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25-1

木枯しの吹く季節。


お姉様の誕生日に、ドレスのお礼も兼ねて約十年ぶりにプレゼントと手紙を用意した。

ずっとお姉様のお誕生日をお祝いしたかったので、とても嬉しい。

本当はお伺いして直接手渡したかったが、この時期は親族たちも足繁く屋敷を訪れるので来ないよう、お姉様から言われた。


お姉様の誕生日のあと、本格的な冬が訪れる。

――リュート様の誕生日まで、あとひと月。



「この時期に手のかかるもの贈ったら、怒られると思うよ」

「やっぱりそう思う?」

昼休み。リーリの遠慮ない言葉に苦笑で返す。


部長の不在でずれ込んだ四半期報告書をなんとか片付けた今は、年末進行に向けた大事な準備期間だ。

研究班にとっては比較的余裕のある時期だが、補佐官は年間報告書の草案作りや会議資料に追われ……要は既に年末進行に片足を突っ込んでいる。

それでも、実地試験があった去年に比べれば忙しさはマシな方だ。


「去年は万年筆だっけ?気に入ってくれてるなら、またそういう職人仕事の小物にすれば?」

「最終手段はそうなんだけど、もう少し考えたいなって」

「生活に支障が出るくらいの無理はダメだよ?レンが無理しても、リュート様は喜ばないからね?」

「分かったってば」

私の友人は相変わらず心配性だ。とはいえ業務に支障が出るのは本当に本末転倒なので、気をつけよう。


顧問室の扉を開く。

「戻りました」

「おかえり」


リュート様は相変わらず顔は上げずに応える。今日は水状硝子になにかを書いていた。

自机に戻り、自分の業務を再開する。

お互いにあまり私語をする方ではない。そのため黙々と、静かに業務をこなしていく。


少し冷えるな、と思い膝掛けを取り出してふと気付いた。

技術部棟は文献や書類が多いので、火災を防ぐため各部屋にストーブなどの暖房器具はない。

代わりに一階の専用室で温めた温風を各部屋に巡らせる方式をとっている。

そのせいか、上階にあるこの顧問室は冬が深まってくると少し肌寒い。


「リュート様って、寒くないんですか?」

「ん?別に気にした事なかったかも。寒いならお茶淹れようか?」

「い、いえ、膝掛けがありますので……というか、私に淹れさせてください!」


リュート様が寒くないなら、気にしなくてもいいのかもしれない。でも……いつか寒いと感じた時のための何かを用意してもいいだろうか。



「招待状、なんだかんだ言ってぽつぽつ来るね」

「そうですね」


部長室の隣の補佐官執務室。

ブノワさんが黙々と仕事をしている隣で、私たちはいくつもの封書を広げていた。


リュート様が叙爵されて一番変わったことは、社交の招待状が届くようになったことだ。

皆、新たに叙爵された技術貴族が気になって仕方ないらしい。

もちろん、軟禁状態であり他者の用意した飲食物が口にできないリュート様は参加できない。


「うーん、このサロンは私が代わりに行くね。これはお断りの返事出して……あ、カレンちゃん、これ行ってみる?」

「あの、本当に私が出席していいんですか?私はあまり社交界での評判が……」

「妻が代理しなくて誰がやるの!こっちの技術的な会合とかは部長に言ってもらうから安心して。どうせ部長にも招待状届いてるよ」


渉外として飛び回っているセリナさんは顔が広い。

そのため、招待状の送り主に合わせて代理出席、お断りなど対応をどんどんと決めていく。


「あ、カレンちゃん!今週末、お出かけ行く時間、絶対作るからね!」

お断りのお返事内容と、お詫びの品を送る相手、その内容などを打ち合わせていたら、セリナさんが勢いよく顔を上げる。


「仕立て屋さん、そろそろ行かないと間に合わないんだから!」

「は、はい……」

親族の影響でデビュタントも出来ていない私を、本気で社交に出す気らしい。


この間お姉様から頂いたドレスですら数年ぶりだったというのに、気が付けば社交用に昼夜合わせて5~6着ドレスを新調する必要が出てしまった。

そのため、今度セリナさんが普段お世話になっている仕立て屋さんを紹介してもらうことになったのだ。

仮に舞踏会に出たとしてもダンスカードだって全然埋まらないだろうに、なんだか申し訳ない。


「あ、リュート君にちゃんと話した?ドレス代くらいのお金は持ってたでしょ?」

「はい。あの……け、桁が怖かったです」

「わぁ、さすが特許持ち」


――リュート様の資産。結婚を機にレオナルド様から書類類を頂戴し、今は私が管理をさせていただいている。


軟禁中ながらも顧問としてのお給金は出ていると聞いていたので、ある程度は貯まっているんだろうと思っていたけれど……。

まさか特許収入と合わせて、あんなに貯まっていると思わなかった。小さめの貴族邸宅一軒くらいなら即金で買えてしまう額だ。


男爵夫人程度のドレスなら、それこそフルシーズン揃えても全く問題ない。


「やっぱり基礎技術の特許って凄いねえ。水状硝子なんて官公施設で見ないことないもんね」

「あはは……」

セリナさんの軽妙な言葉になんて返せばいいか本気で困ってしまった。

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