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10-1

朝、まだあまり忙しくないのに起きると頭痛がする。


回復術式を使ってもすぐに再発するので、最近は痛覚遮断を使っている。

寮の中庭で基本の型をなぞる。

痛覚遮断したままのそれに、護衛官時代を思い出して少し懐かしい気持ちになった。


日課をこなして技術部棟に向かう。

今日のスケジュールは何だっけ……いつもなら当たり前に頭に染み付くはずの予定が、最近はあまり入らないのでメモが増えた。


顧問室に入り、いつもの流れをこなす。

時間になってもリュート様が起きてこないので仮眠室の扉をノックする。

返事がない。


こういう時は中に入って起こしていいことになっているので、そっと扉を開く。

相変わらず仮眠室も本で埋まっており、リュート様は本棚の一画で寝ているようにすら見えた。


起こそうと近づいたはずなのに、リュート様の寝顔を見て、つい微笑んでしまう。


眠っていて力が抜けているからか、いつもの無表情よりも幼く見える。

眼鏡を外しているので、睫毛が長く端正な顔立ちであることがよくわかる。


リュート様が寝てる間、ほんの少しでいいから。

――見つめることを、どうか許してほしい。


とはいえあまり見ては失礼だろうと、数秒で頭を切り替え声をかける。

「リュート様、おはようございます!朝ですよ」

身じろぎをして目を覚ますリュート様。


ふるり、と震える睫毛が、ゆっくり開かれる瞳が綺麗だなと、いつも思う。

「おはよ……サンビタリア」

「おはようございます、リュート様」

当たり前のようにこの方と過ごせる日々は、なんてしあわせなんだろう。



「1班も2班も結構な無茶振りだったのに、日報きっちり書いてくれてる」

「ふふ、リュート様が足繁く通われたからでは?」

リュート様が私の淹れたお茶を飲みながら日報を読む。

手の震えや躊躇いはすっかりなくなっており、信頼してくださっているようで嬉しい。


「今日はクルーゼ嬢が来所予定だって」

「はい、先日の改良型術式との比較検証と聞いています」

リュート様が私を見て問う。

「……本当にお姉さんと会わなくていいの?」


先日、お姉さまが来た時のことを思い出す。

リュート様とお姉様、お二人はとても柔らかい雰囲気で、お姉様は嬉しそうだった。

お姉様はきっと、私がいるとあの笑顔を見せてくださらない。


「実は、その……幼い頃に私が粗相をしてから、会わせる顔がないといいますか……」

「……そうなの?」

リュート様が訝しむような声をあげる。


「はい、子どもの頃、粗相をしてお客様を怒らせてしまったことがあって……小さくてよく覚えていないのですが、そのせいでお姉様がとてもお怒りだったことは覚えています」

本当に当時の記憶は朧げで、それでも姉が泣きながら何か叫んでいたことだけは覚えている。


「それ以来、面と向かってまともにお話もして頂けないんです。……本当に、なにやったんでしょうね、私」

思わず力なく微笑む。

私はいつもこうだ。何かしようと頑張って、空回りして、結局迷惑をかける。


――貴様が役立つことなどあるわけがないだろう。外に出て恥を晒すな――

――火にくべて燃料にしても匂いそうだしぃ、ねえ、お前、何の役ならたつの?――


親族達の声が脳内に響く。

――私は本当に、ただの役立たずだ。


「サンビタリア?」

ハッとして顔を上げると、リュート様がこちらを見ていた。表情こそ淡々としているが、目の奥に心配の色が見てとれる。


ああ、またやってしまった。


にこりと微笑み、頭を切り替える。

「失礼致しました、リュート様は今回不参加でよろしいのですか?」

「……うん、必要があれば行くけど、いまのところわざわざ行く必要もない。むしろ査読が溜まってるからやらないと」

「かしこまりました」


リュート様が査読をし、私は日報をまとめて綴じ、関係書類の作成やスケジュール調整などの事務作業を行う。

久しぶりに日常が戻ってきた気がするな、なんて思っていたら顧問室の扉がノックされた。

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