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「カレンさん、来週ご飯食べに行きません?」
リーリが話しかけてくる。
夏の聖女研究発表会まであと3ヶ月ほど。
10班はかなりの追い込みが続いたため、来週、最低どこか一日は必ず定時で上がるよう、部長と班長からお達しがあったらしい。
「嬉しいけど……いいの?帰って休んだほうがいいんじゃない?」
心配になって思わず聞いてしまうと、リーリが微笑みながら緩く首を振る。
「いいんです、むしろ同期二人で一年祝いしたいなって!」
そうか、ここで……リュート様の傍で働き始めて、もう一年経つんだ。
◇
約束の日当日、無事定時で上がれた私が第十研究室に行くと、リーリがニコニコしながら待っていた。
「カレンさん、お着替えしましょ!」
「……えぇ?」
「軍服で街に行くの、ちょっと違うじゃないですか!ほらほら」
そう言うと、研究室の隣にある仮眠室に押し込められる。
何とか着替え終わり、思わずリーリに尋ねる。
「へ、変じゃない……?」
「ぜんっぜん変じゃない!」
リーリが満面の笑みで答える。
ハイネックブラウスに、軍服のパンツ。その上からチュールレースの巻きスカート。
本当はちゃんとしたスカートを勧められたのだけれど、どうしても落ち着かなくて、この折衷案でなんとか許してもらった。
「カレンさん、背が高いから逆に映えますね、かっこいい……!」
褒められているのか一瞬迷うが、ここまで目をキラキラさせてくる友人を前に、必要以上に卑屈になる必要もないだろう。
「……ふふ、エスコートは任せてね?」
腐っても元護衛官。高貴な女性を護衛するために、その辺の心得はある。
くっついてくるリーリと一緒に街に出かけた。
◇
街、といっても魔術院の敷地にほど近い、研究者や軍関係者も多く訪れるエリアに向かう。
個室がある食事処に向かうと、入り口で、魔道具によって灯されている柔らかな光が出迎えてくれた。
「一年お疲れさまでしたー!」
「お疲れ様」
お互いにあまりお酒は得意ではない。そのため飲んでいるのは果実水だ。
一年間どうだった、とか普段の10班の様子、お気に入りの食堂のメニューなど、おしゃべりが続く。
リーリはおしゃべりだが聞き上手でもあるので、気が付くと私もいろいろ話してしまう。
本当に良い子だな、と思う。
「……ねぇ、リーリ、ずっと気になってたんだけど」
「どうしました?」
リーリの明るさに、優しさに甘えて我儘を言ってみる。
「やっぱりそろそろ、敬語やめない……?その、せっかくの同期なんだし」
「……いいの?」
「うん」
「やったーーー!ありがとう!敬語外すタイミング失って困ってた!!」
いつも以上にニコニコと笑うリーリに、思い切って言ってよかったと胸を撫でおろす。
「あ、あの!もしよかったら、その……レンって呼んでいい、ですか?」
リーリからの提案に少し驚いたが、もちろん大歓迎だ。
愛称で呼びたいなんて、人生初なのでとても嬉しい。
それにしても、おそるおそる聞いてきたリーリがあまりに小動物じみていて、可愛くてつい破顔してしまう。
「あははっ、もちろん。嬉しいわ」
「……れ……」
「うん?」
「レンが口開けて笑ったー!可愛いっ!!!」
席を立ったリーリがそのまま腕にしがみついてくる。
そういえば、こんな風に笑ったのなんで幼い頃以来かもしれない。
リーリのような同期を……友人を持てて、本当によかった。
そんなことを考えながら、その日は食事を楽しんだ。




