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ミッシングリンク~忘却と目覚めの街の中で~  作者: 砂山 海


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【第二章】第二話~仲良くなるために~

五月に入り、モカが転校生としてやってきた。

もう既に彼女の人柄を知る夏希は距離感近く接する、少しでも早く仲良くなって、みんなとの時間を作れたら良い未来に勧めるだろうと信じて。

しかし、違和感を持たれたためすぐに注意する。周囲に変に思われたら逆効果だから。

それでも夏希は涼香と共に放課後、モカに学校の案内をするのだった……。


「一条モカです。今日からよろしくお願いしまーす」

 五月に入り、モカが転校生としてやってきた。相変わらず派手で見た目が怖いけど、でも私はその人柄を知っている。前回のように私の隣に机を置き、にこやかに私の目を見詰めてきた。

「よろしくねー。えぇと、名前を教えてもらってもいいかな」

「星野夏希だよ。よろしくね、モカ」

 何気なく以前と同じ呼び方をしてしまい、私はしまったと思った。けれどモカは驚いたように目を丸くしながらも、その輝きを増していた。

「え、モカって言ってくれた? ヤバイ、嬉しい。私さー、名字で呼ばれるの固いから好きじゃないんだよね。だから名前で呼んでくれて嬉しい。じゃあよろしくね、夏希」

 けれどモカは一切気にせず、嬉しそうにしているだけ。あぁよかった、変に思われなかった。確か前回は一条さんと呼んで、それから訂正されて名前で呼んだはずだ。一つ過程を飛ばしてしまったから何か起こるかと思ったけど、何も無くて良かった。

「あのさ、もうちょい机くっつけてもいい? 教科書とかまだ無いからさ、できれば見せて欲しいかなーなんて」

「それはもちろん。まだ来たばかりでわからないだろうから、案内とかもするよ。お昼とかもよければ一緒に食べよう」

「えー、夏希良い人。神だよ。私、こんなに優しくされたの初めてかも」

 感極まってちょっと涙目になりそうなモカに私は優しく微笑む。当然だ、モカだって重要人物なのだから。もう距離感を計ってどうこうなんて時間ももったいない。社交的で距離感の近いモカならばこのくらいでもいいだろう。

 ホームルームが終わると、クラスのみんなが集まってきてモカに質問攻めをしてきた。その輪の中には涼香や凪たちもいる。

「あー、ごめん。ちょっと夏希が色々案内してくれるみたいだから、また後で。行こう、夏希」

 モカがそう言って立ち上がり、私に微笑んだ。私もうなずき、一緒に教室の外へと出る。そして背後からついてくる人物の事も覚えている。涼香だ。

「涼香も一緒に案内してくれる?」

 私が振り返ると、涼香は驚きつつもうなずいた。モカが涼香の顔をじっくりと見る。

「あれ、どこかで見たような。初めましてのはずなのに」

「あぁ、テレビとかに出てるからね」

「小泉涼香です。どうぞよろしく」

 その名前を聞いた途端、モカがあーっと大きな声をあげる。わかっていたとはいえビックリするし、いらない注目を集めてしまう。けれど涼香は表情を変えず、どこかお仕事モードになっていた。

「知ってるー。私、ドラマとかメッチャ見てたもん。えー、こんな普通のとこにいたんだ」

「涼香はそういうの嫌いだからね。別に普通の子だよ。涼香は私の親友で、モカもきっと気に入ると思うよ」

「えー、だったら嬉しい。じゃあよろしく涼香。私の事はモカって呼んで」

「よろしく、モカ。ところで案内するにも、もう時間が」

 涼香が腕時計に目を落とす。

「昼休みとか放課後に改めてやろう。涼香もそれでいいでしょ」

「そうだね」

「二人とも良い人過ぎ。いやー、正直すっごいドキドキしてたんだよね。私こんなんだからさぁ、よく勘違いされるんだ。でも夏希も涼香もそういう目で見なかった。それがもう嬉しくてさぁ。大好き」

 モカが私と涼香を包み込むようにハグしてきた。その拍子に思わず涼香とも密着する。本当はもっと後に涼香とハグをしたんだけど、でもまぁこういうのは早めに実行してもいいのかもしれない。涼香がしたがってたのに、私が先延ばしにずっとしていたのだから。

 だって涼香もビックリしつつも、嫌がっていないから。


 お昼ご飯の時、モカにあらかじめここで待っていれば私の仲の良い人達が来るから一緒に食べようと言っていた。だからモカも不安がる事無く私と二言三言話していると、涼香達がお弁当を持ってやってきた。

