SideA-2
両手に色とりどりの花束を持ち、葉桜の下で僕は彼女に想いを伝えた。
『好きです』のたった四文字を吐きだすことだけに、一体どれだけ悩んだか覚えていない。しかし、告白の日に四つ葉のクローバーを見つけたことだけは覚えている。綺麗に形の整ったクローバーだった。世界は僕を嫌っている、と常々思っていたが、その時ばかりは好かれていると感じた。
青々と輝く葉桜は、僕を祝福してくれた。
彼女は花束を手に取ると、にこやかにほほ笑み、ありがとう、と言ってくれた。
本当に嬉しかった。大声で泣いた。ありがちな表現ではあるけれど、天にも昇る気持だった。
僕は、人目もはばからずに彼女を抱きしめた。爽やかな五月の風が、僕を、そして彼女を包みこみ、彼女の体温が僕に伝わり、彼女とすべてを共有している気がした。あの時に感じたものは、とても言葉などというものでは表現しきれない。いや、この世に存在する何を使っても不可能だろう。
永遠の愛。そんな儚く、少し触れれば崩れてしまうようなもので、僕は愛を誓ったと思う。当然、当時はそれを守りきるつもりで口にした。いや、守るべきものだと思っていた。
紫陽花が咲いても、青い葉が赤に染まっても、そして世界が白く化粧をしても、僕は変わらずに彼女を愛し続けた。何も不満はなかった。あの日見た空がいつまでも変わらぬように、僕の彼女への気持ちもまた、不変のものだった。けれども、それは僕の独りよがりであり、勘違いなのかもしれないとも考えていた。彼女の気持ちは、季節のように移ろいでいる、と。僕は、できるだけそういったことは考えないようにした。