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幕間(過去編 ゼフトとリュートの出会い)

(過去編 ゼフトとリュートの出会い / ゼフト視点です)


「義弟に会ってやってくれないか」

友人のレオナルドにそう頼まれ、侯爵家の屋敷を訪れる。


聞けば、侯爵家は遠縁の子爵家に頼み込まれ、10歳の子どもを養子にしたらしい。

「どんな子なんだ?」

「……ある日、取り壊した古い建物から、200年近く前の様式で封印された箱が見つかったらしい。」

「おい?」

俺の問いに答えず、急に昔話を始めた友人に戸惑いながらも、話を聞く。


「誰も開け方が分からず、国勢院にそのまま提出しようかと話をしていたら……当時6歳になる子爵家の長男が、あっさり解除した。中には当時の家主が残した手紙などが入っていたそうだ」

「は?」

「他にもあるぞ。生活魔術をメイド達に教えて労働環境を改善したとか。……ああ、あと、悪徳高利貸に騙され無理やり契約術式を組まされた領民を不憫に思い、解除してやったこともあるそうだ」

「本気で言ってんのか」


血の気が引く。契約術式っていうのは、簡単に解除できないから“契約"に用いるものだ。子どもが解けていいものじゃない。

レオナルドはそんな俺の反応を横目に、肩をすくめながら話を続ける。

「最初の箱の封印解除から4年。評判を聞きつけた輩から、誘拐未遂や脅迫紛いのことが増えてきたらしくてな。どうか引き取って欲しいと泣きつかれた」


つい止めていた息を吐いた。

確かに、そこまでの逸材だと子爵家には荷が重いだろう。

状況を聞く限り、息子を守るための情報統制すら上手くいかなかったことは想像に難くない。


「とはいえ、我が家も魔術的な素養がそこまで高いわけではない。俺も話をしたが、あの子には理解者が要ると判断した。軍の研究者たるお前なら申し分ないだろう……あの子と、話してやってくれないか」



部屋に入ると、紙とインクに囲まれた美少年がいた。

短髪の少女と言われても驚かないくらい、愛らしい顔立ちをしている。ただしその顔つきは疲れ切っており、大人びた表情が彼の人生を物語っていた。

赤茶色の瞳が、静かにこちらを向く。


「……誰?」

「初めまして、ゼフトと言います。レオナルドの友達だ」


目線を合わせようと膝をつく。

ふと、彼が抱えているキャンバスに目がいって――そのまま固まった。


真っ黒な布を張られたキャンバスに、魔力の軌跡でメモが書かれている。普段使いしているのだろう、同様のキャンバスが2つ、隣に置かれていた。

書かれた内容が明らかに市販魔導具の陣継承術式の逆算・分解・再構成案なのも恐ろしいが、なによりこのキャンバスが気になった。


「それ、どうやって描いてるんだ……?」

「ああ、これ?」


傍に置いてある、メモが書かれていない方のキャンバスを渡される。

触れてみると、黒い布の裏に、何かが敷き詰められているようだった。

こちらの反応で何が気になったかわかったのだろう。少年が説明する。


「裏に入ってるのはユウバの花びら。魔力で光るから、指先に魔力を集中して書けば……こうなる」

そういうと、俺が持つ黒無地のキャンバスに、彼が指でなぞった通りの軌跡が描かれていく。


――面白い、砂でメモを書く魔導具は見たことがあったが、これは初めてだった。

「すげえな、お前!」

ウェンのやつが大喜びしそうだ、見せてやりたい。


「これ、一枚借りてもいいか?俺の友達の技師に見せたい」

「いいけど」

「ありがとな、お礼にそのメモ。一箇所解釈……んー違うな、お前の意味の取り方、違うとこあるぞ」


用語として、一箇所使い方がおかしいところに気づいた。

おそらく本人の頭の中にあるイメージに一番近い言葉を、なんとか専門書から引っ張ってきたのだろう。そういうところは子どもらしいな、と少し思う。


「……どこ?」

「ここ。お前は多分安定化と波動平準化の用語の意味を取り違えてる。どの本読んだ?」


そう言った瞬間、疲れ切った子どもの顔が……驚きのそれに変わる。

「……ほんとうに、わかるの?」

「おー、安心しろ。本職だ。この陣継承の設計意図とかもわかるぜ」

「ほんとう!?」


途端にキラキラと瞳が輝き、子どもらしい表情が顕れる。

なんだ、こんな顔も、ちゃんとできるのか。


「……ははっ、お前、可愛いとこあるなぁ」

思わず頭をぐりぐりと撫でて……ふと気づいた。


「なぁお前、名前聞いてないぜ。俺はさっきも言ったけど、ゼフトっていうんだ。お前は?」


「僕はリュート。リュート・ジェビ……じゃなかった、リュート・トゥルペ、だよ!」

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