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25話幕間(急遽放り込まれた案件の会議)

(急遽放り込まれた案件の会議)


「えー、今回の案件は、最近新設された国勢庁の新庁舎で、一番大きい執務室の照明魔導具が不定期に『ちらつく』現象が発生。

微細な明滅が起こるため、職員から「集中できない」「目が疲れる」という苦情が上がり、業務効率が低下しているため、原因究明と対処を希望、だそうです」


3班長が淡々と読み上げようと努めているが、苦笑が隠しきれていない。

3班長だけではなく、同席しているセリナさんも、4班長も、ウェンさんもどことなく落ち着かない表情だ。そして……


「この時期に飛び込み案件とか、セリナさん正気?」

リュート様ですら、心なしかげんなりした声を上げる。


せっかくの年末進行前の猶予期間がこの案件で消し飛ぶうえに、年間報告書にこれを追加する必要があるのだ。

通常通りの外部依頼ならここまで気にしないが、無理やりねじ込まれた案件なため、全員かなり思うところがあるらしい。


正気を疑われたセリナさんはぷぅっと頬を膨らませる。

「リュート君ひどい。これ国勢庁からのねじ込みなのよ?これ断ったら、どれだけ軋轢生まれると思ってるの!」

「知らないよって言いたいところだけど、まあそうだよね。うちの外部依頼、大半が国勢庁経由だし」

リュート様が大きなため息を吐いた。


ちなみに国勢庁とは、各地領主とは別に、国として一元管理したい情報の収集や、国全体としての施策運営をするための組織だ。

そのため、大きい町などに役場を置き、領主とは別に国民の相談を受け付けることもある。


「国勢庁も、この年末の忙しい時期に灯りがちらついて集中できないの、現場がかなり苛ついてるみたいでね。泣きつかれました~」

セリナさんが肩をすくめる。


ちらりとセリナさんが私を見たので、慌てて定型文を読み上げる。

「案件概要から判断し、適切と思われる方を招集いたしました。ご検討の上、本件受領の了承を頂きたく存じます」


リュート様がそれを受けて、4班長に視線を向ける。

「ちらつく、ねぇ。どう思う?」


「うーん、そうだなぁ〜」

4班長は資料を見ながら口を開く。


「施工時の仕様見てる感じ、普通の照明魔導具かな。壁の起動用魔導具から術式流して、照明内部の素材を励起させる、化学反応式のやつ。

ただ、この大きさはちょっと珍しい。……これ執務室ってことは、みんな個々人の魔導具も使ってるのかな」


「ああ、そんな感じだよ」

3班長が資料を見て答える。

「共用魔導具は文導機の国内流通版が2台と板書用の大型水状硝子。それ以外は個々人が普段使いの魔導具……四則演算器とか個人用水状硝子、懐炉あたりを使ってるらしい」

「うーん、一回素材が励起したら維持魔力不足になるような型じゃないし、魔力波干渉が一番可能性としては高いと思うけどね。起きるかなぁ……?」


悩んでいる4班長に、ウェンさんが資料片手に顔を向ける。

「可能性はゼロじゃないですよ。この照明具、消灯時は位相相殺で励起を打ち消すタイプですよね。かなり大型のようですし、逆に受容しやすくて室内の小型魔導具の魔力波の影響、受けてるんじゃないですか?」

「やっぱりそう思います?あとは調査検証で原因確定ですかね~」


二人のやりとりを見て、リュート様が口を開いた。

「その線を主眼に入れた現地調査からかな。4班長頼める?」

「おっけ〜、3班から記録係頼んでいい?」

「任せろー……ということで顧問、受領でいいですか?」

「いいよ。正式に3班、4班の合同案件として受領します……ただ」

「どうしました?」


リュート様が少し考えながら口を開く。

「仮に魔力波干渉だった時……最終的には設備入れ替えかな?」

4班長が頷きながら返答する。

「うーん。とりあえず、外部からの魔力波干渉を受けないような遮断術式で応急処置して、そのあとは照明具の素材の見直しかなぁ」


「……ねぇねぇ、爆弾投下していい?」

セリナさんがニコニコと話し始める。

「国勢庁の設備課から、”照明素材を魔力波を防ぐものに変更するべきだ”っていう改善案、もう4か月前に出てるそうで~す」


……一瞬の静寂。


セリナさんの一言で色々察しがついたのであろう。

4班長が「稟議おろせよ馬鹿ぁ……」とぼやきながら頭を抱え、それを見た3班長が笑う。


ウェンさんがこめかみを押さえながら溜息を吐いた。

「つまり、国勢庁上層部は、4ヶ月も前に改善提案を受けたにもかかわらず、予算確保も対策も、なにもしなかったと?」


セリナさんも、もはや笑うしかないという様子で答える。

「そう!お金勿体ないし、現状のままでなんとかなるでしょ!って、ふわふわさせてたみたい」

「せめて稟議承認に時間を要したと言ってあげなさい」


「この時期にこっちに依頼が来たのは……暖房系の魔導具使い始めて症状が悪化したか、冬になって日差しが弱くなったせいで症状が目に付くようになったか、まあそのへんだろうね」

リュート様が呆れた様子で椅子にもたれかかり、腕を組む。


「年末までに何とかできる案件じゃない。セリナさん。先方には、『抜本的な対処は後回し。年内に出来るのは、とりあえず遮断貼って応急処置まで』ってことで、交渉してくれる?」

「おっけー!お姉さんに任せなさい!」


リュート様とセリナさんのやり取りを聞いていた3班長は、乾いた笑いをこぼす。

「年明けて設備交換までウチに正式に依頼が来たら、本格的に地獄が始まるな……」

「やめて、マジで死ぬから」

4班長が頭を抱えたまま、ぐったりとした声で言う。


ウェンさんが力なく笑う。

「2班と9班に声かけておいた方が、怒られなさそうですね。先方の要望と予算次第では、一定以上の床面積の部屋、総取替になりますよ」


4班長がガバリと顔を上げる。

「ウェンさん待って、なんで素材組?9班に頼むのは分かるよ。認証済みの既存素材とか、それ扱える設備系のギルドの紹介して欲しいし。2班はなんで?……え、まさか2班と9班巻き込んで新素材開発とその規格認証取るところからやるとか言わないよね!?」


ウェンさんに向かって泣きそうな顔で叫んでいる4班長を尻目に、3班長はゆっくりと私の方を向く。

「カレンさん、報告書と予算案と……うん、とにかく一緒に頑張ろうね」

「は、はい!」


まずは、作成するべき書類の洗い出しからかな……。

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