10-2
扉を開くと、7班の女性技術部員だった。
「サンビタリアさん、先日はごめんなさい」
そう言って私に手渡された可愛らしい包みは、クッキーのようだった。しかし、何の心当たりもない。
「……なにかありましたっけ?」
「この間の実験よ!私が記述ミスしたせいで、本当にごめんなさい」
「……ああ!あれですか」
ようやく何の話か理解する。7班で開発中の新規術式の起動実験で、軽く火傷をしたことを思い出した。
「ふふっ、あの程度大丈夫ですよ!むしろ気を遣わせてしまって申し訳ございません。私もきちんと読み込んでから起動するべきでした」
「そんな――」
「何の話」
入り口で立ち話をしていたら、リュート様がわざわざ席を立ち、こちらに来ていて驚く。
「あっ、リュート様。騒がしくしてしまい申し訳――」
「いいから、何の話」
どうしよう、なんだかリュート様がいつもより怖い。
そんなことを思っていたら、7班の方が勢いよく頭を下げた。
「先日の実験でミスがあり、サンビタリアさんに怪我をさせてしまいました。本当に申し訳ございません」
「……へぇ」
「あ、あの、本当に軽い火傷でしたし、すぐに治癒したのでほんの数秒の出来事ですから……」
ああ、どうしよう。見ていられなくて口を出したけど、言葉を重ねれば重ねるほど、リュート様の眼光がどんどん鋭くなる。
7班の方と沙汰を待っていると、リュート様は軽く息を吐き出す。
「……次やったら、サンビタリアは二度と貸さない。サンビタリアも、実験中の事故は事故、小事と決めつけないで必ず僕に報告して。わかった?」
「は、はい!申し訳ございませんでした……!」
リュート様の仰る通りだ。
私が安全管理上の報告を怠ってしまったせいで、リュート様を怒らせてしまったし、7班の方にも謝らせてしまった。
どうしていつも、うまく立ち回れないんだろう。
◇
お昼休憩。
あまり食欲が湧かず、丁度いいのでさっきのクッキーを食べる。サクサクしていて美味しい。
ふぅ、とため息をひとつ落とす。
あの実験の時、痛覚遮断を起動したまま臨んだのは失敗だった。痛覚が生きてれば火傷したことなんて誰にも気付かせずに治して、記述ミスだけ伝えられたのに。
そんなことを考えながらぼーっとクッキーを眺める。
……いつだったか、リュート様は焼き菓子が苦手と仰っていたことを、ふと思い出す。
なんでも練り込めてしまうし、簡易の鑑定術式では見抜きづらい素材もあるため、体が勝手に緊張してしまうそうだ。
いつか。
クッキーじゃなくていい、何か作って差し上げたいな。
そんなことを一瞬考え、すぐに握り潰した。
お茶を飲んでいただけて以降、なんだかすっかり欲張りになってしまったな、と自嘲する。
――リュート様のために、私に出来ることは何だろう。
お力になりたいのに、至らない補佐官で申し訳ない。
気持ちばかり大きくなって、いつまで経っても実力が伴わない。
努力しなきゃと思うのに、何を頑張れば良いのか分からない。
それでも、あの方の傍にどうしても居たい。
リュート様のお役に立ちたい。誰にも迷惑をかけたくない。
そんなことを思いながら、隣に置いていた教本を手に取った。




