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24-3

受け取ろうとしたら、リュート様が紙の束を胸元に引き寄せた。

「いいの?ウェン手伝いたいなら直読みするよ?」


相変わらず優しい方だ。思わずふふと笑みを零してしまう。

「ありがとうございます。ええと……ではお言葉に甘えて、5班だけ直読みお願いしてもよろしいでしょうか?3班の分は私が携わっている個所も多いので、自分でも確認したいです」

「わかった」

「あ、あと、下読みより先に週報を整えてご提出しても?」

「うん、よろしく」


リュート様とそのまま業務の段取りを進めていく。

着任直後は指示を聞くばかりだったけれど、最近ようやく自分の考えを提案できるようになってきた。


「今日はとりあえず週報だけやったら帰っていいよ。どうせ僕も週報確認して5班の報告書確認してたら3班読めるの明日だろうし。

もし下読み間に合わなかったら、例の保管庫の術式の調査結果と改良案から見る」

リュート様の言葉に頷きながらも、そっと頭を下げる。


「5班の下読みに入れず申し訳ございません……」

「別にいいよ。ウェンのサポートも大事だし。カレンも大変だと思うけどよろしくね」


ゆったりとした微笑みに、頬が熱くなるのが分かる。

大分見慣れてはきたけれど、柔らかい表情に胸がときめいてしまう。


「はい、あの、頑張りますね!」

「ふふ、ありがとう」



――日付が変わったな、と時計を見て思う。

酷い頭痛がする。ゼフトの不在を埋めようと歯を食いしばってはみたが、自分では出来ないことが多すぎる。

頭の痛みを紛らわせるついでに大きく深呼吸をした時、小会議室の扉が無遠慮に開いた。


「ウェン」

「……リュート?」

「お疲れ。進捗聞いていい?」

リュートはそう言いながら、昼間カレンさんが座っていた場所に腰掛ける。


「どうしたんですかリュート、貴方が来るなんて珍しい」

「ゼフトに迷惑かけてるの、僕だからね。帳尻合わせに来ただけ。四半期どこまで終わった?8班と10班なら読めるから貸して」

言うが早いか、リュートは本当に8班と10班の四半期報告書と確認用の月次報告書、週次報告書を抱え込んでしまう。


「……ありがとうございます」

一言声をかけ、自分の仕事に集中する。


しばらく経って、リュートがポツリと呟く。

「……叙爵と結婚、上層部は結構怒ってそう?」

呟きの内容に驚いて顔を上げると、リュートが真剣な表情でこちらを見ていた。どうやら、元々この話がしたくてここに来たらしい。


手を止め、身体をリュートの方に向けてから口を開く。

「いいえ。むしろ軍上層部は皆穏健派ですから、かなり好意的に受け止めていますよ。叙爵についてはゼフトも上層部の理解を得たうえで推薦人として動いていましたし。ただ……カレンさんの扱いについては、意見が割れているようです」

嘘をついても仕方ないので、ゼフトから聞いている内容をそのまま伝えると、リュートが目を伏せる。


「……やっぱり、か」

「この7年、大人しくここに閉じこもって研究していた貴方が、結婚したいと欲しがった子ですからね。

叙爵と併せて里心がつくなら良し。つかないなら……強硬派と連携し、人質として確保するべきだという意見も僅かながらあるそうです」

リュートの指にわずかに力が入り、持っている紙の束からカサリと音がした。

結婚すると決めた段階から想定していたことではあるが、やはり気分の良いものでは無いらしい。


「まあ軍部はほとんどが穏健派ですし、カレンさんにはサンビタリア卿と聖女クルーゼがいますから、滅多なことにはならないと思いますけどね。

国がいま誰を最も敵に回したくないかといえば、現状はクルーゼ嬢でしょうから」

「……叙爵受けたくらいじゃ、信用してもらえないか」

「リュート?」


自嘲の笑みと共にリュートが口を開く。

「僕が下手に行動するとゼフトが困るし、カレンのことも強硬派の意見が通りやすくなる。結局……僕がここで大人しく研究し続けるのが、一番誰にも迷惑かけないし波風立てずに済むんだなって実感してただけ」

「……リュート」

やるせなさが胸に広がる。結局――この子の才能は、この子を幸せにしなかった。


私の表情に気付いたのであろうリュートは、眉尻を下げて優しく笑む。

「安心して。ここでの仕事は楽しいし、不満はないよ。軍部には守ってもらってる自覚もある。……この研究所の中で生涯を終えろと言われれば、従う覚悟もあるよ」

思わず手に力が入る。

口を挟まないよう必死に耐えてリュートの言葉の続きを待っていると、弟分は大きな溜息を吐いた。


「兄さんと話してある程度の見通しは立てたとはいえ、ここからは結構な綱渡りだね。失敗したら……は、あんまり考えたくないなぁ」

「まずはここを守りながら、ゼフトを信じて待ちましょう」


とうとう珍しく弱音を吐いた弟分を見ていられなくて、強く進言してしまう。

リュートは少しだけきょとんとして、ゆったり微笑んだ。

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