 自己紹介し、和やかに始まった六人でのお昼。以前は何度もしていたけど、これが一応初めてなんだ。そう思った私は会話がスムーズに運ぶよう、さりげなくサポートしていく。

「なんか夏希、今日は随分フォロー上手いよな」

 和樹にそう言われ、ドキッとする。そうだ、あくまで違和感を抱かせずにやらないといけないんだった。二周目だからと色んなものを短縮し、早めにどんどん仲良くやろうと思っていたけど、やり過ぎると今までの私じゃないと思われてしまうのか。

「ほら、モカだって緊張してるだろうし、みんなもそうでしょ。だからまぁ、上手くつなげたいって思ってさ。だってほら、黒岩はしないじゃないこういうの」

「俺に振るなよ。そういうのは苦手なんだから」

 面倒臭そうに黒岩が苦笑いすると、和樹がからかうように笑った。

「で、その和樹はモカにデレデレみたいで役に立たないし」

「おい、ちょっと待てよ」

「えー、和樹ってばそうなの? でも、ごめんなさい」

「おい、いきなりフるなよ。まだ告白すらしてねぇのに」

 どっと笑いが起こり、和樹も仕方ないなとばかりに笑う。あぁ、上手く誤魔化せた。そしてこんな調子ならば、きっと上手くいくはずだ。幸せな未来が。

「いやー、マジでこのグループに入れてもらえて嬉しい。ありがとね、夏希」

 そう言うなり、モカが抱きついてきた。思ってもいなかったタイミングだったので若干驚いたけど、モカはこういう所があるのを知っているのですぐに私は微笑む。そしてチラッと涼香の方を見れば、何だかほんのわずかに面白く無さそうな顔をしているのに気付いた。

 ……今、ここなんだろうな。

「涼香」

「ん? ……え、えー?」

 私がモカから離れて涼香を呼べば、何でも無さそうな顔を向けてきた。だからここだとばかりに隣にいた涼香を抱き締める。あまりの事に涼香は目をまん丸にしながら気の抜けたような声を出す。

「え、ちょっと、あの……えー?」

「モカの真似。まぁいいじゃない、幼馴染なんだし」

「珍しいね、夏希がそんな事するなんて。涼香のファンに恨まれるかもって言ってたのに」

「モカに抱きつかれた時に思ったんだ。別に普通の事だから怯える必要なんか無いんじゃないかって。だからありがとう、モカ」

「えー、私って上手い具合に使われた?」

 またも笑いが起こる。でも涼香は固まったままだった。あんなに涼香からしたいと言ってたからしたのに、そんな風だとなんか別の意味に思われそうじゃない。ただまぁ、まさかこのタイミングで私がするとは思っていなかっただろうから、そうなるのも仕方ない。

 問題はそうずっと思わせていた私なんだろう。もっと仲良くならないと……。


 本当は部活があったけど、先生に今日は転校生の案内をしたいから休みますと涼香と一緒に言いに行くと快く賛成してくれた。だから今、私と涼香でモカを学校案内している。

「いやー、ごめんね。二人とも部活なのに休ませちゃって。ところで何部なの?」

「吹奏楽部だよ。まぁそんなに上手くは無いけど楽しいんだ」

「吹奏楽部ってあれでしょ、楽器とかすごい高いんでしょ? 涼香はともかく、夏希もお嬢様か何かなの?」

 モカが驚いて私を見ると、私は苦笑いしながら首を横に振った。

「いやいや、うちは普通のサラリーマン家庭。だから楽器は買えないんだ。マウスピースとか買って練習して、部活の時に楽器に触る感じかな。マウスピースだけだったら高くないから、モカもやらない?」

「んー、誘いは嬉しいけどパスかな。音楽とかよくわからないし、それにうちシンママ家庭だからあまりお金無くってね」

 明るくそう告白してくれたモカだったが、私と涼香は変な事を言わせてしまったと申し訳なくなってしまう。それを察したのか、モカが笑い飛ばす。

「いやいやいや、何て顔してんのさ。別に変な事じゃ無いし、そこまで困ってもいないから。だからまぁ、たまにバイトとかも入れなきゃならないから厳しいかなってだけ。誘ってくれてありがとうね、嬉しいよ」

「モカもバイトするんだ」

「も、って何? まさか涼香がしてるの? いやでも涼香のはちゃんとしたお仕事だよね」

 苦笑しながら涼香が私の方へ視線を向けてきた。

「私だよ。本屋でバイトしてるんだ、土日で部活の無い時だけ」

「そうなんだ。でも好きな時だけってのはいいね」

「うん。店長が優しいし、正直そんなに忙しくない店だからね。だからまぁ、そんなには稼いでいないけどちょっと遊ぶくらいのお金はあるよ」

「いいね。じゃあ今度一緒にカラオケとか行こうよ」

 笑顔で誘ってくれるモカに自然と私も涼香も同じような顔になれた。こうして気軽に約束して外出なんかできれば、もっともっと仲良くなれる。みんなとの絆も強まるだろう。そうなれば、きっと……。

