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10-2

扉を開くと、7班の女性技術部員だった。


「サンビタリアさん、先日はごめんなさい」

そう言って私に手渡された可愛らしい包みは、クッキーのようだった。しかし、何の心当たりもない。


「……なにかありましたっけ?」

「この間の実験よ!私が記述ミスしたせいで、本当にごめんなさい」

「……ああ!あれですか」


ようやく何の話か理解する。7班で開発中の新規術式の起動実験で、軽く火傷をしたことを思い出した。

「ふふっ、あの程度大丈夫ですよ!むしろ気を遣わせてしまって申し訳ございません。私もきちんと読み込んでから起動するべきでした」

「そんな――」


「何の話」


入り口で立ち話をしていたら、リュート様がわざわざ席を立ち、こちらに来ていて驚く。

「あっ、リュート様。騒がしくしてしまい申し訳――」

「いいから、何の話」


どうしよう、なんだかリュート様がいつもより怖い。

そんなことを思っていたら、7班の方が勢いよく頭を下げた。

「先日の実験でミスがあり、サンビタリアさんに怪我をさせてしまいました。本当に申し訳ございません」

「……へぇ」

「あ、あの、本当に軽い火傷でしたし、すぐに治癒したのでほんの数秒の出来事ですから……」


ああ、どうしよう。見ていられなくて口を出したけど、言葉を重ねれば重ねるほど、リュート様の眼光がどんどん鋭くなる。


7班の方と沙汰を待っていると、リュート様は軽く息を吐き出す。

「……次やったら、サンビタリアは二度と貸さない。サンビタリアも、実験中の事故は事故、小事と決めつけないで必ず僕に報告して。わかった?」

「は、はい!申し訳ございませんでした……!」


リュート様の仰る通りだ。

私が安全管理上の報告を怠ってしまったせいで、リュート様を怒らせてしまったし、7班の方にも謝らせてしまった。

どうしていつも、うまく立ち回れないんだろう。



お昼休憩。

あまり食欲が湧かず、丁度いいのでさっきのクッキーを食べる。サクサクしていて美味しい。


ふぅ、とため息をひとつ落とす。

あの実験の時、痛覚遮断を起動したまま臨んだのは失敗だった。痛覚が生きてれば火傷したことなんて誰にも気付かせずに治して、記述ミスだけ伝えられたのに。


そんなことを考えながらぼーっとクッキーを眺める。

……いつだったか、リュート様は焼き菓子が苦手と仰っていたことを、ふと思い出す。

なんでも練り込めてしまうし、簡易の鑑定術式では見抜きづらい素材もあるため、体が勝手に緊張してしまうそうだ。


いつか。

クッキーじゃなくていい、何か作って差し上げたいな。

そんなことを一瞬考え、すぐに握り潰した。

お茶を飲んでいただけて以降、なんだかすっかり欲張りになってしまったな、と自嘲する。


――リュート様のために、私に出来ることは何だろう。

お力になりたいのに、至らない補佐官で申し訳ない。

気持ちばかり大きくなって、いつまで経っても実力が伴わない。

努力しなきゃと思うのに、何を頑張れば良いのか分からない。


それでも、あの方の傍にどうしても居たい。

リュート様のお役に立ちたい。誰にも迷惑をかけたくない。

そんなことを思いながら、隣に置いていた教本を手に取った。

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