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感情に任せて叱り飛ばすと、サンビタリアが目に見えて動揺し始めたのでなんとか自制する。
「あ……ごめ、ごめんなさ……」
「謝らなくていいから、目閉じて」
幼子をあやすように手を繋ぎ、頭を撫でてやると、ぴたりと止まる。
こちらを見上げる瞳は混乱しきっており、「怒ってたんじゃないの?」と顔に書いてあるようだった。
「……大丈夫、大丈夫だから」
努めて冷静に、彼女にも自分にも言い聞かせ、寝かし付ける。
限界だったのだろう、すぐに気を失うように寝入った彼女を見て、深い深い溜息をついた。
大丈夫だなんて嘘だ。本当は怒ってる。
先日の事も、今の事も。
どうしてキミは、自分を大切にしないのかと。
――しっ、心配しちゃ、駄目ですか!?――
以前そう言って、心配させろと泣いて怒ってきたのはキミのくせに。
彼女は泣き腫らした顔で、寝ているにも関わらず迷子の子供のように悲しそうな表情をしていた。
サンビタリアが起きたら分かるよう、仮眠室の扉を開けたまま執務室へ戻る。
彼女の机の上の書類を見ると、相変わらずの丁寧な仕事ぶりだ。
思わずため息を吐く。仕事はかなり前倒され、今すぐにやる必要のないものばかりだった。
……本当に、あの時やっぱり辞めさせておけばよかったと思ってしまう。そうすればあの子は、ここまで自分を追い込んだりしなかっただろう。
「こんな……僕みたいな男のどこがいいんだか」
壊れそうなあの子を壊さないように、距離を取るのが本当は正解なのかもしれない。
でも、もうその選択肢は、自分の中に残っていなかった。
◇
彼女を起こさないようそのまましばらく仕事をしていると、ゴソゴソと物音がしたので仮眠室に向かう。
「起きた?」
寝起きで話しかけられて混乱したのか、ビクリと肩を跳ねさせ、頬を赤らめた彼女が答える。
「っはい、あの、ええと……申し訳ございませんでした……」
寝台から降りようとしているサンビタリアの髪が乱れてるのを見て、そういえば髪を結んだまま寝かせてしまっていたことに気付く。
髪結紐をほどいて結び直してやる。銀糸のような髪はさらさらとしていて、手触りがいい。
「?、!?」
真っ赤になって固まる彼女が面白くて、最近ずっと悩まされていたことに対して少しだけ溜飲が下がる。
結び方がわからず適当だが、彼女の髪型に自分が関わったということに、不思議な感覚になった。
「……サンビタリアの気持ち、ちょっとわかった」
「は、ぃ?」
「人の世話って、案外楽しいかも」
「!?!?」
もはや涙目になっている彼女から離れ、椅子に腰掛ける。
「さてと……ちょっと話そうか」
僕の雰囲気が変わったからか、サンビタリアの体が強張った。
「ここ最近キミに怒ってたのは、本当」
そういうと彼女はビクリと身を震わせるが、何も言わずに僕の言葉を待っていた。
「でも、僕が何に怒ってたのか……キミ、わかってる?」
「……え?えと、私がご期待に、添えてなかったからじゃ……?」
ああ、やっぱり分かってなかったか。
押し込めていた怒りが再燃していく。
「僕がキミに期待してることって何」
「ほ、補佐官として……」
「違う」
サンビタリアがうつむき、手をぎゅうっと握りしめる。
ああもう、萎縮させたいわけじゃないのに。なんとか怒りを抑え、言葉を探す。
「……心配くらいさせろって言ってるの」
「…………え…………?」
素直に伝えた方が良さそうだという判断は正しかったらしい。目をぱちくりさせている様子に、言葉が届いた感触がした。
菫色の瞳が、僕をじっと見つめる。
……サンビタリアの瞳の色が菫色なことに、この時初めて気が付いた。




