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23-3

お茶を淹れ、そっとテーブルに置く。


「ど、どうぞ……」

「ありがとう」

そう言って微笑むリュート様に、頬が熱くなるのが止まらない。

来客用のカップを用意しておいてよかった、と心底思う。


――リュート様が、私の家にいる。

緊張のあまり心臓が早鐘を打つ。


仮眠室に入ってリュート様を起こしたことは何度もある。

でも、いわゆる自分の私的な空間にリュート様がいるのは初めてで、不思議な感じがする。


思わず下を向いてクッキーを食べると、そのあまりの美味しさについ「あ、おいしい」と声を漏らしてしまった。

先ほどの侯爵家で供されたものだ。

お姉様がとても気に入っていたのだが、侯爵夫人が気を利かせて私にもお土産にと持たせてくださった。

バターがしっかりとしているのに、練り込まれている香草の香りで重たく感じない。とても美味しいクッキーだ。


「それ、そんなに美味しいの?」

リュート様がじっとクッキーを見る。

以前、薬や毒が練り込みやすい焼き菓子類は苦手と仰っていたけれど……。


「えぇと……気になります、か?」

そっとリュート様に聞く。

「うん。でも大丈夫、ありがとう」

馬鹿なことを聞いてしまった。

リュート様が、ウェンさんか私が作った食事以外はまだ手が動かなくなるのは、私が一番よく知っているのに。


「……あ」

ふと何故か、リュート様の手が動かないなら、代わりに私がやればいい。そう思ってしまい、クッキーをリュート様の口元に持っていく。

「これで食べられそう、ですか?」


リュート様は驚いたようにこちらを見ていたが、ふっと微笑んで口を開く。

サク、と音を立てて、クッキーがひとかけら、リュート様の口の中に入っていった。


「あ、本当に美味しい、意外とサクサクしてる。……ふふ、クッキーなんて、子どもの頃以来だ。ありがとう」

リュート様がとても優しく、嬉しそうに微笑む。


――食べられ、た。

リュート様が、ウェンさんと私以外の作ったものを。


衝撃で固まっていると、リュート様が自らクッキーに手を伸ばそうとする……が、クッキーを持とうとすると、手首から先がだらりとしてしまう。

「うーん、やっぱり駄目か……。ごめん、食べさせてもらっていい?本当に美味しかったから」


それでも、口に出来たのは間違いなく回復の兆しで……。

「……よかった……」

「カレン?」

ぽろぽろと流れる涙をぬぐい、クッキーを持つ。

「はい、どうぞ」


リュート様が優しい顔で、私の手からクッキーを食べる。

「……うん、美味しい。ありがとう。キミのおかげで、美味しいものが食べられた」

リュート様が、そのまま私をそっと抱きしめる。


「ありがとう。愛してるよ、カレン」

「はい、はいっ……私もっ……」

胸がいっぱいになってしまって泣きじゃくる私の髪を、リュート様はずっと手で梳いていた。



涙が少し落ち着いた頃、リュート様が私を抱きしめたまま深呼吸をした。

「……あのね、カレン。僕ら、夫婦になったよね」

「はい」

言い淀むことの少ないリュート様にしては珍しく、なにかを躊躇うようだった。


リュート様は私の髪を梳きながら、言葉を続ける。

「外泊許可も今夜だけで、次いつこうやって二人きりで過ごせるか、分からない。ゼフトが交渉してくれてるけど……次は下手すると数年後かもしれない」

「リュート様……?」


そっと、リュート様の手のひらが私の頬に、親指が唇に触れる。

「……いい?」

「え、えぇと……?」

言葉の意味が分からず戸惑っていると、それを察したリュート様がふふっと笑う。


「こういうこと」

そう言いながらリュート様の顔が近づいてきて、私の唇に、温かいものが触れた。

というわけで入籍しました!ここからが本番です。

これから二人が困難にどう立ち向かっていくのか、お付き合いいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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