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19-1

ガチャリ、と顧問室の扉が開き、義弟が戻ってくる。

「……サンビタリアは?」

「もう調査とやらに行ったぞ」


義弟の補佐官は、ついさっき予備調査に向かうと言い、退出していった。

俺がリュートに政略結婚の件を話すか心配していたようだが、話す内容を指定できる立場ではないと理解しているらしい。心配そうな目で挨拶だけして出ていった。


「そう」

「リュート、今の打ち合わせの事後対応だけ終わったら時間をくれ」

義弟の補佐官に聞いた通りであれば、それ以降はリュートの判断で進められる仕事しかないらしい。

義弟は「わかった」と返事をし、執務机に戻っていった。



仕事が終わったらしいリュートが、応接スペースの向かいに腰掛ける。

込み入った内容になるので防音術式と施錠を頼んだら、義弟は視線一つ、一瞬で全てを終えた。

相変わらず、術式を組み上げる速度と精度の凄まじさに舌を巻く。


「それで、結局なんの用?」

「その前に……お前は補佐官を雇ったと聞いたが、侍女かメイドの間違いか?」

本題に入る前に、軽くかましてみる。


正直、朝の一連の流れはかなり頭が痛かった。

あれでただの補佐官だと本気で思っているのなら、俺は義弟が正気かどうかから疑う必要がある。


幸い正気だったらしい義弟は、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。

「端から見たら変かもだけど……僕らは納得してる、から」

表情も言い方も、まるで言い訳を探す子どものようだ。


相変わらず、この義弟は既知の相手には"こども"のままだ。

この様を見ていると……まともな少年時代を送らせてやれなかった、俺たちの罪を目の当たりにするようだと、いつも思う。


――義弟を揶揄っていても仕方ない。用件を伝えることにした。

「そうか、まぁいい。……サンビタリア卿から相談を預かっている。お前に」


その言葉だけで何の内容なのか察したらしい。リュートが憮然とした表情で口を挟む。

「それ……僕が聞く意味あるの?」

「うん?」


「だってそうでしょう、トゥルペ侯爵家として、あの子が名を連ねるのは許容できない。違う?」

どこまでも直球な義弟の言葉に、こちらも直球で返す。


「違わないな。カレン・サンビタリア嬢本人が悪い子ではないことは理解したが、社交界での評判が悪すぎる。"瑠璃の子"を産める保証もない。彼女をトゥルペ家の一員として迎えることに何のメリットもない以上、結婚は許可できない」


リュートは腕を握る力を強める。

「……だったら、結論が出てる話なんて、やっぱり僕が聞く意味なんかない」


吐き捨てるような弟の反応に違和感を覚えたが、先に言うべきことを言ってしまおう。

その方が、この違和感をーー弟の本音を育てるのにもちょうどいいだろう。


「であれば、彼女を手放す覚悟をしろ」


「……っ、なに、いって……」

カタリ、と部屋のどこかで小物が動いた音がした。


「20歳にもなる貴族令嬢が、のうのうと働き続けられると思ったか?」

弟の瞳が揺れる。

カタカタと音を立てて震える小物の数が増えた。


普段あれだけ精密に魔力を制御できるはずの義弟が、魔力揺れを起こしている。


「我が家くらいの家格であればあの娘は不要だが、貴族の"女"であればいい程度なら貰い手はいくらでもある。今後の聖女研究に関わりたい新興貴族あたりも、"孕めればそれでいい"と政略の餌に欲しがるだろうな」


弟は腕を握る手にさらに力を込め、震える声でなんとか反論しようとする。

「あの子が……僕から離れるわけ……」

「彼女はもう“覚悟"を決めている」


ガタリ!と、とうとう本棚自体が動き、中の本が揺れる。

義弟は俯いて、痛みに耐えるような――自分で自分を抱きしめているような状態だった。


あと一押しで答えが出るだろう。


「本当に手放したくないなら、お前が娶るしかないぞ。どうする?」

そう言った瞬間、義弟が勢いよく顔を上げる。

その顔には、優しい義弟にしては珍しく、怒りや苛立ちの表情が乗っていた。


「だから、それができれば苦労しないって……!!」


――ああ、ようやく言った。

ようやく義弟の本音が聞けたことに、内心安堵した。

しかしここまで手間をかけさせてくれた礼に、折角なのでニヤリと笑いながら返してやる。


「ほぉーう、お前、彼女と結婚できるなら、したいのか?」


義弟は訝しげな表情で俺を見ていたが、焚き付けられたことも、自分が何を口走ったかも理解したのだろう。

瞬間、顔を朱に染め上げて固まった。


「はっはっはっは!」

ああ、腹が痛い。

頭の回転が良すぎるせいで苦労しかしてこなかった弟が、思考停止している様を見るのは、これが初めてだった。


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