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22-2

1班長と4班長が戻った後、リュート様にお茶を出しながら改めて謝罪する。

「リュート様、すみません。色々とお手間を……」


返ってきたのは、優しい笑みだった。

「大丈夫。もともとは出来ていたことを、キミに甘えてるって説教しただけだから気にしなくていい。それより、引っ越しは落ち着いた?」

「はい、すっかり落ち着きました。なので業務量も増やしていただいて大丈夫です!」


リュート様だって暇ではない。

四半期報告書は各班分だけでなく、リュート様ご自身の個人研究分もある。

叙爵に伴う関連書類への対応もあるし、本当に、ものすごくお忙しいのだ。


「よかった。カレンに仕事振れるの、正直すごく助かる」

「ほ、本当ですかっ?」

「もちろん。頼りにしてる」

頬が熱くなり、胸が高鳴る。――どうしよう、すごく嬉しい。


「あの、たくさん頑張りますね!」



午後、お昼を食べて執務室に戻ろうとしたら、ベスさんに声をかけられる。

「カレンちゃん、1つ黒が混じってた。じゃあね」


ドキリとする。つまり、今朝伝えた三人のうち、一人は黒……諜報員か何かだったということだろう。

"対処"したのだろうか。それとも逃げられた?

聞きたいことは色々あったが、ベスさんはそれ以上説明することなく歩いて行ってしまった。


――ベスさんが説明しないと判断したのだ。追いかけて聞いても何も教えてはくれないだろう。

事実だけを受け止め、余計な思考で凝り固まらないよう、ふぅと息を一つ吐き、気持ちを切り替える。


そうしていたら、今度は3班長に声をかけられた。

「カレンさん、週次報告会に2班長呼びたいんだけどいい?」

「どうしたんですか?」

「部内依頼いるかも、急ぎで……」

「……どの案件です?」

3班は外部依頼の窓口を務める班だ。3班単体でこなす小規模案件から複数班にまたがる中規模、大規模案件まで多くの案件が常に同時進行している。


3班長の疲労の濃い顔から、大きな溜息と一緒に説明が紡がれた。

「5班にお願いしてる、郊外の古い保管庫の環境調整のやつ。なんか、魔導具の暴発防止の鎮静術式が乾湿球湿度計に干渉しちゃって、正しく湿度測れないらしくて。

8班長に相談したら、湿球は水以外の素材で考えた方がいいって……」

「えぇと、つまり……?」

「新しい湿度測定用の基準、作らなきゃダメかも……」



話が大きくなってきたのでリュート様に相談したところ、該当班の班長を集めた緊急会議になった。


話を聞いた2班長が、ぐったりと項垂れる。

「無茶振りが過ぎる。流石に短期間で湿球用の代替素材を用意するのは無理です。素材と環境に合わせた補充方法の検討も必要でしょう」

「やっぱり湿度計からの感知術式って発想から変えないと駄目ですかねぇ」

8班長が手に顎を乗せながらそれに答える。


「うーん、要は暴発抑制用の術式が邪魔なんですよね?相殺系の術式用意します?」

5班長の発言に3班長が反応する。

「その相殺用の術式を展開した周囲に、魔導具保管できます?そもそも保管庫ですよ?」

「あー、相殺範囲に白線でも引いておきます?運用者が守るか知りませんが」


意見交換する班長達を眺めていたリュート様が、私の方を向く。

「カレン、ウェン呼んできて」

リュート様が言い終わらないうちに、ノックと共にウェンさんが会議室に入ってきた。


少し驚いた様子のリュート様と目が合う。

「そうなるかなと思ったので、ウェンさんに声かけておきました」

「流石」


ウェンさんに状況を説明したリュート様が、そのまま声をかける。


「ねぇウェン、この状況で仮に湿度調整した空気を生成したとして、部屋全体にキチンと広がると思う?」

「……無理じゃないですか、多分。

というか、湿球の蒸発すら抑制するような術式の影響下でどうして湿度調整の話になったんです?そもそもの要望は?」


3班長が資料を片手に答える。

「それでも本や紙系の魔導具が傷むと」

「湿度以外の原因は潰したんですか?」


「術式や魔導具同士の影響の線はないよ。精査済み」

リュート様の発言を受け、8班長も口を開く。

「ウチで借りれた魔導具と資料等で物理調査した結果、やっぱり水分によるものと判断しましたー。庫内の空気も調査しましたが、抑制術式の影響か木材からのガスもほぼありません」

「蒸発は抑制するくせに、酸化はするんですか?」


ウェンさんが少し考える素振りを見せる。

「リュート、暴発抑制術式の仕様は?」

「古い保管庫だから残ってないって。まあ、だからこそ最初は湿度計からの感知調整術式でいこうって話になってたんだけど……蒸発すら抑制するなら環境固着系なんだろうね。当時は旧式の陣継承の頃だし、その方がシンプルで楽って設計思想だったのかな。

別で調整の術式追加したり無理に室内の空気かき回すよりは、抑制術式の改修の方が現実的?」


「そうでしょうね。初期値設定を見直して、それを維持させる術式に変えた方がいいでしょう。あとから設定変更できるのが理想ですが」

「それはそうだけど、設定変更の方法次第では、今度は魔導具の暴発抑制っていう本筋が乱れる。――5班、術式情報収集してきて。解析は僕がやる」


「ありがとうございます!」

「2班はいったん見送る。2班は顔出しただけだから、日報も会議に参加した事実くらいでいいよ」

「助かります」


術式改良ならリュート様の主戦場だ。水を得た魚のように指示を出すリュート様に、班長達も応えていく。


8班長と打ち合わせを終えたリュート様が、3班長を向いた。

「3班長、聞きたいんだけど……これ、対処療法で済ますのと、仮設環境作ってしっかり根本からやるの、どっちの方がいい?予算と納期、足りる?」

3班長の顔が強張り、ゆっくりと私の方を向く。


溜息を堪え、3班長の代わりに答える。

「ブノワさんに確認してきます」

……うぅ、怒られるだろうなぁ。

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