SideA-5
あれから、また三年が経過した。彼女は五月雨の中を、今年も傘をささずにやってきた。左手にはシルバーリング、右手には花束を。彼女の顔に涙はない。
僕は、この日が来る度に安堵する。そして思う。僕が前を向かなくてどうするのだ、僕がいつまでも後悔の海に沈んでいてどうするのだ、と。
彼女は、しっかりと前を向いている。容赦なく降り注ぐ雨に打たれても、瞬き一つしない。風に頬を打たれても、毅然とした態度でいる。それに比べて、僕はどうだ。死んでからというもの、ずっと後悔し続けている。天にも昇れず地にも堕ちられず。宙ぶらりんなまま三年が経過している。だが、僕はこのままで良いと思う。ここにいなければ、僕はもう彼女に会えないのだ。彼女に会えるならば、僕はずっと彼女に嫌われるような人間であろうと思う。
彼女は、こんな弱い僕を殴りたくてしようがないだろう。永久に愛を誓ったのにも関わらず勝手に僕がいなくなってしまった上に、ずっとうじうじと下を向いているのだから。僕を憎んでいるならば、甘んじて受けよう。けれども、僕には分かる。彼女が僕を憎んでなんていないってことを。彼女の気持ちは、季節のように移りゆくものではないってことを。仮にそうでないとするならば、僕は今すぐに天へと旅立ち、シルバーリングを遙か彼方へ放り投げてしまおう。
しかし彼女がそうしない限り、僕もしない。
だって、僕は彼女に永遠の愛を誓ったのだから。
また、葉桜の季節に会いに来よう。
さようなら、愛しい人よ。
とりあえず、SideAが完結です。
ここからSideBを開始する予定ですが、もしかすればこれで完結、ということになってしまうかもしれません。
その時はご了承くださいませ。