12-4
「それとも、自分の補佐官が怪我して、無理しても心配しないくらい、僕が薄情な人間に見えた?」
「ち、ちがっ……」
自嘲気味に言ってやると、サンビタリアは真っ青な顔で首を横に振る。
やっぱりこの子は、自分自身より僕を引き合いに出される方が弱いらしい。
「なら良かった。じゃあ、僕が何に怒ってたかわかった?」
「えぇと……先日の、部長の護衛の件、ですか?」
サンビタリアは、恐る恐る聞いてきた。
「そう」
「ですが……ああしないと部長は殺されて……」
困りきった顔をしている。
確かにあの場でああしなければ、ゼフトは殺されていただろう。彼女の方が正論を言っているのかもしれない。
それでも言わなければならない。
「それ自体は感謝してるよ。でも……怪我して当たり前みたいな態度も行動も、もうしないでほしい」
「でも私、『盾』で……」
「いまのキミは僕の補佐官でしょ、違う?」
サンビタリアが驚いたように僕を見る。どうしたんだろう?
「……いいん、ですか?」
「ん?」
「わ、私、リュート様の補佐官で、いいんですかっ?」
彼女にとっては重大なことかもしれない。
けれど失礼ながら、ああ、なんだそんなことか、なんて思ってしまった。
「キミ以外に誰がいるの。キミ以外が淹れたお茶、未だに飲めないのに」
菫色の瞳が大きく見開かれる。
綺麗な瞳から、次から次へと涙が溢れていく。
「ありがとう、ございます、ありがとう、ござっ……っ」
そう言いながら泣きじゃくる彼女を見て、そんなに泣いたら目が溶けそうだな、なんてしょうもないことを考えた。
しばらく泣いて落ち着いたのか、サンビタリアがゆっくり話し出す。
「……わたし、頑張ります。出来ないことの方が、多いですけど、これからも、補佐官は私しかいないって、仰っていただけるように」
涙を拭いて、僕をまっすぐ見て彼女は言う。
「いっぱい、頑張りますね……!」
幸せそうに笑う彼女は微笑ましいけど、内容が微笑ましくなくて内心苦笑する。
以前のクルーゼ嬢の誕生会あたりから嫌な予感はしていたが、一連の出来事で確信した。彼女は「そう育てられてきた」し、「そう育ってしまった」んだろう。
この歳までで形成された価値観を変えるのは容易じゃない。長期戦を覚悟した。
「……あっ、も、申し訳ございません。いつまでも寝台に……。しっかり睡眠もとれましたし、すぐ仕事に戻りますので!」
「駄目。せっかく前倒しで仕事してるんだから、今日はもう帰って寝な」
案の定だなぁ。
これ以上この補佐官に無理をさせないためにはどうすればいいか……。
ふと見ると、サンビタリアの髪紐が緩んでいた。
人の世話なんて慣れないことをしたからか、うまく結べていなかったらしい。
「……世話……」
「リュート様?」
以前の会話を思い出し、あまり選びたくない選択肢を思いついてしまう。
一歩間違えれば自意識過剰な発言をしようか、少し悩む。
「……まあ、いいか」
「えぇと……?」
「サンビタリアって、僕の世話がしたいんだっけ?」
きょとん、という音がぴったりの表情のまま、サンビタリアが頷く。
「はい、そうですが……」
「何したいの?」
「えぇと、補佐官としてお手伝いさせて頂くのは勿論、今までみたいに朝起こしたり、お茶を淹れさせていただきたいですし、すぐには無理でもいつかはお食事もとっていただきたいです。睡眠も……というかもう少し体をいたわる生活をしていただきたいので、その一助ができれば幸甚ですが……?」
それをキミが言うの、なんて言葉はどうせ伝わらないから後回しにして、内容を反芻する。
…………仕方ない。
「いいよ」
「……え?」
「キミが、無理しないって約束するなら、いい」
サンビタリアの顔がぶわっと赤らむのを見て、何でそんなに嬉しそうなんだよ……と柄にもなく照れそうになる。
「キミが作ったものなら、ちゃんと食べる。薬草茶以外のお茶も飲むよ。……どう?今日は帰ってちゃんと寝る気になった?」
「いいん、ですか……?ご無理、されてないです?」
「いいよ。勿論状況に合わせて、交渉には応じて欲しいけど」
みるみるサンビタリアの表情が明るくなり、嬉しそうに笑む。
「はい……あの、ありがとうございますっ!」
――本当に、僕みたいな男のどこがいいんだか。
幸せそうにしている彼女を見て、つい、そんなことを思ってしまった。




