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3-2

「リュートの言ってることは本当だと思うぞ。アイツ、ああ見えて苦労してるから……」

向かいに座る男性は、そう言うと苦笑いをした。


ここは技術部棟内にある技術開発部長室。

応接スペースのソファに腰を下ろしているこの方は、部屋の主であり技術開発部長である、ゼフト部長だ。


「サンビタリアさんにとっては笑い事じゃありませんよ」

そう言いながら奥の部屋からトベラ様が何かを取ってきた。そのまま応接スペースの卓にそれを置くと、私の方に向き直る。


「サンビタリアさん、色々と思うところもあると思いますが、どうか気にしないでやってください。あの子……リュート様は本当に納得した上でここで生活をしていますから」

「……はい」


ゼフト部長もトベラ様も、リュート様との付き合いは私なんかより遥かに長い。この様子だとリュート様がどうして技術部棟で暮らすようになったのか全てご存じのようだし、私が何か騒ぐことではないのだろう。胸の中のモヤモヤを必死に抑え込む。


「さて、じゃあ本題に入るか」

ゼフト部長があっさりと話題を切り替えて、先程トベラ様が持ってきた卓上の物をこちらに見せてくる。

一冊の本だった。相当古いようで、表紙などは獣皮を使っている上にかなり年季が入っているように見受けられる。

何よりの特徴として、本が開けないよう、かなり分かりやすく封印術式が施されている。


「えぇと、こちらの本は……?」

「宮廷魔導課からの依頼品ですよ」

トベラ様が少しうんざりした様子で本を見ながら説明してくださる。


宮廷魔導課とは、私たち国軍の魔導研究機関とは異なり王宮そして王家に仕える魔導研究機関だ。

古文書の解読や儀礼用術式の継承、秘匿魔術の管理などが専門であるはずの宮廷魔導課から、古書の依頼品……?


疑問が顔に出ていたのか、ゼフト部長が笑いながら教えてくださる。

「サンビタリアもそろそろ知っておいてくれ。これはな、“嫌がらせ"」

「ゼフト!その言い方は――」

「いいじゃねぇか。どうせそのうち察する」

「えぇと……」


嫌がらせ……嫌がらせ???

貴族以外所属すら許されない、王家直属の名誉を受ける宮廷魔導課が何でわざわざ???

「どうしてそんな幼稚な事するのか分からないって顔してるねぇ」

ゼフト部長が、くっくっと笑いながら言葉を続ける。


「要は僻みだよ。ウチは実力主義で平民貴族関係なく所属してる上に色々と実績つけちゃってるから、血統や名誉を重んじるあちらさんとしては面白くないわけ。だから手に負えない案件を、適当な理由付けてウチに送りつけてくるのさ」

「手に負えない……?」

「こちらは先月、老朽化のため解体移設になった神殿から発見された遺物です。発見した神殿騎士2名と、解呪にあたった宮廷魔導士も3人ほど倒れたようで、まだ治療院で療養中です」

「えぇ!?」


トベラ様のお言葉に動揺を隠せない。ゼフト部長はああ仰るが、宮廷魔導課の中には優秀な魔導士もたくさん居られる。かくいう私の父も宮廷魔導課所属だ。それが3人も、というのは……。

ゼフト部長はゆっくりとソファにもたれ、ため息をつく。

「しかも今回は笑えないことに、本が届いてすぐ対応に当たった古魔術専門のウチの部員も、2人治療院送りになった。1人はまだ意識も回復してない」

「え……」

「破棄もできないし、というか攻撃術式も封印術式も魔力感知の段階で反撃術式が発動する。はっきり言って手が負えない」


それは本当に不味いやつなのでは、と思うと同時に嫌な予感がする。

「あの……ゼフト部長、質問よろしいでしょうか」

「ん?」

「何故、このようなお話を、顧問補佐官の私になさるんですか?」

どうか違っていてほしい。心臓がどくどくと早鐘を打つ。


「もう、リュートに頼るしかない」

ゼフト部長は、こともなげに仰った。


「意識が戻った方の部員の報告を聞く限り、高濃度の魔力を打ち出す、シンプルな力技がベースだと想定される。全員急性魔力中毒の症状も出てるし。……こんな古い本のどこに7人も昏倒させる魔力が保管されてんのか分からんが」


ゼフト部長は微笑んだまま、正面のソファに座る私をしっかり見据えた。

「ウチの面子で一番魔力容量が大きくて、魔力コントロールも上手くて、古魔術の知識もそこそこあって魔法解析も得意で、しかも古の魔力保管技術が使われてるみたいな話に絶対食いつく“魔法バカ"、誰だと思う?」

部長の言葉に、私はたった1人しか思い付かなかった。



「へえ、今回はかなり面白そう。早速スケジュール調整しようか」

「あの、リュート様。ちょっと待ってください……」

顧問室に戻ってリュート様に報告したら、頭の痛くなる返答が返ってきた。


表情そのものは動かないものの、宮廷魔導課から、と伝えた瞬間から少し目つきが変わり、今は完全に赤茶色の目が輝いている。

「どうしたの、サンビタリア」

「すっごく楽しそうですね!?」

「よく分かったね、すごく楽しみ」


やっぱり楽しみらしい。もう7人も倒れ、まだ1人は意識も戻ってないはずなのに。

どうして危ないって分かってて、そんなに嬉しそうなんですか……。


「ゼフト、スケジュールについてなんか言ってた?」

「……」

「サンビタリア?」

「こ、怖くないんですか?もう何人も倒れてるのに」

リュート様は目を瞬かせる。


「誰も死んでないなら、そこまで危なくない。意識戻らないのって10班長でしょ、魔力容量が小さいからダメージが酷いだけ」

「そんな……っ」

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