお腹が空いたのでフライドポテトなんかも注文し、あれこれ話に花が咲く。

 気付けばもう六時を回っており、静かに日が暮れ始めていた。


「そろそろ帰ろうか」

 私の言葉にみんなうなずき、立ち上がった時だった。

「ねぇねぇ、まだ夏の夜はこれからじゃない。今度は俺達と遊ばない?」

 不意に背後から声をかけられ驚いて振り向くと、金髪と茶髪のいかにも柄の悪そうな二人組の男性が立っていた。私と凪はもう怖くて固まってしまい、心臓が恐怖で苦しくなる。けれど涼香が私の手を、モカが凪の手を引っ張った。その際、涼香がスッと目深に帽子をかぶる。

「ごめんねー、今日はもう帰るとこなんだ」

 モカが笑いながらそう言って断ろうとするが、金髪の男が顔を寄せてくる。

「そんなノリ悪い事言わなくてもいいじゃん。なんだったら送ってくからさ」

「いや、いいかな」

 そう言ってモカが一歩前に進もうとしたところ、金髪の男が立ちふさがった。

「遠慮すんなって。ほら、暗くなってるから危ないよ。変な奴らに絡まれたらアンタら、大変でしょ」

 いま正にそうなんだけど、なんて言えず私はこのやり取りをただ聞いているだけ。出入口は海の家だけあって広いけど、男の人にこう立ちふさがられたら逃げられない。

 だから私は店員さんの方へ助けを求めるよう視線を向けた。

「松木さん、騒ぎは起こさないでよ。もう少しここやんないと、板橋さんに睨まれちゃうからさぁ」

「わかってるって」

 駄目だ、この店員もグルなんだ。

 絶望感で頭が真っ白になりかける。凪はもう涙目になっているけど、私までこうなったら駄目だ。どうにかしないと。でも何をすればいいんだろう。

「いいから、もう私達帰るんだってば。ナンパだったら他の子相手にしなよ」

 モカがそれでも通り抜けようとした時だった。金髪の男がモカの腕をつかんだ。その力が強かったのかモカの顔が歪み、怯えたのが私にもわかった。

「俺らはお前らが良いんだって。ほら、遊ぼうって。車も用意してるからよ」

 絶対にこのままだと良くない事が起こる。未来なんか見えなくても、常識で察知できる。けどどうすればいい、何をすれば助かるんだろうか。

 すると涼香が私の手を引っ張り、駆け出した。海の家の軒下を出るが、すぐにもう一人の男に腕をつかまれる。

「助けてー、変な人に絡まれてるの。誰か助けてー、警察呼んでー」

 大声でそう叫ぶ涼香にさすがに男達も戸惑ったみたいだった。辺りにはまだ海水浴客がいるし、キャンプ用のテントだって立ち並んでいる。

「誰か助けてー、警察呼んでー」

 舞台で鍛えたその声量は辺りに響き渡る。

 だが、誰もこちらへ助けに来る様子は無かった。

「ねぇ、誰か」

「うるせぇよ」

 誰も来ないとわかった男は涼香を後ろへと引き倒した。つられて私も倒され、二人とも砂まみれになる。

「おい、早く車用意しろ」

「もうしてるって」

 私達は無理矢理立たされ、海の家の後ろへと連れていかれる。そこで私が目にしたのはスマホをこちらに向けている無数の人影。誰も助けようとせず、通報しようともせず、ただ見世物のように撮影している。

 その姿が不気味で、同時に私達はもう助からないんだと絶望するには十分過ぎた。


 車は猛スピードで海から離れ、山の方へと向かう。国道に出ると若干スピードを落としたのは警察を警戒しているのかもしれない。私達は黒いワゴンに乗せられている。運転しているのは金髪の男、そして後部座席には私達とそれを見張る茶髪の男。

 茶髪の男がドアの傍に座り、私は運転席の後ろ。その隣にはモカ。涼香と凪は後部座席。私の方のドアは開かないようになっており、そこから飛び出す事もできない。

「ったくよぉ、お前らが騒ぎなんて起こそうとしなかったら俺ら紳士的にしたのによ」

「そうそう。これからの事は自業自得だよねぇ」

 何をされるのかは明確にしていないけど、想像はつく。きっとこいつら私達を犯し、口封じでもする気なのだろう。それはみんな同じ事を思っているみたいで、涼香も凪もモカも顔を青くして震えている。こうなると私達にできる事は何も無いのだろう。

「まぁでも、これからの事はちょーっと抵抗してくれた方が楽しいかもな」

 ゲラゲラと下卑た笑いを大声であげる男達。その姿に嫌悪感と恐怖で身を震わせる。

 その時ふと、私の脳裏にある記憶が浮かんだ。


 ……私これ、知ってる。


 浮かんだのは山奥で順番に乱暴される記憶と、崖下へと落ちていく記憶。どちらも忌まわしく、直視できない。でももう、ここまで来てしまえばそれしか選択肢は無いだろう。いや、選択肢なんか事ここに至ってあるわけない。

 怖い、でも先延ばしにしたらもっとずっと嫌な事が起こってしまう。そしてどっちみち結末は一緒なんだ。自分でか、他人にされるか。

 ならせめて、道連れにしてやる。

「なぁヨシキ、お前どれがいい? 俺はその帽子かぶったのとギャルっぽいのがいいな」

「あー、ギャルは俺も狙ってたけど、お前にやるよ。俺はその大人しそうなのと、肩までの髪の女とやるわ。どっちも男知らなさそうだからいい具合に泣きそうだしな」

「お前サイテーだな。でも、それがいいよな」

 またもゲラゲラと高笑いする男達。私はその隙をついて腰を浮かせると、運転席の金髪の男の顔に手を回し、思い切り顔面に爪を立てた。

「うわっ」

「おい、てめぇ」

 茶髪の男がすぐに私を引き剥がそうとするけど、私はもう力一杯に顔に爪を立てた。そしてそれが目に当たった嫌な感触を得ると、潰れてしまえとばかりに食い込ませる。でもすぐ茶髪の男の凄い力によって引き剥がされた。

 引っ張られた反動で私はモカとぶつかりながら、茶髪の男の方へ倒れ込む。すると車は制御を失ったかのように揺れた。

「うううううぅ」

「おい馬鹿、停めろ。ブレーキ踏め!」

 それでも効果があったのか、運転していた金髪の男は目を抑え、ハンドルから手を離した。茶髪の男が焦るが、もう遅い。車は物凄い衝撃と共にガードレールを突き破り、奇妙な浮遊感が私達を襲う。右に左にみんなが飛ばされ、車内に絶叫が響き渡る。

「いやああああぁ」

 終わりだ。これで、何もかも……。

 私が見たのはゆっくりと宙へ飛び出し、崖下の暗い森へと飛び出した景色だった。

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