 私は笑顔に思い描く素敵な未来を乗せ、前を見た。

 各教室を案内していると、ふとモカが立ち止まった。そこは多目的教室で、放課後になると書道部が使用している。当然そこには凪がいて、私達に気付かないで集中して筆を動かしていた。

「なんか凄いね。凪だっけ、あの子」

「そう。凪は全国大会とかの常連で、親も書道家なんだよ」

 実際、書道と向き合っている凪は美しい。長い髪を後ろでまとめ、普段の優し気な眼ではなく鋭く一瞬を切り取るような眼をしている。姿勢も美しく、集中そのものが目に見えるかのようだ。

「私、書道とかも全然良くわからないけど、凄いのはわかる。何と言うか、綺麗」

 どこかうっとりした眼差しをしばらく向けていたが、やがてゆっくりと歩き出す。でもモカの気持ちはよくわかった。普段おっとりしている凪だけど、書道の時は別人なのだ。そしてその姿は本当に綺麗で、目を奪われてしまう。

「綺麗だよね、凪」

 涼香の言葉にモカが深くうなずいた。

「うん、すごかった。集中してるのってやっぱり格好良いよね。私さ、なんかあんまり頑張ってこれなかったんだけど、あの姿見たら自分も何かしなきゃなって思ったかも」

「わかるよ。涼香見ててもそう思う。なんか凄すぎて、このままでいいのかなって思っちゃうもん」

「夏希だって部活とかバイト頑張ってるじゃない」

「それとこれのレベルが違うよ」

 私の言葉にモカがうなずく。そう、涼香と凪が頑張っているのと、私達が頑張っているというのは大きな差がある。別にそれは自分達を卑下しているんじゃなく、当たり前の事なのだ。

「まぁ確かに私のお仕事はみんなに見てもらってそれでお金をもらっているし、それこそ小さい時からやってるからね。でも、部活でもバイトでも何でも、やり続ける事が大きな成功になっていくと思うんだ。もちろん運は大きく絡むけど、その運をつかみやすくするには土台が重要なの」

「うわー、さすが大人達に揉まれてる涼香は違うわ。カッコイイ。でもそうかも。私もどっかでシンママ家庭だからって言い訳にしてたけど、そうじゃないんだよねきっと。でも土台かぁ、何すればいいんだろ?」

「明確な目標が無いなら勉強じゃないかな。学力が高くて困る事は無いし、あればあるだけ仕事の選択肢も増えるよ。そうなれば収入の高い仕事に就く事もできるし、もしつまずいた時だってやり直しがきくと思うんだよね」

 こういうの、きっと今まで色んな大人達が私達に言ってきたはずだ。でも、心に残らなかった。だけど今、涼香に言われた時にずしっと心に残った。それはきっと身近で尊敬できる涼香だからこそなのだろう。

「って、俳優の佐山昭さんに言われたんだよね。最近舞台で一緒にお仕事しててさ、その時に言われたんだ」

「へぇー、大御所はやっぱ良い事言うんだねー」

 モカが感心混じりに溜息をつく。私はちょっとだけ拍子抜けしたけど、でもまぁ涼香の口から聞けたからこそ響いたのかもしれない。

 ふと窓の外へ目を向ける。夕方四時だけどまだまだ日は高く、一日の長さを感じた私は二人の顔を見て笑った。

「もうある程度見たからさ、これからカラオケでも行かない?」

 二人ともキョトンとした顔をしていたが、最初に笑ったのはモカだった。

「えー、いいの? 転校初日に誘われるとか、マジでありえないけど嬉しい。なんかそうやって街の事も教えてくれたら嬉しいかも」

「涼香も行くでしょ」

「それはもちろん」

「えー、嬉しい。涼香って歌も出してたよね。生歌って聴けるのかな?」

「あれは子供の時のやつで、しかも音痴だったじゃない。子供が一生懸命やってから大目に見てもらえただけだよ」

 モカの言う通り、涼香は幼い頃に歌手デビューも果たしている。でもそれは本人の中であまり触れられたくないらしく、私だって歌ってなんて軽々しく言えない。

「あー、やっぱ無理だよね」

「……歌わないとは言ってないよ。まぁ、みんなで歌ってくれるなら、一回だけ」

 恥ずかしそうにそう告げる涼香の言葉に私とモカは言質を取ったとばかりに顔を見合わせ、こみ上がる喜びをこらえきれずに笑った。

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