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夏。とうとう今日は、聖女研究を決める発表会。

ゼフト部長や10班の面々は王城に居るが、リュート様や私は、留守番だ。


基幹部分を作ったのも、ずっとずっと頑張ってきたのも10班。そして10班の指導研究員はゼフト部長。

リュート様の名前は、1班2班の作業分として、あの研究資料の端の端にあるだけらしい。

正直、あれだけ関わったはずのリュート様の扱いに不服が無いわけではなかったが、本人は「面白い観測術式作れたから、1班の班論文として提出だけしようかな」なんて仰るばかりで特に気にした様子もない。


ロビイング関連で頑張っていらした部長補佐官の名前も、どこにも残らない。

――大きな案件だからこそ、名前が埋もれる人は多いのかもしれない。


「リーリ達、大丈夫でしょうか……?」

もう発表会が始まっている時間だ。リーリ達が心配で、業務中なのについリュート様に話しかけたら、あっさりと返される。

「大丈夫でしょ。バロワもローゼスも優秀だし、ゼフトもついてる」


何気なく告げられた、友人であるリーリへの評価に嬉しくなる。ワクワクする気持ちを抑えきれず、そのままリュート様のお時間を頂いてしまう。

「あの、リーリって、やっぱり凄いんですか?」

「うん、凄い。古魔術への造詣も深いし、今回の神職術式との複合はよく頑張ったと思うよ。根性もあるし。……バロワが推した訳がよくわかった」

「え?」


リーリへの褒め言葉に喜んでいたら、最後の内容に驚く。リュート様は相変わらず査読用の報告書に目を通しながら言葉を続けた。

「じゃなかったら18歳の新人に、あんな重要な案件の副担当を任せるわけないでしょ?ゼフトもかなり悩んだらしいけど、バロワがローゼスと組みたい、あの子はすごい研究者になるって推したんだって。10班員も賛成してたし」


「そう、だったんですね……すごい、リーリはやっぱりかっこいいなぁ」

褒められているのはリーリなのに、何故か私まで誇らしく感じる。

どうか今日の研究発表会、成功しますように。と祈った。


以前はリュート様とリーリが話していると胸が苦しかったが、最近その痛みはすっかり無くなった。


補佐官の私は、“補佐官"として有ればいい。

積もる想いの行き先はどこにも無いけれど、それは仕方ないことだ。

最近ようやく、そう思えるようになったから。


補佐官は私だけ、あの言葉が私に勇気をくれる。

リュート様の傍に居られる、その事実だけで幸せで。


だから……伯爵令嬢としての、自分の立場を忘れていた。



父から手紙が来た。

20歳にもなって婚約者もいない娘への手紙なんて、内容は限られる。


釣り書き未満の、男性の名前が数人書かれたリストが同封されている。この中の誰かが、未来の夫になるのだろう。


粗野な方、若い後妻を探している高齢の方、何故か妻が数年で『病死』してしまい再婚を繰り返している方……売れ残りらしい嫁ぎ先ばかりだ。

そこまで定型文だったのに、最後の最後、一言だけ父の言葉が記されている。

『トゥルペ氏を頼れるなら頼りなさい』


トゥルペ氏……つまりリュート様の事だ。

父からの無理難題に、思わず笑ってしまった。

「それは、一番無理ですよ。お父様……」


リュート様を頼るなんて……畏れ多くて出来るわけない。

社交界の私の評判的に、トゥルペ家からだって名前を連ねる許可も下りないだろう。

私の想いには応えられないと、リュート様からお話も頂いている。


何より……リュート様のお相手は、お姉様やリーリみたいな、もっと素敵な方じゃないと駄目だ。

リュート様が、心から妻に欲しいと想えるような、誰かじゃないと。


父には、「政略的に最も有効な方をお願いいたします」とだけ書いて、返事を出した。


「あと、どれくらいここに居られるかな……」


本当は、ずっとリュート様の傍に居たい。

貴族籍から抜けることも一瞬考えた。でも、そもそも父の紹介でここに勤めている私は、サンビタリア家の者でなくなった瞬間、ここで働く資格も失うのだ。


ならせめて、少しでも長く。少しでもお役に立たないと。

――来年の今頃、私はここに居ないだろうから。

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