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18-4

リュート様は、いつも通りサンドイッチを食べながら、日報を確認していく。

お茶を一口飲んだリュート様が、口を開く。


「……5班に顔出す。早めに時間取れって伝えて」

「伝えておきます。あと、2班が週次報告会前にご相談があるそうです。概要は日報記載済みです」

「わかった、確認する。どっちの班にいつ行くかの調整は任せる」

「かしこまりました」


またサンドイッチを食べ始めたリュート様が私の方を向く。

「キミは今日は実地調査だっけ?」

「はい、3班4班と老朽化した水門の開閉術式点検について、予備調査に行ってまいります。午後から不在にいたしますので、よろしくお願いいたします」


「うん……」

リュート様がサンドイッチを食べ終え、少し止まる。

どうやら食べ足りなかったらしい。


最近は毎朝きちんと食べているからか、リュート様の食事量がどんどん増えてきた。

その変化が嬉しくて、自分の分をそっと出す。


「いいの?」

「はい、私は食堂に行けばいいだけですから!」

正直なところ、レオナルド様の前で食事をするのは憚られたため、リュート様が食べてくださる方がありがたい。


「……じゃあ、もらう。ありがとう」

「はい!」

リュート様の隣で打ち合わせを聞いていたレオナルド様が、何故か眉間を押さえていた。



「じゃあ、打ち合わせ行ってくる、けど……」

義弟が、部屋の扉をなかなかくぐろうとしない。

従順そうな義弟の補佐官ですら、そのあまりの過保護っぷりに苦笑いしてしまっている。


「リュート様、本当に大丈夫ですから……」

「兄さん、サンビタリアに変なことしないでよ」

「するか。早く行け」


ようやく出て行った義弟に嘆息する。いくらなんでも人が変わりすぎ――というか、依存しすぎだろう。

後で真剣に話をしようと胸に誓う。


もう、義弟の――リュートのあんな姿は、見たくない。



今から7年前、リュートがもうすぐ18歳になろうかという頃の事だ。

深夜。屋敷で突然大きな魔力揺れが起きた。


慌てて発生源であるリュートの寝室に向かうと、寝台の上には服を脱がされかけたまま呆然としているリュート。

そして床には、魔力で弾き飛ばされたらしい行儀見習いの少女が、気を失って転がっていた。


思わず舌打ちする。

うちの義弟は、その天才的な頭脳と美しい容姿のせいで、いつも余計なものばかり引き寄せる。

リュートには「外」での警戒方法、薬品への対処法、女の対処法に至るまで全て叩き込んだ。

実際、ここ数年あいつはそれで上手くやっていた。「外」で脅かされることは、かなり減っていたのに……!


それなのに――まさか屋敷で、「内」でやらかされるとは。


リュートを談話室に連れてきて椅子に座らせる。

先ほどまで呆然としていたが、会話が出来るくらいまでは回復していた。

「……大丈夫か?」

義弟を労わろうと茶を淹れて脇のテーブルに置いた瞬間、リュートの様子が変わった。


「……っ」

カップを見つめたまま、呼吸がどんどん荒くなる。体に緊張が戻っていき、ついには震えだす。

明らかに、様子がおかしい。


「リュート?おい、リュート!!」

「……て……」

「なんだ?どうした?」

「……それ、下げて……!」


あの時、行儀見習いの娘は寝入り前の茶に酩酊薬を仕込んでいたらしい。

――リュートはそれ以来、茶器に触れられなくなった。


そこからの数日間……義弟は最初は水の入った杯すら触れず、あとから発覚したが食事も受け付けなくなっていた。

思い通りにならない身体に慟哭し、衰弱していくその姿に、生きた心地がしなかったのをよく覚えている。


本人の努力の甲斐あり、なんとか生きていけるようになった段階で……リュートが懐いていたゼフトとウェンを頼り、技術部に閉じ込めた。

それ以外、義弟を守る方法はもう、なにも残っていなかった。



――だからこそ、驚かされた。

あのリュートが、あそこまで無警戒に食事をし、他人が淹れた茶を飲んでいる事実に。


「閣下。お茶をご用意してもよろしいでしょうか?」

昔を思い出していたら、声をかけられた。義弟の補佐官だ。


「……頂こう」

「承知いたしました」

昨日も思ったが、彼女の所作の細かさ、美しさに驚かされる。外見がどうしようもないなら、せめて立ち振る舞いだけでも隙を見せない。

そんな教育方針が透けて見えるほどだった。

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