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幕間(過去編 ウェンとリュート)

(過去編 ウェンとリュート / ウェン視点)


彼が作った、ユウバの花びらとキャンバスの――あれはもう、魔導具と言っていいだろう。


ゼフト経由で見せてもらったそれにお礼がしたくて、1つプレゼントを用意した。

布を上から張っても、花びらの凹凸が不便だろうから素材を変えた。魔力で発光する素材はほかにもある。


「すごい……これ、すごい!!」

美少年が満面の笑みでこちらを見上げる。

赤茶色の瞳がキラキラと輝いているようだった。


スライムの体液を混ぜた硝子板を作り、魔力に反応・発光させ、特殊な金属板と重ねることで光が見やすくなるよう調整した。

金属板の素材特性を活かし魔力の揮発性を制御することで、発光状態を一時固定したり一括で消せる機能も追加した。


「本当にすごい……ウェン、天才?」

「天才はあなたですよ、リュート」


思わず苦笑して返してしまう。

そもそも彼の発想がなければ、これは生まれていない。

自分はあくまで、既にあるものを改良しただけだ。


「もう少し改良予定ですが……生みの親のリュート、あなたに最初にプレゼントしたくて」

「いやこれ、もはや僕のじゃないでしょ。全然違う」

「ふふ、じゃあ、2人で作ったことにしましょうか?」

「うん!!」


元気に返事をしてくる少年に、思わず笑み崩れそうになる。

可愛いなぁ、本当に可愛らしい。


ニコニコと早速試し書きをしていたリュートを見守っていたら、彼がふと口を開いた。


「これ……魔力に反応して光ってるよね」

「そうですね、どうしました?」

「光り方って、変えられるのかな?」

「色の話ですか?細かさ?軌跡の形です?」

「うーん……例えばさ、脳内構築した術式って、水晶とかに直接魔力で刻印できるでしょ?そんな感じで、これから書こうとしてる術式の中身がいったん表示できたら面白いなぁって」


「……は……」

ゾッとした。愛らしい口から出てくる発想が、笑えない。


「あと手書きにしろタイプライターにしろ、誤字したときめんどくさいからさ。タイプライターに打ち込んだ文字がいったんこの硝子に出てくるの。んで、印字するまで何回も編集できたり……。ね、面白いでしょ!?」


心の底から震え上がる。

それは……、それが、出来てしまったら。


「……絶対、面白いと思います」

「だよね?一緒に作ろうよ」

無邪気な笑みに、不安が過った。彼の発想は、現行の陣継承では無理だ。

それでも、もし実現できてしまったら――おそらく、魔術史が変わる。


この子を、そこに……そんな世界に、連れて行っていいのだろうか。


迷いがなかったわけじゃない。

それでも技師としての自分が、リュートの言葉で胸に灯ったこの熱を、無視させてはくれなかった。

「ふふ、じゃあ、まずはこの硝子を早く完成させて売りましょうか。予算確保は発明の第一歩ですからね」

「あはは、そうだね」


ゼフトにまずは相談しよう。レオナルドもいる。

この子が生み出そうとするものを、見極めてから対処してもいいはずだ。


「じゃあ、まずは腹ごしらえしましょうか」

そう言ってバスケットを取り出すと、リュートは目を輝かせる。


この頃、リュートは少しずつサロンや紳士倶楽部に呼ばれることが増えてきた。

本人の勉強や知見を広げるためだったそれは、次第にリュートから話を聞く場に変わり始めている。


……紳士倶楽部で痺れ薬入りの飲食物が出されたそうだ。誘拐目的だったらしい。


それ以来、リュートの食事量が明らかに減っていると相談を受けたので、侯爵家を訪れる際は差し入れを持ってくるようになった。

どうせゼフトに作ってやっているので、手間も変わらない。


リュートは微笑みながら、簡単なバケットサンドを頬張る。

「ウェンのご飯、おいしい」

――まだ11歳の子どもが。安心して食事もできないなんて。


また不安が過る。この子の才能を……潰してしまった方が、この子は幸せになれるんじゃないだろうか。

魔術から離れさせて、普通の人生を送らせてやる方法が、あるんじゃないだろうか。


そんなことを考えていたら、赤茶色の瞳がこちらをじっと見ていることに気付いた。

「リュート?」

「……ウェン、ありがとう」

「どうしたんですか急に」

「ウェンのおかげで、色んなことが形になって、ご飯もおいしくて。……僕、ゼフトとウェンに会えてから、すごく楽しい」


言葉に詰まり、一瞬喉が熱くなる。

理解されない辛さは、周りと話が合わない辛さは、自分自身も幼い頃何度も味わったことがある。

このまま才能を伸ばすべきなのか、潰して普通の生活を送らせるべきなのか、正解はまだ分からない。

それでも、にっこり微笑むリュートに、「やっぱり止めましょう」なんて言えなくて。


この子に少しでも笑顔の時間が多くありますように。

そんなことを、ふと思った。

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