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26-1

夕刻、早めに夕食を済ませて身支度を始める。

リュート様からは「頑張って」「くれぐれも無理しないで」とお声かけを頂いた。


お姉様から頂いたミストブルーのドレスに、お下がりのアイボリーのオペラグローブとシャトレーヌ。

本当に、お姉様には何から何まで面倒を見ていただいて頭が上がらない。


髪をねじり上げてひとまとめにし、飾り櫛で留める。

道中寒くないように、厚手のコートを上から羽織る。


支度を済ませ扉を開くと、セリナさんとベスさんが私の頭から爪先まで見て、満足そうに笑む。


「ばっちり!カレンちゃん可愛い~!」

「綺麗よ。会場に着いたら控室で最終調整ね」


「はい、よろしくお願いいたします」


今夜は王室主催の年末大舞踏会。

――私の社交デビューだ。



「今日は顔見せと挨拶が主だ。紹介は俺がまわすし、最初と最後のダンスも俺がきっちり相手するから心配しなくていい」

馬車に同乗したゼフト部長が、緊張している私を勇気づけるように声をかけてくださる。


今回の舞踏会は年の瀬を飾る恒例の催しで、国内の貴族の多くが参加する。

それに叙爵されたリュート様……ストックリー一代男爵にもお声がかかるのは当然だった。

特に今年叙爵されたばかりのため、参加して陛下にご挨拶させていただくのはもはや義務に近い。


しかしリュート様は保護軟禁中であり、外では飲食も難しい。軍部としては国外の賓客との接触も避けてほしい。

軍部と貴族院で調整した結果、妻である私と、リュート様の代理としてゼフト部長が参加することになった。

私の役割は、妻として名代として会に出席すること。リュート様との接触を願っている方々からの防波堤になることだ。


「部長もお忙しいのに、申し訳ございません」

「気にすんな、夜会も舞踏会もいつものことだ。それに内勤じゃお前らに手間かけっぱなしだからな。たまには役に立つさ」


部長の優しい微笑みに肩の力が少し抜ける。

軍部や貴族院、商会長や上位ギルド……部長はいつも、渉外と折衝に飛び回っているお方だ。

実務家としてサロンも紳士倶楽部もコーヒーハウスも足繁く通い、夜会も舞踏会も、晩餐会も午餐会もしょっちゅう。その為とても顔が広いのだとセリナさんから聞いた。

そして技術部が自由に研究をして実務に励めているのは、そういった部長の地道な折衝による功績が大きい。


リュート様のような中で実業務をどんどん進めるのとはまた違う、外で動いて……『仕事』をしてくださっている方。


一つ深呼吸をして、気持ちを整える。

大丈夫、部長はすごい方だ。私はまず落ち着いて自分の立ち居振る舞いに、言動に気を付ければいい。


それに……貴族の多くが出るとは言っても、傍系は呼ばれないことが多い。

サンビタリアは本家筋であるお父様やお姉様くらいしかいらっしゃらないはずだ。

――大丈夫、きっと大丈夫。


そう何度も自分に言い聞かせていたら、馬車の速度が落ちる。

入城のための列に並んだのだと、すぐに分かった。


「……っ」

「気持ちは分かるけどな、そう緊張するなって。美人が台無しだ」

部長がわざと軽い口調で声をかけてくださるが、馬車を降りる瞬間で第一印象が決まることは私でも知っている。

先に会場に来た参加者が、品定めするような視線で馬車を降りる人間を見ているところを、護衛官時代何度も見てきた。


――今日は、私が品定めされる番だ。


「安心しろ、お前は綺麗だよ」

「え?」

部長からの唐突かつ意外な一言に思わず目を瞬かせると、ニッと男性的な笑みが返ってくる。


「あのリュートが惚れたんだ。自信持て」


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