18-3
「……なに、どうしたの?」
リュート様から、不思議そうな声が聞こえる。
私から見えるのは後ろ姿だが、お茶を飲んでいらっしゃるようだった。
「……お前……飲めるように、なった、のか?」
レオナルド様の声が掠れていた。
お義兄様なだけあって、リュート様のご事情をご存知だったらしい。普通にお茶を飲んでいるリュート様に、大層驚かれたご様子だ。
言われてようやく、レオナルド様が何に驚かれたのか気付いたらしい。リュート様が答える。
「あぁ、うん」
一瞬、ほんの一瞬だけ、レオナルド様の顔がくしゃり、と泣き笑いのような表情を浮かべ、どっかりとソファに腰を沈める。
「そういう大事なことは……ちゃんと言え」
「……うん、ごめん」
仲の良いご兄弟だったんだな。
そう思いながら、今度こそ仕事に集中した。
◇
しばらくしたら、ウェンさんがレオナルド様を迎えにいらした。
「レオン、お待たせしました。ゼフトがあきました」
ウェンさんとゼフト部長は、リュート様の少年期からのご友人だと聞いていたが、レオナルド様にとっても旧知の間柄のようだ。
レオナルド様はソファから立ち上がり、リュート様に声をかける。
「まったく、部長殿はお忙しいな。じゃあなリュート。また明日来る」
「うん。また明日」
レオナルド様とウェンさんをお見送りして、カップを片付けているとリュート様から声がかかる。
「……大丈夫?兄さんがごめんね」
「とんでもないことです!こちらこそ色々と失礼いたしました」
にこりと笑って伝えたはずなのだが、何故かリュート様は私をじっと見たままだ。
「今だけじゃない。最近のキミ、何かあった?」
「え?」
仰っている意味が分からず、首をかしげる。
仕事で大きなミスもしていないし、体調も悪くない。
リュート様を起こして、朝ごはんを一緒に食べられて、しかもしばらくはお姉様ともお会いできる。
ご心配されるようなこと、何も無いはずなのに……?
私が戸惑っているのが分かったのか、リュート様がそっと視線を外す。
「僕の気のせいなら、まぁ、いいけど」
◇
翌朝、いつものようにサンドイッチをもって顧問室に向かう。
リュート様を起こす前に軽く並べていたら、後ろの扉が開いた。慌てて振り向くと、レオナルド様が目を見開いてこちらを見ている。
「……は?」
昨日は緊張してしまい、あまりうまく立ち回れなかった。
リュート様に恥をかかせないよう、今日こそ頑張らないと……!
「おはようございます。閣下。申し訳ございませんが、リュート様にお声がけしてまいりますので、少々お待ちいただけますでしょうか」
レオナルド様に一礼して、すぐに仮眠室へ向かう。
リュート様はいつもと違う物音に目が覚めてしまったのか、ベッドに寝転んだまま薄く目を開けて、ぼうっとしているようだった。
リュート様は基本的に寝起きがいいので、こういうぼんやりしている状態は珍しい。思わず軽く笑みながら膝をついて枕元に近づき、声をかける。
「おはようございます、リュート様。閣下がおみえですよ」
「……兄さん、きてるの?」
「はい」
「お前ら……」
すぐ後ろから声がする。レオナルド様が何とも言えない顔でこちらを見下ろしていた。
レオナルド様に気づいたリュート様が体を起こす。
「どうしたの兄さん、こんな朝から」
「朝の方がかえって時間を作りやすいかと思って来たんだが……まあいい、用件を言おう」
レオナルド様が頭をガシガシとかきながら話す。
「父上から、お前の様子を見て来いと言われていてな。ゼフトに許可は取った、今日一日邪魔するぞ」
「……父さんも兄さんも、何考えてるの?」
「大したことじゃない。ただ、それ次第で後の話の内容が変わるだけだ。流石に張り付いたりしないから安心しろ。そこの応接机で俺自身の執務をさせてくれればいい」
リュート様が私の方を向く。
「あそこ、使って大丈夫?」
「はい、今日は特に使用予定はございません」
「……兄さん、いても大丈夫?」
「!?っも、もちろんです!!」
想定外の質問に、動揺して心臓が跳ねる。
応接スペースの使用予定については分かるけど、レオナルド様が滞在されることについて、私の意向を確認されるとは思っていなかった。
リュート様は改めてレオナルド様の方を見る。
「うん。じゃあいいよ」




