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王都内の中規模邸宅。
花のような瑞々しい香が微かに焚かれている。
調度品も異国のものながら、館そのものと美しく調和しており、まるで主催者であるこの方のようだと感じる。
招待を受けたサロン。
主催であるルキウス様へご挨拶に伺うと、彼人が口を開く。
「これは美しい。まるで『セーラの月鏡』のようだな」
頂いた言葉に、静々とカーテシーと共に言葉を返す。
今回は部長もセリナさんも同行はしていない。私一人で、上手くやらねばならない。
「本日はお招きありがとう存じます。御国の有名な古典でございますね。月の光を集めて作られた手鏡に例えて頂けるとは光栄です。鏡のように誠実に、ありのままに、良き関係を続けられましたら幸いです」
彼人は金色の目を軽く見開く。
「まさか、我が国の古典をお読みくださるとは」
「冒険活劇が多いのですね、大変胸踊る作品ばかりでございました」
今日のために、商会の主商品や主要な取引先、各国での大まかな評価などを頭に叩き込んだ。
世界を股にかけるルキウス様にとって祖国の重要性は測りかねたが、そちらについても一緒に学んでおいて良かったと胸を撫で下ろす。
金色の瞳が、優しげに弧を描く。
「本日はゆっくりとお寛ぎください。男爵夫人」
「温かなお言葉、ありがとう存じます」
今日はルキウス様の商会が我が国アウリアド内の工房と契約し、新たに販売される事になった商品の品評会だ。
私以外にも女性が比較的多く、歓談の場はとても華やかだった。
「あら、ストックリー夫人」
「大使夫人、ご無沙汰しております」
年末の大舞踏会でダンスをさせていただいた、大国の大使夫人もいらしている。
他にも国内に滞在している各国の要人方がいらしており、アウリアド国内で行われているはずのサロンなのに、あまりにも多国籍な場だった。
◇
「まぁ、素敵なショール」
「そちらの手袋もお美しいですね」
「なんてきめ細やかな布なのかしら。ドレス用はある?」
品評会は色とりどりの布製品の登場で更に華やかになった。「宜しければお試しください」と女性参加者一人ずつに異なる品が渡され、皆思い思いに身に付けたり見せ合いっこしたり交換してみたりと、実に賑やかだ。
少し落ち着いた頃に、主催であるルキウス様の声が響く。
「美しい皆様を彩れたこと、大変恐縮でございます。本日お試しいただいた皆様には、僭越ながら贈り物として差し上げます。……ええ、ぜひ身につけて出席なさる時には、どこの品か囁いていただければ」
そう言って茶目っ気たっぷりにウインクする姿に、穏やかな笑みが広がった。
◇
「――で、また増えたと」
「はい、増えちゃいました……」
特に様子見や接触などもなく無事技術部棟に帰り、部長にショールを見せながら報告する。
部長も半目で呆れ顔だ。
「……お前、何やってそんな気に入られたの?」
「さぁ……?あと、今日は女性客全員、宣伝用に渡されました」
「プレゼント付きの招待状も、お前だけじゃないといいな」
「うぅ……」
部長のため息混じりの言葉に、思わず呻いてしまった。
「カレン、おかえり。一緒に戻ろう」
リュート様が部長室まで迎えに来てくださったので、部長に慌てて挨拶をする。
「今日は何事もなくて良かったね。そのショールは?」
「あ、あの、サロンの参加者全員に配られまして……」
誤解されたくなくてあわあわと弁明しようとしたら、リュート様が悪戯っぽく笑む。
「良かった。もしカレンだけに贈られたものなら、妬いちゃうところだった」
「そ、そんな……っ」
気のせいだろうか、最初に接触――威力偵察があった日以降、リュート様の感じが少し違う気がする。
いつも優しいのに、もっと優しい。でも、その分何故か遠く感じる。思い過ごしならいいのだけれど……。
そんな事を考えていたら、廊下の窓が開いていたようで中庭から威勢のいい声が聞こえる。
護衛官達の格闘訓練。といっても広さの都合上、一対一の組み手を数人で見せ合い助言し合う程度だ。同じ軍部だが非戦闘機関内ということもあり、流血や骨折の恐れのある過度な攻撃は避けているらしい。
――日常が、少しずつ、でも確かに変わっていく。




