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幕間(2話後の日常)

小会議室の机に、議事録音用の魔導具を設置する。

私が子どもの頃は、何かしらの音声は水晶球に記録されていたなぁ、と少し懐かしくなった。


この魔導具は、音声を拾うと水晶に一時保存こそされるが、その先が違う。

水晶に一時保存された後は、紙に特殊な文様で印字され、細い巻物状に保管が出来る。更にその巻物の文様を魔導具で読み取れば、音声が再生されるという仕組みだ。

水晶球に比べ嵩張らないため保管管理がとても楽になり、近年では会議という会議はこちらの魔導具が採用されるようになってきた。


リュート様が文様記述および読み取り用の術式に携わったと、トベラ様から聞いた。


会議室の水状硝子を起動して資料を並べたあたりで、1班と2班の班長が入ってきた。

「サンビタリアおつかれー」

「お疲れさまです、お願いします」


「お疲れさまです、お預かりしていた書類は置かせていただきました。揃っているか確認お願いいたします」

今日は基礎研究班の週次報告会。

基礎研究を担当する1班と2班の進捗確認、整合性確認、次週の段取りなどが主な内容だ。

1班長が資料を確認したあと、水状硝子に先に図解を書き始める。


なお、応用研究や外部依頼を担当する3班~5班の週次報告会は来週。基礎研究班と週替わり制で報告会を行っている。


ガチャリ、とドアが開き、最後の一人が入室する。

「おつかれ、早速開始して大丈夫?」

1班から5班の指導研究員であり、技術開発部顧問であるリュート様だ。


私を含む4人とも席につき、報告会が始まった。


「1班、進捗報告」

リュート様が端的に指示をすると、1班長が水状硝子前に移動する。


「細かい内容は日次報告書記載、特記なしなんで省略。概要でいくと、現状の術式基盤の進捗はご覧のとおりですね。陣記述外周で定義して記載する方式と接続詞に組み込む方式、両方とも検討しましたが、まあ接続詞に組み込む方が現実的と判断しました。ただどうしても記述構文に依存する誤解釈が出やすい。可能なら記述素材側で基盤定義を補助してもらいたいです」


2班長が口を開きかけるが、すかさずリュート様が指示を出す。

「議論は後。2班進捗」


「……層状の魔術陣記述素材について、魔力浸透順調です。層ごとの複合材の配合差による魔力の流路制御も、素体としては問題ありません。この後は低複雑度術式を用いた初期運用試験で、挙動差異を定量取得予定です」


「うん、わかった。日報との齟齬、スケジュール遅延も両班無し……で、術式基盤の素材側での定義だっけ?」


1班長から「後で配って」と、渡されていた資料を配る。

それを読んで、2班長が紙をぐしゃりと握りしめたのがわかった。


「そうです、今回の術式基盤は前提式・共用の大域変数を結構採用してるんで、その辺を記述素材側に前提として組み込めないかなーと」

「えぇと、すみません。素材に、事前にその術式基盤用の刻印等を行なっておく、という認識であってますか?」

恥ずかしながら議事録用に質問すると、1班長から是が返ってくる。


「そうそう、刻印でも魔力流誘導でも何でも良いから、共通項を雛型的な感じで、事前に素材側に印字できないかなーって」

たまらず2班長が噛み付く。

「お前さっきから聞いてれば夢物語言いやがって……!なんだこの精度要求!?!?どこの王立精鋭工房の仕様書だ???」

「え?出来るだろ?」

「出来るか出来ないかで言えば出来るけどな、でもお前らのそれ汎用想定だろ!この精度でどうやって量産化すんだよ!?」

「えー、素材側も頑張れよ!」

「ふざけんな!というかだな、素材前提の術式基盤作るんだったらもっと早く相談しろ!!」


……相変わらず仲良いなぁ、この2人。この会話部分、議事録どうしようかな……。

と思いながら資料を眺めていたら、様子見していたリュート様が口を開く。


「はい、そこまで」

いつもの淡々とした表情と口調にもかかわらず、ぴたり、と2人とも議論を止めてリュート様を見る。

この場にいる研究者の中で、最年少であるはずの指導研究員が口を開いた。


「どっちも言いたいことは分かるけどね。まず1班。素材側に前提を組み込む案自体は否定しないよ。でも2班の言うとおり、汎用展開向けにしては流石に素材側への精度要求が高すぎる。機能過多か冗長かの見直しした上で再設計して」

「まぁそうなるよなぁ、了解ー」

「2班、精度きついし急に言われて腹立つのは分かるけど、これからは多分術式基盤を用いた魔術陣が増える。汎用基盤だからこそ素材側も協力して欲しい。現状要望がどこまで素材側で吸収できるか、検討と切り出しして僕に報告」

「承知しました……くっそ、リュート様に言われたら何も言えん」


悔しそうな2班長に、1班長がにやっと笑いかける。

「ははは!週次報告会でぶっ込んでよかったー、流石顧問!」

「次こんなぶっ込みしたら僕も怒るよ?」

「マジ!?気をつけよー」

「……2班、層状素材の試験、この術式基盤使っていいからダメ出し山ほどしてあげて。この人多分反省してない」


会議室に笑い声が響く。

リュート様も表情こそ動かないが、週次報告会自体は楽しんでいるらしい。班長たちとの軽快な言葉の応酬が続いている様子に心が温かくなる。


みんなが楽しそうなのは良いんだけど……。

……議事録、どうしようかな……。

キリのいいところまで書き終わってるので、ここからは毎日投稿予定です。

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