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「……あ」

サンビタリアが、業務中に珍しく気の抜けた声を上げる。


チラリと様子を窺うと、彼女はなにかをじっと見て、そのまま何事もなかったかのように作業を再開した。


「どうしたの?なんかミスあった?」

僕が話しかけると、少し恥ずかしそうに笑っている。

「いえ、大した事じゃないんです。すみませんお騒がせして」

「そう」


そのままお互い作業を再開する。

夏至も過ぎたばかりだから当然といえば当然だが、もう直ぐ夕刻なのに、外はまだまだ明るい。


……夏至……?

どくり、と心臓がなぜか嫌な音を立てた。


「サンビタリア」

「はい、リュート様」

動揺のままに声をかけると、僕の補佐官が顔を上げる。

きっと仕事の件で話しかけられたと思っているんだろう。いつも通りの彼女は、僕の言葉を待っていた。


なんて聞けばいいかなんて思い付かず、でも彼女に責があるわけじゃないから問い詰めるわけにもいかない。

咄嗟に出てきたそれは、本当に、馬鹿みたいな問いだった。

「キミ、歳いくつ?」


「じゅうく……20歳に、なりました」


ああ、やっぱり。

彼女の誕生日が夏至の辺りなことだけは、なんとなく覚えていた。自分が冬至の辺りだから覚えやすいな、と思った記憶がある。

恥ずかしそうに、申し訳なさそうに教えてくれる補佐官に、こっちが申し訳なくなった。


「……万年筆のお礼も兼ねて、今度ちゃんと祝わせて」

そう言うと、僕の補佐官が目に見えて動揺して、顔色が悪くなる。


「……き、気付いてらしたん、ですね……」

「まあ、あの品選びは班長たちしないでしょ」

「そ、う、ですか……」

どうしたんだろう。まるで、悪さをしたことが見つかった、子どものような反応だった。


「あの……申し訳ありませんでした。あのようなお話を頂いた直後のくせに、弁えず……」

震えながら言う彼女に、自分の軽率さを呪った。


確かにあの頃、サンビタリアに僕への想いを諦めるように、変な真似をしないように釘を刺した。

僕自身がやったことの、はずなのに……。


何故か、身体中が軋む様に痛かった。

どうしてか、なんとかしたくて。笑って欲しくて言葉を探す。


「……あの万年筆、気に入ってる」

「えっ」

「おいで」

彼女の震えが少しおさまる。こちらの様子をそっと見ているサンビタリアに手招きして、仮眠室の扉を開く。


仮眠室にも簡単な書類机を置いている。個人的な研究や読書などをする時、よく使っているものだ。

机の上には、書きかけの魔術陣の草案や計算式が書かれた紙と一緒に、あの万年筆が置かれている。


明らかに普段使いしているのが分かったのだろう。

目を丸くして万年筆を凝視していた。

普段から僕を起こしに仮眠室に入ってくるくせに、全く気付いてなかったらしい。余計なところはなるべく見ないよう、心掛けてくれている彼女らしいなと思う。


「あの魔導細工、すごく綺麗で細かい職人技だった。見てて楽しいから、よく使ってる。だから……」


『気にしないで』は、流石に配慮に欠けるだろう。

なんて言おうか考えたが、思い付かなかったので素直な気持ちを言うことにした。


「贈ってくれて、ありがとう」

僕の言葉に、サンビタリアは目を見開いたかと思うと、幸せそうに微笑んだ。


「そう言っていただけるなんて、最高の誕生日プレゼント、頂いちゃいました……!」


笑顔が戻ってきて良かったと思う反面、何故か……どうかこんな言葉程度で、そんなに喜ばないでくれ、と思ってしまった。

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