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25-2

週末はセリナさんと仕立て屋に行き、最近流行り始めたというパティスリーなどにお邪魔した。

流行を押さえ、話題についていくのも社交の仕事だ。お茶をしながら最近人気の小説や戯曲も教えてもらった。


年末進行前の今のうちに、社交準備と事務準備。

……そう思っていたのに、それだけでは済まないのが仕事というものだ。


「じゃあごめんね、先方に返答するからカレンちゃん返答書よろしく!午餐会行ってきまーす!」

セリナさんはそう言い残すと、飛ぶように会議室を出て行った。

年末直前のこの時期だからこそ発生してしまう、いわゆる『飛び込み案件』の受諾会議が今さっき終わったところだ。


会議室の端では主担当になった4班長が涙目で何かを相談し、ウェンさんとリュート様がそれに応えている。


「カレンさん、調査計画書以外の他の書類準備について打ち合わせ、いい?」

「はい、よろしくお願いいたします」

私に声をかけてくださったのは3班長だ。

3班は外部依頼の初期窓口を担当しているため、事実上全ての外部依頼について顔を出す。

実働が何班だろうと進捗を管理し、先方とやりとりをして、更に部内の実働班とも調整を行う――そのため3班は私の手伝える領分が多い。


「返答書はさっきの議事録をいい感じに加工するとして……多分、4班が複数人で調査に現地入りするから護衛官要るよね」

「そうですね、計画書が出来上がり次第共有します」

「進捗工程表は……うーん、草案で作って調査結果に合わせて修正しようか。大枠考えるのに、いったん9班に話聞きに行こう」

「はい。行くときウェンさんに声かけます?」

「そうしようか」


その後も口頭で簡単な打ち合わせをしていて、ふと思う。


「これ、本当に年内に収まりますか?今年ってあと二ヶ月くらいしか……」

「あはは、やだなぁカレンさん。収めるんだよ」

――あぁ、もう修羅場が始まってしまうのか。

3班長の穏やかな笑顔を見て、ついそう思ってしまった。



そこからは、あまり記憶がないくらい忙しかった。

現地入りする調査に向けての打ち合わせと各種書類、それ以外の外部依頼案件だって終わっていない。

日々届く招待状対応、欠席返答、通常業務も段々と増えてくる。

休みの日もドレスの調整や、社交に向けての復習のレッスン、平日が忙しすぎて出来ていない分の鍛錬の埋め合わせ。

渡されたばかりの資産管理書類の読み込みもまだ残っている。


――やらなければいけないことに、押し流される日々が続いていく。


「カレン、明日休みな」

「……え?」


自机でベスさんから預かった技術部全体の護衛計画書に目を通していたら、リュート様に話しかけられ思わず顔を上げる。

リュート様が心配そうに私を覗き込んでいた。

そのまま手が私の頬に、親指が目元に触れる。


「隈、すごいよ。休めてる?」

「だ、大丈夫です!私がしたくてしてる事ですから」

「カレン」


強めに名前を呼ばれ、思わず押し黙る。

正直に言って、休めてはいない。どうしても時間が足りない。


「申し訳ございません、私の力量不足です……」

挙句の果てに、リュート様にご心配までおかけしてしまった。

自分の実力不足を痛感し、泣きそうになる。


思わず下を向きかけたが、リュート様の手がそれを許してくれなかった。

「いまカレンが抱えてるの、全部教えて」

「え?業務についてはリュート様もご存じで……」

「違う。『全部』だよ。カレンがやってくれてる全部、教えて」



リュート様に促されるまま応接卓へ移動し、話をする。

一通り説明し終えたタイミングで、リュート様が薬草茶を一口飲んで……そのまま大きな溜息を吐いた。

呆れられてしまったかとビクリとしたが、リュート様の口から出たのは予想外の言葉。


「確かに社交周りとかその辺は『夫人』の仕事だけどさ……なんで皆、僕を飛び越えていきなりカレンにだけ話すわけ?」

「え、えぇと……?」


少し苛立った様子のリュート様は、もう一口薬草茶を飲んでから言葉を続ける。


「資産管理の数字周りは僕がやるから、支出記録と銀行はお願い。セリナさんに次から招待状仕分けは僕も呼ぶように声掛けておく。あと業務調整して社交準備に入れる時間増やそう」

「で、でもリュート様の方がお忙しいのに……!」

思わず声を上げてしまう。

私が朝起こしてから深夜眠るまで、リュート様は普段からほぼ休みなく働いている。

それでも忙しくて都度徹夜しているリュート様の負担を、これ以上増やしたくはなかった。


赤茶色の瞳が、優しく弧を描く。

「僕の補佐官が優秀なおかげで、無理な徹夜とかはほぼ無くなった。夜は自分の研究に充ててるだけだよ。

ねぇ、今は夫婦なんだから、分担できることはしようよ。僕だけ結婚前と同じ生活っていうの、なんか違う気がするし」

「ですが……」

「ていうかさ、キミは気付いてないかもしれないけど……それ、一人がこなせる物量じゃない」

「…………え?」


リュート様が少し呆れたように苦笑しながら、私の座っているソファに移動する。

隣に座ったと思ったら、そのまま手を握られた。

「もう。やっぱり気付いてなかった。あのね、補佐官だけでも激務なのに、男爵夫人として普通に帳簿管理と社交対応なんて、普通は無理だからね?」

「え、え?」

「しかも、僕の食事の世話と朝起こすのだけは、絶対に止めないつもりでしょ?」

「そ、それはもちろんです!」


私がリュート様の食事を用意しなかったら、リュート様は丸薬生活に逆戻りだ。

折角体格も良くなってきたのに、また瘦せてしまわれるのは見たくない。

朝もリュート様には時間の許すかぎり睡眠を摂っていただきたいし、寝顔を拝見する至福のひと時も失いたくない。


リュート様の苦笑が深くなる。

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