27-1
大舞踏会から息つく暇もなく、怒涛の年末進行を終えて新年を迎える。
貴族として王宮の新年拝賀を済ませ、ご招待を受けたサロンの帰りに、それは起こった。
≪カレンちゃん、すこし止まるわね≫
御者席に座っているベスさんから、通信術式が飛んでくる。
そのまま馬車がゆっくりと止まる。
≪どうされました?≫
≪前の方で荷馬車の荷物が崩れたの。少し様子を見るから待ってて。防護術式張るから馬車から出ないでね≫
≪わかりました≫
――ベスさんが薄く術式を展開する気配がしてすぐ、「コンッ」と何かが当たる音がした。
そのまま馬車が急に動き出す。
≪ベスさん、どうされたんですか?≫
≪衝撃あり。多分小石ね。威力偵察の可能性アリと判断し、ただちにこの場から離脱します≫
≪了解≫
ベスさんの真剣な返答に、つい護衛官時代の調子で返事をしてしまう。
いま私についているのは、『盾』であるベスさん一人。
脅威排除担当の『矛』がいればすぐに飛び出して石を投げた犯人を確保してくれるだろうが、現状は逃げる以外の選択肢はない。
≪やっぱり多少は来ますね≫
≪仕方ないわね。貴女達夫婦に正攻法で接触できない連中に出来る事って、これしかないから≫
◇
「うっわ、もう接触あったのかよ。新年早々ご苦労なこったな」
カイル班長がげんなりした顔で言う。
技術部棟に無事到着し、他の午餐会から戻ってきていたゼフト部長とカイル班長を見かけたのでそのまま口頭報告しているところだ。
今は部長室。ゼフト部長は苦い顔をしているし、ウェンさんは「リュートを呼んできます」と退室していった。
――どうしよう、まだ接触疑惑段階なのに、話が大きくなってしまった。
「あの、まだ事故の可能性も……」
「黒だろ。なあ?ベス」
「そうね。小石が魔力を纏ってたし、衝撃の反響で防護術式を解析しようとしてる感じもあったわ」
「それ接触か?もう襲撃だろ」
ゼフト部長が固い表情で口を挟むと、ベスさんは肩を竦める。
「威力偵察を接触にするか襲撃にするかは、報告書を書くお二人に任せるわ。それよりも……」
ベスさんが何かを言いかけたタイミングで、部長室の扉が勢いよく開く。
「カレンっ」
リュート様が足早に私に近づいてきたかと思うと、そのまま腰を抱かれる。
「大丈夫?」
「あ、あのっ、だ、大丈夫ですからっ、あの……」
頬が熱い。襲撃うんぬんより、人前で密着されているという状況に、羞恥で思考が持っていかれてしまった。
そんな私たちを、カイル班長が呆れ半分といった様子で半目で眺める。
「おー、相変わらず過保護な旦那だな。……んでベス、なんだって?」
「『矛』が欲しいわ。誰にするか考えておいて」
「分かった」
リュート様がカイル班長を真っ直ぐ見る。
「聖女の妹でもあるカレンが危害を加えられる可能性、低いんじゃなかったの?」
「だからこの程度で済んでんだよ」
カイル班長が片眉を上げ、呆れたように答える。
「護衛の質、数、対応力をきっちり測って一気にやる気なんだろうな。常に狙われるわけじゃねぇ。費用対効果諸々踏まえると、せいぜいこの半年がピークってとこだろ。
死にかけることはあっても、明確な殺害目的の襲撃は無いと判断していい。主目的は間違いなく拉致だ」
まあそうだろうな、と班長の話を聞きながら思う。
私を狙う目的は『人質』以外考えられない。
発言力も実力もない私個人をどうこうしたい、というより私の身柄を確保してリュート様やお姉様への交渉カードにしたいと考える方が自然だからだ。
ただ、どうしても疑問が拭えなかったので班長に聞く。
「それは分かりますけど、思ったより早くないですか?てっきり今月は馬車のルート割り出し程度かなって……」
「そりゃお前が悪い」
班長は珍しく、明らかに苦笑していた。




