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「お前、新人男爵夫人にしては社交で『上手く』やりすぎなんだよ。付け入る隙がほぼナシで、このまま体制が固まると手を出せなくなるっつって、奴さんたちも焦ってるって寸法だ」
「あー……」
カイル班長の言葉に、思わず私も苦笑いしてしまう。
失言しないように細心の注意を払っていたが、頑張りすぎて裏目に出たらしい。
カイル班長はふぅと溜息をつく。
「現状の威力偵察を接触と判断する。さっきも言ったが、連中は段階踏んで仕掛けるつもりだろうな。威力偵察で情報収集、春には拉致の試みに切り替わり、その後は……」
そのまま目を伏せた班長だが、一瞬で顔を上げて部長とリュート様を見る。
「捕らえた襲撃者の『対処』は、軍の情報部でいいか?部長と顧問としての意向が知りたい」
「ああ、頼む」
「待って」
頷く部長とは対称的に、リュート様が硬い声で静止をかけ、さっきよりも強い視線でカイル班長を見据える。
「そのあとは、何?」
「拉致のための、護衛排除の攻撃か小規模戦闘ってところだな。安心しろ、国際問題にしたくねぇのはお互い様だ。騒ぎになるほどの戦闘にはならねぇよ」
明確な攻撃行動にまで発展すると思っていなかったのだろう、リュート様とウェンさんの顔が強張る。
そんな二人を見て、ゼフト部長は苦渋の表情を浮かべる。
「言っておくが、ストックリーを引っ込めることはしない。社交に出すのをやめて外出機会を絞れば、その機会に集中的に狙われるからだ」
「……っ」
リュート様が何かを叫ぼうとして、グッと口を噤む。
その顔があまりに痛そうで、思わず手をそっと添えて微笑む。
「大丈夫ですよリュート様」
途端に、手をギュッと握り込まれた。
「……僕は嫌だよ。キミがそんな危険な目に遭うなんて」
「ふふ、本当に大丈夫ですよ。私は皆さんが守ってくださるから安全です。戦闘に参加しなくていいなんて、護衛官時代よりもすごく安全ですっ」
努めて明るく笑うと、リュート様が泣きそうな顔でこちらを見る。
ウェンさんが、沈痛な表情ながらもリュート様をなだめるように肩に手を置いた。
お二人を安心させるように、前向きで建設的な話を進める。
「ベスさん、夏前までに帰路選定時の暗号、もうちょっと複雑にします?」
「そうねぇ。カイル、その時期には帰路の安全確保用員も貸してくれるわよね?」
「部長さんが手薄になるのは痛ぇ。他班に増援の打診かけとくわ」
カイル班長が手をひらひらとさせて応え、ベスさんが更に話を進める。
「『矛』はいつから付けてくれる?」
「直近はとりあえずその日手が空いてるヤツを臨時でつける。正式配属は準備があるからちょい待て……ああそうだ、部長さん」
「……何だ」
「要望が2つある。1つは技術部棟の中庭で俺達の組み手・格闘訓練を許可して欲しい。仮に外部からの目があった時、いい威圧になる」
「わかった」
「もう1つ、戦闘が確定した時だけは俺はアンタを離れてコイツに付く。班員を死なせないのも班長の仕事なんでね。その時ばかりはアンタもセリナ女史も、社交はキャンセルして技術部棟に戻ってきてもらう」
「――っ、そんなヤバくなるのか」
ゼフト部長が焦りの色を浮かべるが、カイル班長は肩を竦めて笑うだけだ。
「安心しな。状況がヤバいんじゃなくて、その頃までコイツを狙い続ける連中の面子がヤバいだけだ」
「それはカイル班長達が有名すぎるのがいけないんでしょう」
「うるせーよ」
「ふふ、言われちゃったわね」
ついツッコミを入れてしまったが、カイル班長とベスさんに笑い飛ばされる。
ウェンさんが不思議そうな顔で口を開く。
「どういうことです?」
「カイル班長達は、元々国外向けの重要案件が多い班なんですよ。和平交渉の立会人として戦争中の国に赴く、この国の要人を護衛したりとか」
私の説明にベスさんが笑顔で、カイル班長が皮肉気に付け足す。
「おかげでウチの班、傭兵組織とか相手だと結構名が知れちゃってるのよね~」
「そのせいで、俺らの班が絡んでるってバレた段階で中堅どころは割に合わねぇから即行で諦める。残るのは世間知らずの馬鹿か、実力も装備もガチの連中のどっちかだけだ」
カイル班長が大きく溜息を吐いて、言葉を続ける。
「部長さん、明日から早速時間決めて訓練させてもらう。班長さんたちに通達しといてくれ」
「ああ」
「ベス、『矛』の配属についてもうちょい打ち合わせしたい。この後付き合え」
「いいわよ」
「おーし、じゃあいったんこれでいいか?なんかあるやついるか?」
リュート様は発言することはなかったけれど、私の手に指を絡め、ぎゅっと握り込んだ。




