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20-2

先輩とリーリをなだめ、残務処理を進めるため、顧問室に戻る。


扉を開けたら、リュート様が応接スペースのソファに身を預け、目を閉じていた。

執務机で仕事をしていると思っていたので驚く。

「……おかえり」

「り、リュート様!?どうされました!?」

慌ててリュート様に駆け寄る。


身じろぎもせず視線だけで私を追っているリュート様は、明らかに様子がおかしい。


「どこかお加減でも……?」

「……体調が悪いわけじゃない、疲れただけ」


溜息混じりに答えて私を見ていたリュート様の顔が、今度は悲しそうに沈む。


「本当に、一体どうされたんですか……?」

さっきからどうしたんだろう。

今まで見たことのない表情に思わず聞くと、腕を引かれ……そのまま抱きしめられた。


「リ、リュート様っ?あ、あのっ?!」

心臓が痛くなるほど早鐘を打ち、頬が熱くなる。

慌てていると、耳元でささやかれた。

「……キミは、僕のことになるとそんなに一生懸命になるくせに、どこかに行こうとしてるんだ……」


ビクリと体が震える。

私の政略結婚について、レオナルド様が話してしまわれたらしい。


リュート様は優しい方だから、心配してくださったのだろう。「大丈夫ですよ」と伝えようとしたが、その前にリュート様が私を応接ソファに座り直させ、口を開いた。


「サンビタリア卿からの提案、受けるよ」



そう言った瞬間、僕の補佐官の表情が凍り付く。

顔色が青を通り越して白くなり、ゆるゆると首を振っている。


「だめ、だめですリュート様、いけません……!そんなご迷惑、かけられません」


サンビタリア卿――つまり彼女の父親の提案を受けるということは、彼女との結婚を受け入れるということだ。


僕を想っているはずなのに、想い人と結婚できるのに、この表情。

つくづく彼女には驚かされる。

どうやら僕にとって、自分との結婚は迷惑だ、と思っているらしい。


「わ、私なら大丈夫です、どうとでもなりますから、だから……どうか気になさらないで、もっと、ご自分を大切にしてくださいっ」


とうとう泣き始めてしまった。

"どうとでもなる"の一言に、少し苛立ちが芽生える。

どこぞの男のところに政略で嫁ぐことを言っているのであれば、自分を大切になんて言葉、そっくりそのまま返してやりたい。


苛立ちに任せて、少し強い言葉を発する。

「……キミにとって、僕がキミと結婚するのって、そんなに不幸な事なの?」


傷付けたかと一瞬焦ったが、やはり彼女は僕の想像を超えてきた。

「当たり前じゃないですか!私ですよ?こんな、こんな鉄屑、"ハズレ"にも程があります!もっと素敵で、リュート様にお似合いの方、沢山いらっしゃるのに、よりによって……っ」


………………。


「ご心配をおかけし、本当に申し訳ございません。リュート様。私、きちんとお父様と――」

「ねぇ、そろそろ怒っていい?」


ビクッと肩を震わせる彼女には悪いけど、いい加減我慢の限界だった。


「あのね、僕が、何も考えずに話を受けたと思う?」

「そ、それはっ……でも……」

相変わらず、自分じゃなくて僕を引き合いに出されると弱いらしい。分かりやすく言い淀む。


「なに?」

「……リ、リュート様に、その、将来お慕いする方ができたら、どうされるんですか……?」


彼女の表情は、紛れもなく僕への心配だけで彩られていた。

――この子は本当に、心の底から、僕が将来、誰かのものになると思っている。


「キミが好きだよ」

気が付けば、口が勝手に動いていた。


ピタリ、と彼女が止まる。

「…………え?」

本気で、言われている意味がわからない、という顔をしている。


見開かれた菫色の瞳を、覗き込むように言ってやる。

「僕は、キミのことが、好きだよ」

「…………わたし?」

「そう、キミ。カレン・サンビタリアが、好き」


――うそ。


彼女の口がそう象ったのが、はっきり分かった。


……ああ、好意を受け取ってもらえないって、こんなにキツかったんだ。自分で仕向けてきた事とはいえ、身を切られるような痛みを感じる。


「……ご無理、なさってませんか?だって、だって……部下としてしか、接しないって……え……?」


混乱している彼女に、なんとか話を聞いてもらおうと声をかける。

「……謝罪と言い訳、していい?」

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