12-1
「サンビタリア、2班の資料なんだけど――」
「予算組用の成果報告書でよろしいでしょうか?草案こちらです。ご確認お願いいたします」
「……もうできたの?」
「はい。1班も昨年度の資料を参考に作成いたしました。3班以降については班長に一次確認を依頼中です」
「……そう、ありがとう」
「恐れ入ります」
朝起きて、鍛錬をして、いつもの流れをこなし、仕事をする。
余計なことを考えたくなくて、日中はただひたすらに仕事をこなす。
夜はこっそり仕事を持ち帰り、寮の自室で続きをする。
最近は深夜になっても不思議と眠くならず、仕事が捗る。
あの日は、あのままリュート様に寮に帰って休むよう厳命されてしまったので、それっきりだ。
リュート様はいつも通り淡々と仕事をされ……私との私語は、ほとんどなくなった。
私も、話を蒸し返すことも、実際のところどう思われているのか考えるのも怖くて、リュート様の顔がまともに見れないでいる。
いつもならリュート様の寝顔を見て元気になれるのに。
最近はあまり業務が立て込んでいないからか、私が声をかけるよりも先に、もう目を覚まされていることばかりだ。
――眼鏡越しでない赤茶色の瞳が見たいなと、ふと思った。
◇
「サンビタリアさん、少しいいですか?」
ウェンさんに小会議室に呼び出され、頭を下げられる。
「先日はありがとうございました。私のわがままで迷惑をかけてしまい申し訳ございません」
「……?」
思わず首をかしげる。私がご迷惑をおかけすることはあっても、ウェンさんから迷惑をかけられたことなどあっただろうか?
「先日のゼフトの件ですよ。怪我をさせてしまい本当に申し訳ありませんでした」
「ああ、あれですか……」
ようやく合点がいく。部長を護衛した件だったらしい。
「最初は、私がついて行こうとしたんです」
ウェンさんからの思いがけない一言に、目を瞬かせる。
「……ウェンさん、失礼ながら、あの」
「はい、貴女の思った通り、私には戦闘能力はありません。魔導技師なので術者としてのレベルも低い」
今でこそ部長補佐官を務めているウェンさんだけれど、もともとは6班の魔導技師だったそうだ。
もちろん、今まで荒事とは無縁の世界で生きてきたのだろう。
ウェンさんはテーブルの上で組んでいた手に力を込める。
「……それでもあの人の、ゼフトのために何かしたかったんです」
――ざわり、と胸の奥で何かが動いた気がした。
「でもね、一緒に行くと伝えたら怒鳴りつけられました。あんなに激昂した彼は初めて見た。それでも心配でどうにかしたくて、それで……サンビタリアさん。貴女を頼ったんです」
話してもらった内容が色々と信じられなくて、つい間の抜けた返事を返してしまう。
「……部長、怒鳴ることあるんですね……」
ふふっと笑うウェンさん
「ええ、私も驚きました……サンビタリアさん」
「はい」
改めて、ウェンさんは私をまっすぐに見る。
「何度も同じことを伝えてしまって恐縮ですが……ゼフトのこと、本当にありがとうございました」
そう言って微笑むウェンさんは、本当に綺麗だった。
「わたし、こそ…」
ウェンさんの優しい雰囲気に促され、口から言葉が出ていく。
「私こそ、ありがとうございました、ウェンさん。お声がけ頂いたおかげで、リュート様の大切な方を守れました」
リュート様とゼフト部長、ウェンさんが長い付き合いだというのは聞いていた。
あの時同行しなければ、部長は殺されていただろう。
私は確かに、リュート様を、少年期からの友人を亡くす悲しみから守れたんだと思えた。
……その結果、リュート様からどう思われようと、それは仕方ないことだ。




