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「ああ、笑った笑った。笑いすぎて涙が出てきたぞ」
「…………うるさいよ」
俺が笑っている間、義弟はずっと頭を抱えていた。
よほど恥ずかしかったらしい。
「ああ、お前がそのつもりなら、こちらも話す内容を変えようか」
笑いを堪えながら言うと、リュートは訝しげにこちらを見る。
「……どういう事?」
「なに、もしお前が手放していいなら、うちで侍女くらいにはしてやろうと思っていた。もちろん戸籍上は“病死"してもらう必要があるが」
「……くっそ」
「拗ねるな拗ねるな。そうなったら、お前達は二度と互いの顔を見れなくなるぞ……さて、では“話"をしようか」
俺の語調が変わるに合わせ、リュートの表情も真剣なものになる。
「お前に朗報だ……俺が家督を継ぐことになった。代替わりに伴い、次男たるお前は上級平民になる。トゥルペ侯爵家とお前は何の関係もなくなるぞ」
我が国は貴族位に対して厳格な方だ。
家を継がない次男以下は、基本的に家を出て上級平民になる。
親の持つ爵位を兄弟で分配することも滅多にない。
「……結局、上級平民だと伯爵令嬢相手じゃ無理じゃない?」
「これだけだとな」
リュートの言うことは尤もだ。
いくら元貴族、上級平民だろうが平民である以上、貴族令嬢に求婚はできない。
応接机に広げていた書類の中から、王家の紋章入りの封書を取り出しリュートに渡す。
「なにこれ」
「お前のこれまでの我が国への貢献を讃え、お前個人に一代男爵位授与の話が出ている」
「……は?本気?」
義弟が驚くのも無理はない。騎士爵ならともかく、名誉称号だろうと男爵位授与の話が出ること自体、非常に稀だ。
もともと平民となり後ろ盾がなくなる義弟のために俺とゼフトで推薦自体は数年前から行っていたのだが、義弟の、功績を班名義で出してしまう悪い癖のせいで難航していた。
今回、娘の将来を案じたサンビタリア卿に加え、噂を聞きつけた聖女派の筆頭も推薦人に名を連ねた。
それでようやく実現できた。
「リュート。お前、家を起こす覚悟はあるか?」
今までのお前は、守られる側だった。
諜報機関によれば、義弟が十年前に作り出した初期型文導機とその術式でさえ、他国ではまだ解析が終わっていない。
技術部に入ってから改良された分はさらに機密扱いで、国内にすら出回っていないものもある。
当時ほどではないが、義弟を狙う連中はいまだに多い。
この技術部での“軟禁生活”は、正真正銘、義弟の心と身体を守るためのものなのだ。
そんな義弟が技術貴族になれば、周囲はどんな手を使ってでも、義弟とその周囲に近づこうとするだろう。
守りきれず、ここに放り込んだ俺が言えることではないかもしれんが……それでも、本当に欲しいなら、今度はお前が守る側に行かなければならない。




