幽人
ふと、振り返ったその方向に、すでに物質的なものは何もなかった…
平成を終えてしばしの田舎町の街灯に照り返された夜空以外はね。
毎日は怠惰に流れていく。これはヒトに平等に与えられていると信じたい。だけどね、大切な人には定期的に会いたい。
特に取り柄のない人間に対しては極めて冷たくさえ思えるほど淡々と過ぎ去っていくそれはそれでいい。誰も好き好んで戻ってきた訳ではない。ただなぁ、この街はそんな私をも受け容れてくれた。
三寒四温のルールが破られる時期、気候変動がキーワードとなる今、春なのかな?
皆が慌ただしく活動し始め、むやみに希望を振り回す頃、私はある古びた印刷会社に入社した。
大学で出版業や文化人類学など小難しいことを学んだからではない。都会の生活や就職活動にほとほと疲れ果てた。その気持ちを最優先しての帰郷であった。周囲は祝ってくれる人、理由を知りたがる人で二分された。昔からの理なのか、面倒くさいときは出来るだけ茶を濁し、忘れてくれるだけの十分な間を空けた。その場でもそう、深く切り込まれた場合は、絶対に街でも会わないように気を遣いながら。
我が街には三つの小学校、二つの中学校があった。そのうち一つの中学校は、下からまるまる持ち上がりだったから、まるでミッション系の学校みたいにどうでもいいことまでも知れ渡る、