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ミッシングリンク~忘却と目覚めの街の中で~  作者: 砂山 海


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【第二章】第五話~晴れやかなる海~

夏希、涼香、凪、モカの四人は海に来た。海水浴場はとても混んでおり、大盛況。

久々の海にみんなテンションが上がり、大盛り上がり。なんて事の無い事だって楽しくて、四人で大笑いを繰り返す。

「海、入って来ればいいじゃない」

凪がそう言うと、私達はとりあえずサンダルを脱いで波打ち際へと向かうのだった……。

 集合場所は私と涼香が通学に使っている最寄り駅だった。そこからが海へ行くには一番近かったから。凪は反対側に二駅、モカに至っては三駅先だったから厳密に言えば改札を抜けてホームで待ち合わせ、みんな集まってから電車に乗ろうという流れになっている。

「お待たせ、夏希」

 家のチャイムが鳴り、すっかり身支度を整えていた私は軽やかな足取りで玄関へと向かえば涼香が立っていた。つばの広い帽子に薄手のロングカーディガンと日焼け対策はバッチリみたいだ。その下はシャツにジーンズとラフな格好だが、それが妙に似合っている。

「涼香、オシャレだね。さすがに日焼け対策はバッチリって事?」

「そりゃあ仕事柄、焼けないからね。私もたまには焼いてみたいんだけどさ」

「ドラマとかだと話が繋がらなくなっちゃうもんね。しょうがないよ」

 クスクスと二人笑い合いながら、私達は家を出た。

 約束の時間は午後一時半。これは夕暮れの海を見たいと言ったモカの意見を採用したものだった。

 確かに夕焼けに染まる海は綺麗で、強く思い出に残るだろう。それに昼過ぎに集まれば午前中ゆっくりできるし、お昼も各自食べてくるからお金もそんなに使わなくて済む。割といい事づくめだ。

「いやー、しかし晴れて良かったね。気持ち良いくらいの快晴」

「おかげで暑いけどね。まぁでも、雨降ったりするよりはいいか」

「そうだよー。あれ、海入りたくなった? 涼香の水着姿はグラビアで結構見てるけど、プライベートではなかなか見られないからなぁ」

「ちょっと夏希、オジサン入ってる。別に見てもいいけどさぁ、直で言われるのはさすがに恥ずかしいよ。ポーズだってあれ、仕事だからやってるだけだし」

 不服そうな涼香に私は身体を寄せ、笑ってみせた。

「わかってるよ。でもさぁ、結構ドキッとするやつもあるよね」

「ねー、もうやめてよ」

 ペチペチと涼香が私の肩を叩く。私はこの空のように笑いながら、もう嬉しくなって涼香に身体を預けるように寄せた。すると涼香もまんざらじゃないのか、逆に押し返すように身体を預けてくる。

「ちょっともう、今からこんなにはしゃいでたら夕方まで持たないよ」

「その時は夕方の私が何とかしてくれるよ」

 そうこう話しながら向かうと、約束の十五分前には凪もモカも揃って階段付近のホームにいた。二人は私達を見るなり笑顔で手を振り出迎えてくれた。

「お待たせー。凪もモカも可愛いじゃない」

「そうかな。でも夏希も涼香もいい感じ」

「そうそう、涼香はサングラスかけたらいかにもって感じだよね」

「いやぁ、さすがに私がサングラスなんかしてたら調子に乗ってるって叩かれちゃうよ」

 笑い合っていると間も無く電車がやってきた。それほど車内は混んでおらず、難無く席に座る事が出来た私達は顔を見合わせ、また笑う。別に何をしなくても、胸が疼くように楽しい。

 涼しい車内に夏の日差しが降り注ぐ。電車は町から町へと移ろい、景色を変えていく。静かにお喋りしようとしてもつい盛り上がり、私とモカは凪と涼香にその度に注意されてしまう。

