11-1
冬の寒さも和らぎ、だいぶ暖かくなったある日の朝。
顧問室の扉が勢いよく開く。
「サンビタリアさん、元護衛官でしたよね……!?」
真っ青な顔をしたウェンさんが、鬼気迫る様子で、早足で私に歩み寄る。
「ウェン!やめろ!」
続けて苦虫を噛み潰したような顔のゼフト部長が入室してくる。ウェンさんを追いかけて来たらしい。
「サンビタリアはリュートの補佐官だ、そんな真似――」
「ですがゼフト!貴方どうするんです!?」
こんなに取り乱しているウェンさんを見たのは初めてだし、お二人が口論しているのも初めて見る。
圧倒されてぽかんとしていたら、リュート様が間に立った。
「ウェン、ゼフト。一旦落ち着いて。サンビタリアはお茶淹れて」
◇
「あと数ヶ月で聖女研究の発表会だろ。何かと物騒になってきて、最近は外出時に護衛官が派遣されてたんだ」
「……聞いてないけど?」
ゼフト部長が何でもないように言うと、リュート様の声色が揺れる。
「ま、お前に言ったら動揺するって分かってたからな。心配かけても仕方ねぇし」
ゼフト部長は苦笑混じりで言葉を続ける。
「んで、今日もこの後、外部会議があるんだが……何故か護衛官の同行許可が降りなかった」
「……は?」
それは、なんというか……。
「それでウェンが取り乱したって訳だ。悪かったな騒がせて」
「ゼフト……!」
ウェンさんから非難じみた声が上がる。
なるほど、つまりそういう事らしい。多分これが一番早い解決策だろうと思い、自分から口を開く。
「えぇと、私でよければ同行しましょうか……?」
◇
寮に戻り、古巣から持って来ていた装備を確認し、身に付ける。
外勤用の軍服に着替える。本当は護衛官の制服が良かったが、返却してしまったので仕方ない。
準備を整え技術部棟に向かう途中、見知った顔を見かけた。
「副班長……」
豊かな金髪のたおやかな美女。護衛官時代に所属していた班の副班長だ。
「久しぶりねカレンちゃん。私たちの代わりに、貴女が同行するんですって?」
「はい、どこまでお役に立てるかわかりませんが」
一緒に技術部棟まで歩く。前の職場の上官とこの道を歩くのは、なんだか落ち着かない。
「ああそうだ、カレンちゃん、ここ、思いっきり殴ってごらんなさい」
そう言うと、副班長――ベスさんが手に防御術式を展開したので、指示に従う。
ベスさんは『盾』の中でも最高峰の防御術式の使い手、私程度が本気で拳を繰り出してもビクともしなかった。
「うーん……流石に筋力が落ちてるわね。膂力向上は昔より4段階上げなさい」
「はい」
「今回は『矛』がいない。意味がわかるわね?」
護衛官は『盾』と『矛』の2人1組が基本だ。
『盾』が護衛対象の守りと回復支援、『矛』が状況打破や脅威の排除を行う。
今回は私一人で、全てをこなさなければならない。
「――はい、やれます」
◇
「サンビタリア、悪いな……」
馬車の中、ゼフト部長が申し訳なさそうにしている。
「一応、襲撃があったら護衛官の二人に出動許可が下りるようにはなってる。だから、お前は最低限でいいからな」
ゼフト部長は私を巻き込んだことを気にしているらしい。
「どうか気になさらないでください」
あまり私を気に掛けられると任務に支障が出るので、苦笑で返す。
「それより、同行の許可が下りなかった、とは?」
「なんでも今回の会議場には、護衛官の立ち入りは相応しくないんだと。そういう意味では、お前さんは顧問補佐官だから全く問題はない」
「なるほど……」
相槌を打ちながら、対物理・対魔力・対精神の複合防御術式を展開する。同時に感知系の術式を、馬車の周囲に張るのも忘れない。
「……すごいな」
「はい?」
「陣の範囲と強度、同時起動の精度が高い」
「これくらい『盾』なら当然ですよ」
そう返すと、ゼフト部長の顔が曇る。
「やっぱりお前、『盾』だよなぁ……無茶すんなよ?」
「大丈夫です、無茶はしませんから」
「……『盾』の普通は、常人には無茶だからな?」
◇
何事もなく会議が終了し、技術部に戻るため裏の馬車寄せに向かう。
馬車を待っていたら、向こうから職員らしき男が歩いてくるのが部長越しに見えた。
その歩き方があまりにも自然すぎて、部長と男の間に立とうとした瞬間――男が駆けた。
脚力向上を施しているのか、異常な速度で近づいてくる。
迷わず部長を突き飛ばし、男と部長の間に割り込んだ。




