11-2
「サンビタリア!」
ナイフが深々と私の腹部に刺さったと同時に、破裂音がして身体の中に衝撃が走る。
――刺さると同時に刀身を爆破し、破片を体内に飛び散らせる、殺傷能力の高い術式だ。
気にせず男に掌底と回し蹴りを繰り出し、昏倒させる。
ベスさんの助言通り、膂力向上を上げておいて正解だった。
索敵・感知系の術式の範囲を広げ、持ってきていた盾型の防護魔導具を起動。そのまま部長に声をかける。
「お怪我は?」
「お前がそれ聞くの……」
腹部の傷はもう塞いだ。体内に刃の破片が残ったままだが仕方ない。痛覚遮断と回復術式も回し続け、とにかく動く。
「通報した、護衛官が来る」
「待てません。馬車も対襲撃装備が足りないので捨てます。部長、移動系の術式は?」
「使える」
「であれば、魔術院敷地まで走ります。ご用意を」
「おまっ、その怪我で!?」
――感知。そのまま防護魔導具の盾で飛んできた攻撃魔術を防ぐ。
「傷は塞ぎました、問題ありません。ご用意を」
◇
その後も時たま攻撃魔術が飛んでくるが、そこまでの威力ではない。
街中だということもあるが、本命は最初のナイフだったのだろう。
魔術院の敷地に近づいた辺りで、真っ黒のマントを纏った体格のいい男性が立っているのが見えた。
迷わず声を張り上げる。
「班長!!!」
ゼフト部長の担当護衛官であり、『矛』のカイル班長だ。
班長は私の血だらけの軍服を見て豪快に笑う。
「おー、サンビタリア!相変わらず馬鹿だなお前!!」
「知ってます!部長をお願いします!!」
部長をカイル班長に引き渡そうとした時、最後の抵抗のように大きめの術式が飛んできたが、強固な防護術式がそれを防ぐ。
ベスさんの姿は見えないが、側に居るらしい。
そのまま技術部棟に班長と部長、私の3人で移動した。
無事部長を送り届けられたことに安堵していたら、班長に
声を掛けられる。
「サンビタリア、情報が欲しい。先に部長さんから聴取するからお前も着替えたら来い。あとその制服は証拠品だから持ってこい」
「はい」
本当は刃先を体内から除去したかったけれど、仕方ない。
急いで内勤用の軍服に着替え、技術部棟に取って返す。
棟の入り口で、ベスさんが私を待っていた。
「カレンちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です、ベスさん。これ証拠品です。あの……聴取まで仕事とかしててもいいですか?」
半日以上外出してしまったので、補佐官の業務がほとんど出来ていない。急ぎの連絡だけでも確認したいし、隙を見て刃先の除去もしてしまいたかった。
「うーん。ちょうどそろそろ部長さんの聴取が終わる頃だし、聴取をさっさと終わらせてから、業務に集中なさいな」
「わかりました」
少しだけ足元がふわふわする。魔力を消費しすぎたらしい。……痛覚遮断と回復術式、いつまで保つかな。
◇
「ゼフト!よかった、無事で……」
僕がいることも気にせず、ウェンが聴取を終えたゼフトの手を握り、自分の額に押し付ける。
襲撃通報を受けた時のウェンの取り乱し方は酷かった。
あまりの様子に他の技術部員に見せるわけにはいかず、待っている間はずっと顧問室に居させたくらいだ。
「心配させて悪かったな、ウェン。リュートも、こいつの面倒ありがとな」
ゼフトから声を掛けられ、肩をすくめる。
ウェンほどではないが、兄貴分だと思っているゼフトの命が狙われている事実に生きた心地がしなかったのは僕も同じだ。
元気そうな姿に安堵した。
廊下へと続く方の扉が開き、サンビタリアが女性護衛官と入室してくる。
いつも通りの彼女の様子に肩の力が抜ける――が、ゼフトは何故か心配そうに顔を歪めて彼女に声をかけた。
「サンビタリア、大丈夫か?傷は?」
「ふふっ、大丈夫ですよ!荒っぽくなってしまって申し訳ございませんでした」
「はいはーい、部長さんが終わってるならカレンちゃんの番!仕事戻りたいなら聴取急ぐ!」
バタバタと小部屋に押し込まれるサンビタリアを見て、複雑そうなゼフト。
どうしたのかと声をかけようとしたが、その前に視界の端に赤黒いものが見えた。
「……なに、それ……?」
自分の声が掠れているのがわかる。
女性護衛官が袋から取り出し検めていたのは、血でべったり濡れた女性用の軍服だった。
女性護衛官が当たり前のように話す。
「ああ、これはサンビタリアから預かった証拠品です。刃先の形状などを調べたくて……あら、切り口が腐食してる。毒かしら?」
あれ全部、あの子の血……?
脳が理解を拒み、混乱し始めた瞬間――隣の部屋から怒号が響いた。