 それでも目的地が近付き、海が見えれば四人とも盛り上がる。葉守市の外れにある海水浴場はこの陽気のせいか活気に満ちていて、まだ車窓から覗くだけなのに否応なしに私達の気分を上げてくれた。

 最寄り駅で降りると私達はコンビニで飲み物を買い、ゆっくりと散策する。この時期だからか、浜焼きなどの露店も多い。醤油の焦げる匂いが食欲をそそるけど、それよりも海風が吹いて潮の香りがする方が盛り上がった。

「いやー、久々に海来たかも。すっごい海ーって感じ」

 モカが太陽を浴びながらぐうっと身体を伸ばしてそう言うと、凪も静かにうなずいた。

「私も。小学生くらいまでは行ってたけど、中学生からは行ってないなぁ。どっちかというとプールの方にばかり行っちゃうかな」

「まぁ、海はシャワー浴びても汚れちゃうからねぇ。でもこうして海の匂いがすると、やっぱりいいよね。涼香もプライベートで海なんか行かないでしょ」

「そうだね、やっぱり日焼けもそうだけど何か見られてる気がしてなかなか。本当は気軽に行きたいんだけどね」

 きっと仕事で色んな海に行っていて、私が見たことも無いような綺麗な海もたくさん見ているだろう。それでも涼香はこの混雑してありきたりな海を愛おしそうに見ている。

「ねぇ、とりあえず海の近くまで行こうよ」

 私がそう言うと、みんな笑顔でうなずき浜辺の方へと歩き出した。


 海水浴場は大盛況だった。車窓から見ているよりもずっと人で溢れ、それなりに広い砂浜なのにテントもかなりの数が張られて密集している。海の家も何軒か見えるけど、水着姿の人達が外のパラソルにまで座っていた。

「すごいね。夏希、いつもこんな感じなの? 私は転校してきてここに来るの初めてだけど、ヤバいくらいの人だね」

「どうかなぁ、私も久々に来るから何とも。でも、前に来た時もこんな感じだったからいつもそうなのかもね。あー、サンダルで来て良かった」

「私も。海には入らないつもりだけど、念のためにと履いてきて良かったよ」

 足元を見れば、凪以外はサンダルだった。凪は苦笑し、私達を見る。

「だったら海、入って来ればいいじゃない。私、みんなの靴見てるよ」

「えー、でも折角だから凪も行こうよ」

「私はほら、スニーカーだから。それにみんなで行ったらもし盗まれでもしたら困るじゃない」

「それなら、交互に靴の番しようよ。凪だって、靴下脱げばいいでしょ。濡れたらハンカチあるから、それで拭けばいいじゃない」

 涼香の提案に凪はちょっと困ったような顔をしたけど、この夏の陽気に負けたのかためらいがちにだけどうなずいた。それを見て私達三人は手を叩き合い喜び、サンダルを脱いで海へと向かった。

 裸足で砂を踏む感触は何年かぶりだった。熱く、ちょっと痛く、でも心地良い。私達は波打ち際のギリギリまで行き、砂が濡れている場所にひとまず落ち着く。ようやく火傷するような熱砂から解放され、心地良い冷たさが足裏から伝わる。と同時に、深く沈みこむような感触がちょっとくすぐったかった。

「わわっ、来たよ」

 モカが叫ぶと波が押し寄せてきた。私達は少し後ろに下がるが、それでも勢いの付いた波は私達の足首まで届いた。するとすぐに足元の砂がさらわれ、何とも言えないくすぐったさに襲われる。沖へと流れる砂粒が足裏をくすぐり、思わず笑みがこぼれる。

「うわー、すごい久々の感触」

「私、こういうの弱いんだよね。なんか力抜けちゃう」

 モカがそう言いながら私に抱き着く。私は頼りない足元に注意しつつ、モカを支えた。

「ちょっとモカ、どさくさに紛れて夏希に抱き着かないの」

「待って待って、マジで今駄目なんだってば。くすぐったいのに弱いの、私」

 涼香が私に抱き着いてるモカを引き剥がそうとするが、モカの足元がおぼつかない。そうこうしているうちに次の波が来て、また私達の足元の砂をさらっていく。

「ひゃあああ」

 モカが更にバランスを崩し、私にもっと抱きついてきた。私も足元がくすぐったいのと、モカと涼香の力を受けてバランスを崩しかける。でも、なんとか堪えた。けれどそのせいで余計にモカに抱きついてしまった。

