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12-2

ウェンさんと別れ顧問室に戻ろうとしたら、賑やかな声が聞こえてきてドアの手前で立ち止まる。


リーリが来ているらしい。


「……って感じのレポートになりました!」

「そう。そういえばこの間の君の仮説、気になって僕も調べた。あれ結構面白いね」

「そうでしょう?次のリュート様の論文に載せてくださってもいいんですよ~?」

リーリのくすくすと笑う声が聞こえる。


相変わらず、二人の研究者の会話は軽快だった。

「そうだね、面白そうだし息抜きがてら少しそっち方面齧ったやつ書こうかな」

「あ、案外乗り気!必要なら文献お貸ししますよ」

「ありがとう。借りたいやつまとめたらリスト渡す」


――通信用の魔導具と手帳を持ち歩いていてよかった。

楽しげな声が響く顧問室に、入る勇気がどうしてか出なくて。


入室せず、何かできることはないかと歩き始めた。



吐き気がするので状態異常回復をかける。


3~5班を回って、班長達からダメ出しや書き込みといった一次確認の入った紙の束を受け取る。

そのまま共用書架で調べ物をしながら修正作業をする。

顧問室に戻らず仕事を続けていたら、夕方になっていた。


戻らなきゃいけないけど、戻りたくない。

……でもリュート様にお茶、淹れて差し上げたいなぁ。


頭の中がぐちゃぐちゃで、でも体はするべきことを理解している。

手は資料や紙の束を抱え、足は顧問室を向いていた。業務報告したら、すぐに寮に戻って仕事の続きをしよう。


何故か顧問室に入るのにひどく緊張しながら、扉を開く。

「戻りました」

「おかえり、どこ行ってたの」


いつもなら作業をしながら返事だけ返すリュート様が、珍しく、顔を上げてこちらを見ていた。


――何か急ぎの案件があったのだろうか。

肝心の時にいない、役立たずだって思われた?

血の気が一気に引き、口の中がカラカラになる。


「も、申し訳ございません!共用書架で、調べ物を……」

荷物を置くと、そっと置いたつもりなのにドサリと音がした。案外重かったらしい。


もう面倒で、途中から仕事ができる最低限の感覚以外はすべて遮断してしまっていた。

そのはずなのに、どくどくと心臓が速く動いている気がする。耳の奥からキィンと耳鳴りがする。


そんな事はどうでもいい。早くお話しを聞かなきゃ。仕事をしなきゃ。急いでリュート様のもとに行こうと体の向きを変える。


――何か、音がした気がした。


「サンビタリア!!」

リュート様の声が耳元で聞こえる。

「……ぇ…?」

目の前が一瞬白かった気がする。何故か私は床に座り込んでいて、リュート様が私を支えるように抱えていた。


「……?、え……?」

「サンビタリア、聞こえる?僕が分かる?」

「はい、あの……あれ……?」

何が起こったんだろう。身体に力がうまく入らない。

回復術式を起動したいのに、うまくいかない。こんなことは初めてだった。


「医務室に行こう」とリュート様が私を抱え上げる。


優しいなぁ。どんな役立たず相手でも、こんな鉄屑相手でも、優しい優しいリュート様。

…………その優しさが、痛くて。やっぱり大好きで。


「や、です」

「サンビタリア?」

気づけばボロボロと涙をこぼしていた。


「やだ、いやです。仕事っ、仕事しないと」

「何言って……」

「だって、仕事しないと……っ」


こんな泣いて騒いでリュート様の手を止めさせて、私は何をやっているんだろう。

そう思うのに、涙も口も止まらない。


「ごめんなさい、役立たずでごめんなさいっ、ち、ちゃんと、しますっ、ちゃんと……だからっ」

お願いです、どうか、どうか。

「……おこらないで……」

ビク、とリュート様の手に力が入ったのがわかった。


ああ、やっぱりそうなんだ。……リュート様はあの日から、ずっと私に怒ってる。

どうすればいいんだろう、嫌われたくない。ここにいたい。


リュート様の顔を見るのが怖い。

でもここに……リュート様の傍に居られなくなる方が怖くて、泣きながら懇願する。


「し、しごと、もどりますっ、おろ、おろしてくださっ」

「ダメ」

リュート様はそのまま、私を抱えたまま足早に仮眠室に向かう。


ドサリと降ろされたそこは、リュート様の寝台だった。

「……ぇ、え?!」

しっかりと毛布でくるまれて、状況も忘れて真っ赤になる。


リュート様はどこまでも淡々としていた。

「医務室行きたくないならここで寝てな」

「そんなっ」

リュート様の寝台で寝るなんて畏れ多すぎる……!


「だ、大丈夫です、仕事しま……」

だんっ、とリュート様が私の顔の横に右手をつく。


「……これ以上、僕を怒らせたくないなら、寝な」


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