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24-1

あれから数日後の朝。

いつも通りベスさんに付き合ってもらい鍛錬をする。


「……っ!」

繰り出した拳とベスさんの掌が触れた瞬間、痛みと骨の砕ける音がした。

「ごめーん、防護術式の硬度、間違えちゃった!痛覚遮断は禁止だよ~」

「ベスさん、いつもそう、仰いますよねっ!」

そう言いながら自己治癒し、すぐに拳を繰り出す。


ベスさんは、班の中どころか護衛官中でも最高硬度を誇る防護術式の使い手であり、鉄壁の盾。

ミスするなんてありえない。


「あはは、相変わらず自己治癒早いね~。上手上手!」

「ありがとう、ございますっ」

叙爵式を終え、婚姻証明書に署名して……リュート様と私が"夫婦"となった、あの日から数日。


実際のところ、姓が変わっただけで日常的に大きな変化はない。

私はもう指定居住区画(ここ)に引っ越しているし、リュート様と一緒に過ごせたのはあの日だけ。

リュート様は翌日からまた研究所敷地内で"保護状態"――軟禁生活に戻った。


鍛錬を終え、今日も朝食を持ってリュート様を起こしに行く。

結婚前から続く、いつもの日常の始まりだ。

顧問室に向かうため廊下を進んでいたら、声をかけられる。


「おはようございます。ストックリーさん、今よろしいですか?」

切れ長の目、軽く流した樺色の髪。

庶務・経理を担当する部長補佐官のブノワさんだった。


「ブノワさん、おはようございます」

「おはようございます。追跡魔導具の改修が終わりました。班員分をお渡ししたいので、時間があるときに執務室まで来てください」

「わかりました、ありがとうございます」


ブノワさんは忙しい方なので、いつも端的に分かりやすく用件を伝えてくださる。見習いたいなと思いながら顧問室に入った。


いつも通り準備や細かい雑務をして仮眠室に入ると、リュート様はまだ眠っていた。

「リ、リュート様、おはようございます!朝ですよっ」

胸を高鳴らせ、リュート様に声をかける。


リュート様がゆっくりと目を開き、私に手を伸ばす。

恥ずかしいのを堪え、引き寄せられるままに任せると、唇が触れ合う。


――いつもの朝の習慣に、一つだけ増えたものがある。


「おはよ、カレン」

「オハヨウゴザイマス……」

あの日以来、リュート様は起きる時、私にキスするようになった。



「5班、四半期報告書まだ来ないの?」

「例の保管庫の件で、3班が齟齬確認中だそうです」

「ああ、だから3班もまだなのか……」

リュート様はそう言いながら2班の報告書をチェックする。

「……ってことは、8班もまだなのかな」

「かもしれません。ウェンさんになにかお伝えしますか?」

「大丈夫だけど、年間報告が怖いね。少なくとも3つの班横断した上に、もし仮設環境で実験してからってなったら、下手すると4班と6班まで巻き込みそうだし」


リュート様の言葉に、去年の年末進行を思い出して少し気が遠くなる。

誰もかれもまともに寝ておらず、3班にいたっては寮にも戻れず床で皆寝ていた記憶すらある。


「……いまのうちに統一書式と単位に揃えてもらえるよう、班長に小まめに声かけておきます」

「本当にそうした方がいいと思うよ。お互いのために」



朝言われた通りブノワさんと会うために、部長室の隣にある、部長補佐官用の執務室まで来た。


実務を担当するウェンさんだけはゼフト部長と部長室で仕事をしているが、庶務・経理担当のブノワさんと渉外担当のセリナさんは普段こちらで仕事をしている……といっても、部長室と内扉でつながっているのだが。


カチャリと扉を開くと、ふんわりした雰囲気の女性がちょうど出ようとしているところだった。

渉外担当のセリナさんだ。


「あっ!カレンちゃん、久しぶりー!!結婚おめでとう~!!!」

「ありがとうございます!ご無沙汰しています」


セリナさんはいつも対外会議や交渉で飛び回っている忙しい方なので、会える日が少ない。

それでもいつも明るく元気な方なので、会うとこちらまで元気をいただいてしまう。


しかし、そんなセリナさんが眉根を寄せ、囁くように私に話しかけてきた。

「そうだ、ブノワ君にもお願いしたんだけど、ちょっとウェンさん助けてあげてくれない?」

「え?」

「部長がさ~、この間宗教国家から親書届いたじゃん?あれとほら、リュート君の叙爵の件とか!で、めっちゃ会議と打ち合わせと会食と社交と根回しラッシュでスケジュールヤバくて。私が部長の書類取りに急いで戻ってきたくらいなのよ」


ドキリとする。

聖水再現のせいで親書が届いていたことも、リュート様が叙爵したタイミングですぐに届いた社交の招待状や国内外からの研究機関からの連絡対応をしてくださっていることも知ってはいたけれど、そんなに大変になっているとは知らなかった。


セリナさんはそんな私の反応を待つことなく、言葉を続ける。

「だから部長、四半期報告書も全然読めてないの。そのせいでウェンさんが下読みどころか査読まで終わらせなきゃいけない班もあって……」

「え」

「週次報告会もウェンさんが一人で回して議事録とか書こうとしてたらしくて。流石に班長達が議事録と週報書くって言ってくれたけどさ……やばいよね?」


ゾッとした。

ウェンさんは、6~10班分の私と同じ業務をしているはず。

それに加えて査読もやって、その調子だと週次報告会の取り回しと、報告書の精査も全部ウェンさん……?


つまり、ウェンさんは私と同業務に加え、リュート様がやっているような通常業務までいくつか請け負う羽目になっているということだ。

――絶対に倒れる。リュート様やゼフト部長だって、その業務量は絶対に倒れる……!


「というわけでさ、カレンちゃんも、ちょっとウェンさんの業務もらってあげて?」

「わ、わかりました!」


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