「ちょっと……あっ」

 それを引き剥がそうとする涼香。するとバランスを崩したモカが私を引っ張りながら涼香の方へと倒れた。湿った砂に倒れ込む私達。すると波が押し寄せ、私達の服をぐっしょりと濡らした。

「モカぁー……」

「いや、今のは涼香が悪いでしょ。駄目って言ってるのに引っ張るんだもん」

「ちょっと二人とも、早く起きてよ。また波が」

 文字通り口論に水を差すように波が押し寄せ、またも濡れる。もう上から下までべちゃべちゃに濡れてしまい、私達は苦笑いを浮かべながら立ち上がった。

「何やってるのよ、三人して」

 一部始終を見ていた凪の下に戻ると、チクリと刺された。でも、私は何も悪くない。悪くないのだが、この場は黙って一緒に頭を下げるのが正解なのだろう。

「この陽射しならすぐ乾くだろうから、少し太陽でも浴びてなよ」

 私達三人は申し訳無さそうにうなずくと、言われた通りに波の届かない砂浜で立ち尽くした。夏の日差しはじりじりと肌を焼く感覚があるけど、なんだかそれすら心地良い。情けないはずなのに何だか笑え、みんなで顔を寄せ合うと大声で笑った。

 不意に私は違和感を覚えた。いや、違和感と言うよりは……記憶。

 ハッキリとは見えない。けれど確かにある、海に来た記憶が。それは子供の頃のものじゃなく、この仲間達で来た記憶。でも海なんかみんなで来たのは今回が初めて。だからきっと、いつかのループで私はここに来ている。

「どうしたの夏希、濡れて気持ち悪かった?」

 涼香にそう言われ、我に返ると私は「なんでもないよ」と笑顔を作った。

 紗枝さんが覚えている限り、今回で二十八回目のループだと言っていた。となれば、海に行った事くらいあるだろう。ただ、それが幸せな結末だったか不幸な結末だったかは覚えていない。

 果たしてこれは正解なのか? 必須条件なのか? それとも……。


「少し乾いてきたね」

 買った飲み物を飲みながら太陽の下でお喋りしていると、肌に張り付く感覚がほとんど無くなってきているのに気付いた。私達は砂を手で払い、やっと少しはマシな格好になる。

「ねぇ、向こう側まで歩かない?」

 凪が海水浴場の端を指さす。数百メートルはあるだろうが、このまま同じ場所にいるのもつまらないので、みんな賛成して歩きだす。ただもう砂浜は十分に堪能したから、上の方に登って歩道を歩く。

「あー、でもこういうのいいよね。浜辺を歩くなんて中々ないもん」

 モカが口を開けば、みんなうなずく。私もそうだけど、単に散歩しているだけなのにすごく非日常を感じて楽しい。家族連れ、恋人連れ、柄の悪そうな人達、はしゃぐ外国人など色んな人が集まって海を楽しんでいる。それを見ているだけでも、面白い。

「わかる、妙に楽しい。汚れるから嫌かもって思ってたけど、やっぱり海っていいよね」

「まぁ、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったけど」

 苦笑いする涼香に私は抱きついた。

「でも楽しいよね。私、みんなとここに来れて嬉しい」

「それはまぁ、そう」

 照れる涼香が可愛くて、私のテンションも上がる。すると凪がそんな私達を微笑ましそうに見ながら、ふと空を見た。

「そう言えば今日、花火大会があるんだよ。ここからでも見えるかなぁ」

 花火大会。その言葉を聞き、私は心臓が飛び出しそうなほど驚いた。

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