幕間(過去編 リュートが初めて魔術を他者に使った日)
(過去話 約20年前の出来事)
その日、子爵家のメイドは洗濯をしていた。
井戸の水は冷たく芯まで冷え切ることもあれば、洗うもの次第では熱い湯で洗うこともある。
今は後者で、かなり熱い湯で衣服を洗っていた。
さらに言うと、この子爵家はあまり裕福ではないので使用人の数も少ない。彼女にはこの後、皿洗いの仕事も待っている。
水仕事の度に手は酷使され、ひどく痛む。
いつか皮膚が厚くなるからという先輩の言葉を信じ、痛みに耐え仕事をしていると小さい人影が近付いてきた。
使用人である自分とは違う、上等な服を着た赤茶色の髪に赤茶色の杏目の少年。
5歳になったばかりの領主の息子だった。
彼女は、領主の息子がなんでこんな下女の仕事場にいるのかと驚くとともに慌てて手を止め頭を伏せる。
小さな手が彼女の手をそっと取り、あかぎれを治したかと思えば手の甲になにかを押し付けて去っていった。
なにか……熱のような力のような、ナニカ。それを押し付けられた手の甲は、よくよく見ればなんとなく光っているようにも見える気もするし、なにも変わっていない気もする。
なんだったんだと仕事を再開した彼女は、すぐに異変に気付いた。
手が全く痛くない。
手が入れられるギリギリまで熱せられた湯で洗濯をしていたはずなのに、確かに熱いと認識しているのに痛みを感じない。
慌てて湯の温度を保っている魔導具を見るが、作動している。
まさか、と井戸から汲んだばかりの水に手を入れる。
水の感触も冷たいことも分かるのに、刺すような痛みだけはやはり感じなかった。




