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12-1

「サンビタリア、2班の資料なんだけど――」

「予算組用の成果報告書でよろしいでしょうか?草案こちらです。ご確認お願いいたします」


「……もうできたの?」

「はい。1班も昨年度の資料を参考に作成いたしました。3班以降については班長に一次確認を依頼中です」

「……そう、ありがとう」

「恐れ入ります」


朝起きて、鍛錬をして、いつもの流れをこなし、仕事をする。

余計なことを考えたくなくて、日中はただひたすらに仕事をこなす。


夜はこっそり仕事を持ち帰り、寮の自室で続きをする。

最近は深夜になっても不思議と眠くならず、仕事が捗る。


あの日は、あのままリュート様に寮に帰って休むよう厳命されてしまったので、それっきりだ。

リュート様はいつも通り淡々と仕事をされ……私との私語は、ほとんどなくなった。

私も、話を蒸し返すことも、実際のところどう思われているのか考えるのも怖くて、リュート様の顔がまともに見れないでいる。


いつもならリュート様の寝顔を見て元気になれるのに。

最近はあまり業務が立て込んでいないからか、私が声をかけるよりも先に、もう目を覚まされていることばかりだ。

――眼鏡越しでない赤茶色の瞳が見たいなと、ふと思った。



「サンビタリアさん、少しいいですか?」

ウェンさんに小会議室に呼び出され、頭を下げられる。


「先日はありがとうございました。私のわがままで迷惑をかけてしまい申し訳ございません」

「……?」

思わず首をかしげる。私がご迷惑をおかけすることはあっても、ウェンさんから迷惑をかけられたことなどあっただろうか?


「先日のゼフトの件ですよ。怪我をさせてしまい本当に申し訳ありませんでした」

「ああ、あれですか……」

ようやく合点がいく。部長を護衛した件だったらしい。


「最初は、私がついて行こうとしたんです」

ウェンさんからの思いがけない一言に、目を瞬かせる。

「……ウェンさん、失礼ながら、あの」

「はい、貴女の思った通り、私には戦闘能力はありません。魔導技師なので術者としてのレベルも低い」


今でこそ部長補佐官を務めているウェンさんだけれど、もともとは6班の魔導技師だったそうだ。

もちろん、今まで荒事とは無縁の世界で生きてきたのだろう。


ウェンさんはテーブルの上で組んでいた手に力を込める。

「……それでもあの人の、ゼフトのために何かしたかったんです」

――ざわり、と胸の奥で何かが動いた気がした。


「でもね、一緒に行くと伝えたら怒鳴りつけられました。あんなに激昂した彼は初めて見た。それでも心配でどうにかしたくて、それで……サンビタリアさん。貴女を頼ったんです」

話してもらった内容が色々と信じられなくて、つい間の抜けた返事を返してしまう。

「……部長、怒鳴ることあるんですね……」

ふふっと笑うウェンさん

「ええ、私も驚きました……サンビタリアさん」

「はい」


改めて、ウェンさんは私をまっすぐに見る。

「何度も同じことを伝えてしまって恐縮ですが……ゼフトのこと、本当にありがとうございました」

そう言って微笑むウェンさんは、本当に綺麗だった。


「わたし、こそ…」

ウェンさんの優しい雰囲気に促され、口から言葉が出ていく。

「私こそ、ありがとうございました、ウェンさん。お声がけ頂いたおかげで、リュート様の大切な方を守れました」

リュート様とゼフト部長、ウェンさんが長い付き合いだというのは聞いていた。


あの時同行しなければ、部長は殺されていただろう。

私は確かに、リュート様を、少年期からの友人を亡くす悲しみから守れたんだと思えた。


……その結果、リュート様からどう思われようと、それは仕方ないことだ。

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