20-3
「まずは、本当に……今まで、ごめん。応えられないと言いながら、キミの想いに胡座をかき続けて。たくさん辛い思いをさせたし、苦労させたと思う」
あの頃……彼女の想いに釘を刺した時。
正直に言って、僕は彼女の想いを甘く見ていた。
釘を刺して動かなくなる程度の想いなら、そのうち風化するだろうとさえ思っていた。
彼女ともう少し一緒に過ごした、今なら分かる。
自分が……彼女にどれだけの呪いをかけたのか。
「えぇ、と……?」
「ふふ、心当たりがないって顔してる」
「だって、私が胡座かいてくださいって言いましたし、それに、自分がしたくてした事ばかりで……」
戸惑っている彼女の姿に思わず肩を抱き寄せ、額にキスを落とす。
「ひゃっ?」
「……そう言ってくれるキミに、僕はずっと甘えてきた」
「え、えぇ?」
この子は、どんな目にあっても、どんな思いをしても、ずっとずっと傍にいてくれた。
――ずっと僕のことを、好きでいてくれた。
感謝してもし足りない。
「……本当にすまなかったと思っている。キミの想いに応えられなかった理由は色々あるんだけど……正直言って、まだ解決してる事の方が少ない」
家柄や身分については解決したけど、それだけだ。
研究や僕を取り巻く問題に、彼女を巻き込むことだってあるかもしれない。
今までは自分の感情に気付かない事が、補佐官としてそばに置くことが、一番一緒に居られる方法だと思っていた。
でも今動かないと、僕は確実に彼女を失う。
改めて、彼女を見る。
「リュート様……?」
――ああ、この子を誰にも渡したくない。
心臓が口から出そうなくらい、緊張している。
今まで散々彼女の好意に甘えてきた。
何を言っても、今更信じてもらえないかもしれない。
それでも……言葉と態度で尽くす以外、方法がわからない。
ソファから降りて、膝をつく。
彼女の手を取り、甲に口付ける。
「今まで、ずっと辛い思いをさせてごめん。想い続けてくれてありがとう。これからも苦労をかけると思うけど、キミとずっと一緒にいたいから……どうか、僕の妻になって欲しい」
菫色の瞳が不安気に揺れ、彼女がそっと口を開く。
「ほんとうに……」
「ん?」
「本当に、ご無理、なさってませんか?リュート様の……えと、本心、ですか?」
この子は、どこまでも僕の心配をするんだな。
そう思いながら微笑むと、彼女の頬が途端に色付く。
「もちろん、心からキミを望むよ。……カレン」
カレンの瞳が潤み、ぽろぽろと涙がこぼれる。
綺麗だな、と思いながら指で拭っていたら微笑みが返ってくる。
「……本当に、望んでいただけるのなら……わ、私で、よければ……がんばりますっ」
…………本当に、この子は僕の予想を超えてくる。
握りっぱなしだった片手を勢いよく引き、カレンをもう一度腕の中に閉じ込める。
「きゃっ!リュ、リュート様っ?」
「応えてくれてありがとう。でも、ちょっとだけ追加していい?」
「え、え?」
戸惑った顔で僕を見上げるカレン。
その顔も、菫色の瞳も、一生懸命なところも、全部全部。
「……かわいい……」
「……は、い??」
ぽかんとしている顔も可愛い。
――ああ、もうカレンって呼んで、可愛いって思っていいんだ。
そう思ったら嬉しくて笑みが深くなる。途端にまた真っ赤になって慌てふためくカレンが、可愛くて仕方ない。
「これからはたっぷり甘やかすから、覚悟してね?」
本当はこのまま、頑張らなくていいって伝えたい。
でも急に言っても、キミはショックを受けるだけで届かないだろうから。
今はこれだけ一緒に伝えさせて。




