28-5
リュート様の真剣な横顔を、ここぞとばかりに見つめる。
眼鏡をかけていない、鼻筋の通った美しい顔立ち。
見つめれば見つめるほど、胸の奥が締め付けられるように感じた。
――離れたくないなぁ。
ルキウス様がどこまで本気か分からないけど、私はずっとリュート様の傍に居たい。
もし攫われたら、逃げ出して帰ってきてもいいかな。 攫われるような足手纏い、要らないって言われてしまうかな。
「……カレン?」
声をかけられてハッとする。気が付いたら、リュート様の頬に触れていた。
「し、失礼しましたっ」
「どうしたの、そんなに泣いて」
言われてから気が付いたが、挙句の果てに涙まで流していたらしい。
「ち、違うんです!ちょっとその、あの……」
「ルキウスって人に何か言われたの」
リュート様の口からその名前が出たことに驚いて、一瞬、時が止まったかのように感じる。
そんな私の反応で「是」と判断したらしいリュート様が、苦々しい表情を浮かべ溜息を吐いた。
「ゼフトの用件もそれだった。……カレンが寝間着見られていいなら部屋に入れるけど、どうする?」
◇
流石にガウンまでは持ってきていなかったので、リュート様に贈ったブランケットを肩にかけ寝着を見苦しくないように隠してから、部長に入ってきてもらう。
部長は私を一目見て、安心したようにしゃがみこんでしまった。
「あぁ、マジで居た。良かった……。邪魔して悪いな、用件終わったらすぐ出てく」
「いえ、あの、どうされたんですか?」
「ストックリー、お前、ここに泊まるって詰所にいる護衛官に伝え忘れただろ。『ストックリー顧問補佐官が指定居住区画に戻ってこない』って俺に連絡来たぞ」
数秒かけて意味を咀嚼した結果、恥ずかしさのあまり叫びそうになった。
顔から火が出そうなくらい頬が熱い。思わず両手で口元を覆い、蹲ってしまう。
とんでもない大失態である。
「まあ、技術部棟に行くって話自体は通ってたから騒動にはなってねぇ、安心しろ。さっき俺から連絡もしておいた」
ゼフト部長は苦笑いしながら立ち上がり、椅子に座って居住まいをただす。
「……んで、ルキウス殿に何言われた?一言一句違わず報告しろ」
「えぇと、あの……いま、ですか?」
部長からの要望に首をかしげる。こう言っては何だが、今は深夜。
私が顧問室に来た時点で日付なんてとうに変わっているし、普段ならリュート様すら寝ている時間だ。
それだけであれば明日でも問題なさそうなのに……?
葉巻とブランデーの残り香をさせながら、部長は優雅に笑む。
「そ、いま。夜会帰りに紳士倶楽部に行ったらルキウス殿と鉢合わせてな……まあお上品にブチギレられた。豪商どころか政商クラスのお人なんでね。アレをどこまで真剣に受け止めるか今夜中に判断したい」
血の気が引き、心臓が絞られたんじゃないかというくらい痛んだ。
あの紳士的で寛容なルキウス様が、明確にお怒りになっている……?
「わ、私、なにか粗相を……」
「それを今から判断するんだよ。まぁ、といっても怒りの矛先はお前じゃねぇ。あの人が怒ってるのは多分……」
ゼフト部長が、ゆっくりと顔を上げる。その視線の先に居たのは――。
「……僕?」




