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22-1

朝、夜明けとともに起き、動きやすい服に着替える。

軽く体を動かした後、ほぼ全力疾走で指定居住区画を走る。


――走りながら、そのまま先日の班長会議を思い出す。

会では技術部全体の警備体制の強化、リュート様の叙爵および私との入籍などが発表された。

班長達からは好意的な反応ばかりだったので、正直ほっとしている。


その後は指定居住区画に引っ越し。以前からこの区画にお住まいだった皆さんへ挨拶もして、少しずつ新しい家での生活にも慣れてきた。


走り込みを終えて家に戻ると、護衛官時代の先輩であるベスさんが、裏手で手を振っているのが見える。

「カレンちゃん、おはよー!」

以前は格闘型をなぞるだけだった鍛錬に、引っ越し後は走り込みと組み手が増えた。


息が整い切らないうちに組み手を始める。万全では無い状態でやることに、意味があるから。

拳を繰り出しながら、ベスさんに話しかける。

「あのっ、食材搬入に、知らない人が3人、混ざって、ましたっ」

「おっけー、こっちで調査しとくね。カレンちゃんは、その人たちの前でボロ出さないように」

「はいっ」

朝の鍛錬中に、不審人物などについて情報交換するのも、いつものことになった。

私の仕事は、人前で隙を見せないこと。外部業者などに見知らぬ人物が混ざっていないか、確認することだ。



「ありがとうございました!」

「今日もお疲れ様〜」


ベスさんに挨拶をし家の中に戻る頃には、すっかり空が明るくなっていた。


シャワーを浴びたら、今度は朝食作りだ。

リュート様は、最近サンドイッチに挟んで食べられるものが増えてきて、付け合わせのバリエーションも増えた。

今日は何を食べてもらえるだろう――そう思いながら食事の準備をする。楽しくて仕方がない。



技術部棟に向かいリュート様を起こし、食事をしながら日報確認と一日の業務スケジュールを打ち合わせる。

朝食を全部食べてもらえて、気分が上がる。これで今日一日頑張れる気がする。


片付けて机に向かおうとしたら、顧問室の扉が勢いよく開いた。

朝のこの時間は、本格的に業務に集中する前なためか、いつも来客が多い。


「顧問―!」

今朝の来客は1班長だった。

落ち着いた色味の金髪が初秋の柔らかい日差しで輝くが、表情もそれに負けず劣らず明るい。


「なんだ。4班長かと思った。どうしたの?」

「今夜暇?この論文読んだ?殴り合いしようぜ~」

1班長は、他国で発表された論文を手にひらひらと振っている。


彼は十人いる班長の中でリュート様と最も歳が近く、記述法式や術式構成などの基礎研究を担う1班の長でもある。

研究分野も近いためか、実はリュート様と非常に仲がいい。

論文を肴に夜通し議論することも珍しくない。今日もその誘いらしかった。


いつもならあっさり受けるリュート様だが、今日は溜息を返す。

「言い方が物騒。あと今日は無理。1班は四半期報告書すぐ終わったからいいけど……」

言い終わらないうちにノックと、そのまま扉が開く音がする。


「あの~、顧問、俺の事呼んだ?」

4班長だ。リュート様が淡々と応接ソファの側の床を指さす。


「うん、呼んだ。4班長、そこに正座」

「……はい?」


「ぶはっ、お前何やったの」

「知らないよ!?なに、何の話!?」

「これ」

リュート様の手には、4班の四半期報告書。


それを見て頭を抱えたくなる。リュート様が言おうとしてることが、分かってしまったから。

「カレンが引っ越しやら何やらで忙しいから、今回の四半期報告書は久しぶりに下読み無しで、僕が直で読んでる。……意味わかる?」


リュート様の言葉を咀嚼したのであろう4班長は、そのままスッと膝と手を床につき平伏した。

「大変申し訳ございませんでしたっ!」

「あはははは!マジ!?どんなだよ!?」

大笑いする1班長に、リュート様が報告書を渡す。


嬉々として読み始めた1班長が、段々と呆れ顔になる。

「……天端ってこれ、術式の階層の上端ってことか?魔術用語じゃねえよな。通り芯?逃げ寸確保?独特の言い回し多すぎだろ」

「文脈で理解はできるけど、文脈で理解させないで。これ報告書」

「返す言葉もございません……」


4班は社会設備などの案件を担う班だ。以前実地試験を行った、街灯の一斉点灯用術式と設備も担当していた。

班の性質上、6班はもちろん軍の工務部や施工系のギルド、職人団体と関わることも多いため、様々な業界の用語がどうしても飛び交う。

最近は、私が事前チェックをして報告書仕様に整えたものを査読用として提出していたのだが、今回はリュート様が直読みしたのでお叱りを受けているというわけだ。

「リュート様、4班だけは私が下読みしますって……」


見ていられなくてつい口を出すと、上官としての視線が返ってきた。

「今後はこの状態だったら絶対に突き返して。班員の教育にならない」

「も、申し訳ございません」

あまりにもその通りなので頭を下げると、それを見たリュート様が肩をすくめながら4班長の前にしゃがみこむ。


「と、いうわけで、報告書としての表現修正と言い換え、注記は班の仕事。これ差し戻すからちゃんと直して再提出して」

4班長がヨロヨロと顔を上げ、報告書を受け取る。

「はい。カレンちゃん受け取ってくれるし、班員が"寮に帰れる!"って大はしゃぎしてたから甘えてました。すみません……」


リュート様と1班長がため息を吐く。

「4班は連携する部署が多くて大変なのはわかるけどね」

「それでもダメだろ。1~5(こっちの)班じゃこの子が最年少で一番後輩なんだぞ。甘えんなって」


「そうだよなぁ、ううぅ、ごめんねカレンちゃん……」

「い、いえ!私ももう少し強くお願いすればよかったです」

皆さんいつも遅くまで大変そうだったし、日報や週報のおかげで意味は分かるので、つい巻き取ってしまっていた。


1班長が何かに気付いたように呟く。

「あれ、てことは顧問。お前が余裕ないのってこのせい?」

「これだけじゃないけど、一因ではあるよ。4班は赤入れだけですごい時間かかったし、途中で読むのやめた」

「ごめんて……」


1班長は「ふーん」とにっこり笑いながら、4班長から報告書を奪う。

「じゃあ、直す前に顧問が投げたところから俺が読むわ。駄目出し、山のように出してやるからな!」

「なんでだよ!?お前の下読みとか、めっちゃ怖いんだけど!」


……1班長、もしかしてリュート様と今夜議論できないの、根に持ってらっしゃいます……?

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