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18-2

名乗られずとも、誰だかはすぐにわかった。

到着してそのまま来たのだろう。旅装のままだが、上質な衣装であることは一目瞭然。

何よりもマントとロングソードの鞘にはトゥルペ家の紋章が意匠としてあしらわれている。


この方が、レオナルド・トゥルペ小侯爵閣下。

リュート様の、義兄様。


「お初にお目にかかります、リュート様の補佐官を務めております、カレン・サンビタリアと申します」

軍服のため立礼をした私を、閣下は訝しげに見る。


「サンビタリア?君が?本家の娘と聞いていたが……失礼だが信用できない」


久しぶりに言われたな、と頭の片隅で思う。

サンビタリア家の特徴である、瑠璃色の要素が無い私は度々こういう事になる。


リュート様はまだ打ち合わせからお戻りになっていない。

そのため私が『サンビタリア』であることを証明してくれる人はいない。


「すまないが、義弟が戻るまで私一人で待たせて欲しい。君は退出を……」

「その必要はないよ。その子は正真正銘、僕の補佐官」

ガチャリと扉が開き、リュート様がお戻りになった。

閣下のお言葉を遮り、そのまま私と閣下の間に立つ。


「……本当に『サンビタリア』なのか、その外見で」


閣下の驚愕の表情と呟きに、身体が勝手にカーテシーをする。いつもの事すぎて、もうすっかり体に染み付いてしまった。

「お恥ずかしい限りでございます、小侯爵閣下」


視界の端で、リュート様が強く手を握りしめている。

「……兄さん、僕の補佐官に謝って」

「り、リュート様っ!?」


小声でリュート様を制す。

レオナルド様は侯爵家実子の小侯爵様、リュート様は養子であり、次男。

この場で誰が最も尊ばれるべきなのかは、リュート様だって分かっていらっしゃるはずなのに。


「大丈夫です。私が、ややこしい外見で生まれたのが悪いだけですから」

小声でそうリュート様に笑いかけると、リュート様から奥歯を噛み締める音がした。


「……なるほどな。これで鉄屑以下の(ゴミ)とは、よく言えたものだ」

閣下がポツリと呟く。

さっきまでの高圧的な雰囲気はもう無かった。


「サンビタリア嬢、私は君を誤解していたらしい。謝罪を受け入れてくれるか?」

「も、勿体無いお言葉でございます……!」

畏れ多い言葉に慌てて頭を下げると、快活な笑い声が聞こえた。

「ははは!やはり社交場の噂は当てにならん!自分の目で見るべきだな」


はぁ、とリュート様がため息を吐きながら体の力を抜く。

「それで。兄さん、何の用?こみ入った内容なら会議室手配するけど」

「いや、確かにお前に話はあるが、それは明日でいい。今日はその前にゼフトに用があってな。少しここで待たせてくれるか」


閣下のお言葉に、リュート様がチラリとこちらを見る。

謝罪してくださったとはいえ、私が先ほどの件を気にしていないか心配しているらしい。


本当に優しい方だなぁ、なんていつも通り思ってしまう。

あの程度、正直いつものことなので何も気にならないし、むしろ謝罪していただけて驚いたくらいだったのに。

気にしていないことをリュート様に伝えるためにも、にっこりと笑って口を開く。


「お茶、用意させていただきますね。リュート様も来客用の茶葉でご用意してよろしいですか」

「……よろしく」



「どうぞ」

応接スペースに座っているリュート様と小侯爵閣下――レオナルド様にお茶をお出しして、自机に下がる。

本当は退室しようかと思っていたのだが、お二人ともから「気にせず仕事をしていろ」と言われてしまえば逆らえない。


応接用のソファの配置の関係で、レオナルド様からは私の席がよく見えるので、少し緊張する。

逆に相対しているリュート様は私に背を向けて座っていらっしゃるので、表情は窺えない。


なんとか集中しようと、書類に目を通し始めた時だった。


「リュート、お前も俺に構わず仕事に戻って……って、おい!?」

ガタリ、という音とレオナルド様の焦ったような声が聞こえ、顔を上げる。

レオナルド様が、先ほどの比ではないくらい驚愕した様子で、リュート様を見ていた。

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